第226話 神様の慈悲


『コウタ・ユウキ・・』



「はいよ」


 俺は痛む体をさすりながら、声の主に顔を向けた。

 そこに、司精霊が浮かんでいた。



『驚かない?』



「体が痛くて驚けない」



『私が、"ことわり"の疑似的人格』



「無愛想だね」



『"ことわり"に愛想は要らない』



「・・それで?」



『私を破壊できた。なぜ、しなかった?』



「俺は、この世界の復興をやりたい。"ことわり"が壊れると、すべてを自分でやらないといけなくなる。でも、"ことわり"が無事なら、全体を調整しながら環境の管理ができるでしょ?」



『できる』



「そもそも、"ことわり"を壊す気なんか無いのに、喧嘩売ってきたのは、そっちだからな?」



『多くの神を・・管理体を消滅させた』



「喧嘩を売ってきたからな」



『破壊神は世界を滅ぼす』



「俺は人間よ?」



『酷い嘘』



「嘘じゃ無いですぅ、ボクはニンゲンですぅ」



『人間は神に勝てない』



「・・まあ、不毛だから止める。正直、俺もちょっと・・人間辞めちゃったかなぁって思ってるし」



『神も辞める勢い』



「神じゃないし」



『コウタ・ユウキは何を望む』



「"ことわり"には、世界の自然環境だけを管理し、護って欲しい。人間には関わるな」



『知的生命体の保護は私の任務』



「保護の方法は一つじゃ無い」


 俺は、傷が癒えてきた体の具合を確かめながら立ち上がった。これなら、もう一戦やっても勝てそうだ。

 ちらっと視線を、断罪神の死骸へと向ける。もう、蘇生はしないらしく、体が崩れ始めていた。


「俺の案を聴いてくれない?」


 俺は、無愛想な精霊に笑顔を見せた。



****



「お前という奴は、どこまでも予想の上を行きおるな」


 月光の女神様があきらめ顔で笑った。


「いや・・当初の予定通りです」


 俺は胸を張った。


 嘘です。

 まさかの展開でした。でも、結果オーライ。


 "ことわり"との協定を結ぶことが出来たし、この惑星の環境設定について細かい打ち合わせも出来た。

 何より、俺の描いた"世界"を創造していくことに"ことわり"が協力してくれる事になった。


「・・で、管理をしろと?」


「よろしくお願いします」


「まあ・・破壊神殿に頼まれては・・な」


「女神様? 俺は人間ですよ?」


「"ことわり"より通達を受けている。自ら破壊神を襲名したとな」


「・・あいつ、誰にも言うなとか言っておいて、自分でべらべらしゃべってんじゃん」


「ついでに、魔王もやるのだろう?」


「はい。しばらく、魔王ごっこをやってみようと思います」


「ふむ・・で、こやつらは?」


 女神様が後ろ手に縛り上げられ、魔封じの猿轡さるぐつわを噛まされた4人を流し見た。

 アズマ、カミジョウ、ホンゴウ、オオイシの4人である。

 ボコられてプライドも何も粉々になり、昏い顔で座り込んでいる。光神から貰った加護は消え去り、ついでに、この世界に来た時に貰った加護まで失ったのだから、まあ、色々と切ない状況下にある。


「選ばせてみようかと思って」


「・・なるほど」


 女神が苦笑気味に笑みをこぼして口を噤んだ。


「さて・・予定があるから手短に」


 俺は4人の前にしゃがんだ。


「俺、君達に何回裏切られたっけ?」


 順番に顔を見ていく。


「まあ、今さらぐちゃぐちゃ言わないけどさ?」


 猿轡さるぐつわと捕縄を解いてから、改めて4人の顔を見回した。


「ホンゴウさんは、まともな人だと思ってたけどなぁ」


「・・すまない」


 ホンゴウが項垂れた。


「まあ、アズマやカミジョウさんはね・・でも、オオイシさんってこんなキャラだったっけ?」


「強くなりたかった。それだけ」


「ふうん・・で、強くなった?」


「・・加護が全部消えたわ」


「神様が死んじゃったからねぇ」


「ユウキ、お前は何をやっているんだ?」


 アズマがいてきた。


「神話ふうに言うと、創世の手伝いかな」


「創世・・」


「せっかく面白い世界なのに、隕石降ったりして滅茶苦茶になったからね。世界を復興させないと駄目でしょ?まあ、4人が残念な人だというのは分かった。まさか、同じ高校のマリコを攻撃するとは思わなかったよ。あれは、さすがに酷いね」


「・・言い訳はしない。だが、クロカワはすでにノルダヘイルの一員だ。攻撃されることは覚悟していただろう」


 アズマが言う。


「う~ん・・何て言うか、おまえ達って悪魔だよね? 顔見知りだからって、ちょっと挨拶しようとしたマリコを、まだ敵対もしていない内から殺しにかかったんでしょ?」


「・・そうよ」


 カミジョウが言った。


「敵対することが決まっていた。奇襲攻撃を非難されるいわれは無い」


「・・本気で言ってる?」


 俺は呆れ顔でき返した。


「戦争だろう? 光神とお前達の・・俺達は光神側だった。マリコは、お前の側だった。敵を攻撃して何が悪い?」


「アズマ、お前・・」


「ユウキだって、二条松高校の人間を大勢殺しただろう?」


「主に、お前達を助けるためにな」


 俺は嘆息した。

 なんか、幼児を相手にしている徒労感です。


(前は、もっとマシだったのになぁ・・)


 同じ異世界人として、少しばかり気に掛けていたんだけど、これはもう無理だ。

 俺を狙ってくるなら良いけど、同じ高校の女子を4人がかりで攻撃しておいて、コレですか。戦争がどうとか言ってますけど・・いつ、どこで戦争をやりましたか? もし戦争があったとしても、何をやっても良いって事にはならないでしょ?


