第225話 コウタ vs 断罪神
ん・・?
視界が微かに揺らいだ気がして、ふと周囲を見回すと、すでに見知らぬ空間になっていた。
(なんか、凄いね)
俺って、まあまあ強くなっているんだけど、有無を言わさず強制的に転移できるのか。
白い硬質な床が広がる空間だった。果ては見えない。
もしかしたら、この床の下も同じような感じ?
正面、100メートルほど先の方には円台のようなものがあり、俺が・・いや、俺にそっくりな誰かが槍を手に腰掛けていた。
(あぁ・・そのパターンね)
俺のコピー的な? よくある強敵パターンだよねぇ・・。
まあ、俺が道着に胴丸一つという軽装なのに対して、あちらさんは黄金色の甲冑を身につけていらっしゃる。
顔は・・。
(なんだか、お肌が輝いてらっしゃる)
ちょっと、こう・・言いたく無いんだけど、本気で美少女です。
(いや、もうね・・自分の顔なんで、自虐で言わせて貰いますけど・・)
どんだけ女顔なのかと。
(・・って、あれっ?)
んんっ?
(おかしいですよ?)
まだ、お互いに距離はあるんだけど、ちょっと向こうの方が身長が高いような? いや、そんな馬鹿な事が・・。
俺は
相手は同じく槍を手にしている。でも、鎧と同じような黄金色をした槍だった。
「やあ、こんにちは」
にこやかに声を掛けると、
「コウタ・ユウキか・・我は、断罪の神である」
黄金甲冑姿の俺・・っぽいけど、何か違う感じの相手がゆっくりと立ち上がった。
「げ・・」
こいつ、俺より背が高ぇ・・。
しかも、さっき思ったんだけど、何か声がちょっと変・・。
「うぅん・・あのさぁ、あんたって、俺を真似たんだよね?」
「いかにも」
「・・いやぁ、駄目でしょ。俺より背が高いとか、失敗作でしょ? さっさと作り直してよ」
ふざけんじゃない! ちゃんと、きちんとコピーしろよっ!
「多少の差違はある」
「多少じゃないじゃん! それ、5センチは違うよね!?」
「
断罪の神が長い黒髪を
「あのさぁ、もしかして・・いや、無いとは思うんだけど、もしかして・・女・・じゃないよね?」
仕草も・・声も何だか、女っぽいんですけど?
「いかにも、女型である。そこは違えず造作を行った」
「・・・お前は、完全に俺を怒らせた!」
俺は、
「断罪の神である。対象の身と同様の姿をとっているが、身体の能力差は圧倒的であると知れ」
さあ来るが良い・・と、断罪神が黄金の槍を小枝のように体の左右で振ってから、俺とよく似た構えをとった。
同時に、俺は前に出ていた。
真珠色の槍と、黄金色の槍が交錯する。
突き出した穂先が互いに擦過して上方へ逸れ、身を捻りながら斜めに振り払う槍が打ち合わされ、続けて繰り出した石突きが正面から咬み合って激しく音を鳴らす。
(・・こいつ)
ほぼ同じ動きをした。
(身につけた技までコピーとか? まんま、漫画に出てくる試練っぽい敵じゃんか)
俺が感触を頼りに分析をしていると、その間を
それは、俺が敵に浴びせている技・・。威力が凄まじいのは分かりきっている。
だけど、
(上等っ!)
俺は一歩も退かずに迎え撃った。
槍穂を合わせるように同様の連続技を放ち、強く跳ね返す。
肩に腰に、槍の重みが返り、体が
直後、不意に突いて出た槍穂が弧を描いて跳ね上がり、代わって地面すれすれから石突きが襲って来た。
間一髪で後ろへ跳んで身を丸め、宙返りをして舞い降りる。
「ふん・・」
額を掠めたらしく、擦過した額のどこかから血が流れるのを感じた。
追って前に出ようと断罪神が槍穂を下げるようにして突っ込んでくる。同じく、俺も
穂先を受け流すのでは無く、真っ向から切っ先を突き合わせる。身を捻れば身を捻り、旋回して槍柄で打ち払えば、同じく打ち払い・・。
俺は、断罪神の動きをそのまま
俺の眼は、断罪神の動きを見つめ続け、俺の耳は拾える総ての音を捉えて分析を続けた。
(・・こいつ、純粋に肉体の技しか使っていないな)
俺をコピーしたなら、髪を伸ばして武器にしたり、模倣技を繰り出したりできるはずだろう。どうして、それをやらない?