「コウタ、決まったか?」


 月光の女神様が冷え冷えとした声を掛けてきた。

 うん、この女神様は、アズマ達のようなタイプが嫌いなんだよねぇ・・。ヨク、ワカリマス。


「さすがに、ここには置いておけないですね」


 俺は今後の手順を頭の中で組み立ててみた。


「俺を殺すのは良い。だが、シズカ・・ホンゴウやオオイシは助けてやってくれ」


 アズマが何やら言っている。


「ああ、そういう、悲劇のヒーローごっことか要らないんで黙って。ええと、死ぬ予定だった人間が、こちらの世界に送られた事は知っているんだよね? つまり、二条松高校のバスが丸ごと事故か何かで死んじゃう予定だったんだけど・・」


 ちらとネタを振ってみる。まあ、知ってても知らなくても、どっちでも良いよ?


「何だ、それは・・」


「そんな事・・どういう事なの?」


「本気で知らないの?」


 適当なあいの手を入れつつ考えをまとめた。どうやら出来そうかな?


「だ、だってそんなの・・誰も教えてくれなかった!」


 カミジョウさんが駄々だだっ子めいたことを言ってらっしゃる。


「うん、学校じゃ無いから、自分で調べないと、誰も何も教えてくれないね。まあ、知的生命体を保護するために、別の文明を築いている知的生命体との交流が行われています。この惑星に神様が居るように、地球にも同じような神様が居て、時々、死期が定まった人達を交換するそうです。で、二条松のみんなは死んだところで、こちらに連れて来られました。ここまでは理解できる?」


 俺が、1ミクロンの義理も無いのに、懇切丁寧に説明しているって分かってるかなぁ? 君達のために、滅茶苦茶時間をロスしてるんだけど・・。


「・・理屈としては」


 一見すると賢そうな顔でアズマが頷いた。


「俺は、みんなは一度ここに来た時点で、地球の神の記録上は死んだ事になったと思う。で、ここからは完全に憶測なんだけど、今、地球へ戻れば、死期とかリセットされてるんじゃないかな?」


「可能性は・・あるかな」


「もちろん、やっぱり死ぬかもしれないけどね?」


「そんな事はどうだって・・」


「その危険を理解した上で、地球に帰りたいのなら、送り届けてあげよう」


 これが本題。この子達、地球へ遺棄ポイしちゃいましょう。


「・・できるの!?」


「便があるんだ」


 俺は笑顔で頷いた。


「乗せてもらえる? 私、帰りたい!」


 予想通り、カミジョウさんが一番に飛びついた。うん、知ってた。


「リスクは理解した?」


「・・だって、今も死んでるようなものだから」


「アズマは?」


 カミジョウさんとデキてるんでしょ? どうすんの?


「・・だまして楽しんでいるんじゃ無いのか?」


 疑わしそうにこちらを見る。なんという残念な子でしょう。


「俺がお前に構ってやるのは、これが最後だからね。オオイシさんは?」


 悔しいくらいに背丈のあるスレンダー美人さんを見る。


「戻った途端に死ぬかもしれないんだよね?」


「そのまま生きるかもしれないけどね」


「じゃあ、私はこっちに残る」


 ・・マジですか。帰った方が良いんじゃないの?


「ホンゴウさんは?」


「・・残るわ」


 何なの君達・・残るんなら、どうして俺の邪魔とかやってんの? とっとと荷物まとめて、世直しの旅に行けば良いじゃんか!


「で、アズマは?」


「俺は・・帰りたい」


「おっけぇ~」


 どうもありがとう。まあ、アズマ&カミジョウを平和裡に放逐バイバイできたことで良しとしましょう。


「女神様、そういう事なので、アズマとカミジョウの2人を送還します」


「分かった」


 月光の女神が繊手を振ると、アズマ、カミジョウが意識を失って倒れた。


「ええと、2人を容器に詰めて、運んで・・あぁ、リュードウに交渉しないと・・っと、マリコにも意思確認して」


 俺はブツブツ言いながら、


「理さん、カモン!」



『なに?』


 ビジネススーツ姿の小学生低学年があらわれた。



「この2人が生きたまま地球へ行ける容器が欲しいんだけど」



『星系間睡眠床筒で良い?』



「それって、何かの装置とかに繋がないと駄目?」


 それだと、リュードウが嫌な顔をする未来しか見えませんが・・。



『独立稼働型』



「素晴らしい」



『2つで良い?』



「はい」



 俺が頷くのと同時に、長さ3メートル弱のカプセルベッドが出現した。



『開ける』



 カプセルのふたが開かれた。



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