(いや・・)
押しきられるギリギリで耐えて、右へと回り込みながら、俺は低く足下を狙って
前へ・・前へ・・
互いに、完全に槍の間合いに入って撃ち合う。
こちらの槍穂は弾かれ、柄は受けられ、石突きは回避される。対して、断罪神の槍はわずかずつだけど、俺の道着を引っ掻き、肌を裂き、柄は受けきれず、石突きは時折当たって
だけど・・。
「・・ふっ!」
鋭く
("
俺は、
「何の真似だ?」
断罪神が
「どうして、他の技を使わないのかな?」
俺は
「・・何を言っている?」
槍をどう動かそうと、体をどう振り、どこへ動こうとも、先を抑えて前もって追従する。
「所詮は機械・・管理装置ってことか」
俺は、リュードウの言っていた事を思い出した。
"
つまり、そういう事なのだ。
「さあ、お勉強の時間だ。しっかり、俺の技を学んでくれたまえ」
「なにを・・なぜ、離れん! 槍で戦えっ!」
断罪神が苛立ちを声にする。
「嫌ですぅ、これも戦いですぅ」
伸ばせば手が触れる距離を維持したまま、断罪神の動きを五感全てで観察し、まるでダンスでも踊るかのように断罪神に
(・・感情はあるんだな)
"
他の神々のように、オリジナルの精神体があるという感じじゃなく、俺という生き物を、強化した生き物としてコピーしたもの。
そして、恐らく・・。
「ここで俺が使う技、能力とかも写し取るんだろうね?」
より強い能力を使えば同じものを、技を使えば同じものを、それぞれ少しずつ強化して断罪神に習得させる。
この空間は、そういう場所らしい。
半分以上は推察・・でも、大きくは外していない。
「いい加減に・・離れろっ!」
苛立ちながらも、繰り出してくる技は同じ槍技ばかり。
俺を観察している"
俺は、神様のおかげで超高校級の合気道の達人ですよ。結んだ状態を維持し、断罪神が自分で動いているようで、実際には俺が導いたように体を動かしている。
結んで、導き、そして崩す。ごく基本的な動きだけど・・今の俺がやると凄いんですよ。まあ、"
(この世界には無いものは写せない・・というか、逆に"
だから"
(確かに、どんなに強くても、この仕組みなら
俺を
そして、断罪神・・お前には心音がある。
いや、目の前の断罪神にあるのは、俺の心音そのもの。
(これじゃない)
これは攻撃したらヤバいやつだ。
死線を潜ってきた俺の直感が教えている。
(ほぼ同じ位置で、ほんの微かにズレて存在している)
そちらの音は初めて聴く音だ。
(さあ、合気道ごっこを終わりにしようか)
俺は手にした
「霊刻、第九紋、解除・・」
試しに呟くと、
(・・よし!)
これで勝ち筋は見えた。
二度は使え無い。使え無くされる。
だから一撃で決める。
霊刻解除を進めながら、俺は断罪神の心音を聴きつつ、その位置に意識を集中していた。
「なんだ・・その槍は?」
断罪神が眉間に
「む・・なるほど、槍の性能を上昇させているのだな」
「そうだよ? 珍しいかな?」
「・・いや、我にも出来るようだ」
そう言った断罪神の黄金槍が同じように震動を始めた。
やっぱり真似っこできるんだ?
この技は、神様に貰ったものだからね。
この世界の生き物が出来る技も、この世界に存在するあらゆる魔法も・・。それらを俺が使えば、それ以上の威力で断罪神が使えるようになる。
(そして、この心音・・)
ありがちな罠だけど、こうして戦いながらだと気が回らないよね。
「俺、もうちょっと演技上手よ?」
槍の柄を打ち合わせたまま間近に断罪神を見つめる。ちょっと見上げる位置関係には色々と言いたいが・・。
「む?」
断罪神が微かに小首を傾げた。
「霊刻、第一紋、解放完了」
ひっそりとした笑みを浮かべつつ、俺は入身で死角へ身を入れつつ、裏から鎧の襟首を指に掛けるなり床へ投げ落とした。
「がっ・・」
短く苦鳴を漏らした断罪神が転がったが、まあ、こんなの痛く無いよね。
だけど、
「さよならだ」
俺は断罪神の心音めがけて愛槍を繰り出した。
まさにその瞬間、
「魔兎の宙返り!」
断罪神が鋭く叫んだ。致命の攻撃を受ける瞬間に、この模写技を使う・・そのために、模写技を封印していたのだろう。でも、演技力不足でした。
気付いてたし?
「魔兎の宙返り」
俺も同じ技を繰り出した。
これで槍は刺さる。
だけど・・ね?
「月兎の光霊毛」
瞬時に、光霊体と化すなり、俺は真珠色に輝く
一秒にも満たない間の攻防だった。
これを予測し準備していた俺と、未知の技に手を焼いて計算しきれなかった断罪神・・。
たぶん、こいつは"
コンマ数秒、あるいはもっと短い時間だけど、動きが遅れる。その瞬間を、第一紋まで霊刻解放した
直後、
「カンディルパニック!」
今度は俺が先に模写技を使った。
精神を攻撃する無数の槍穂に襲われて断罪神が激しく身を悶えさせて海老のように仰け反った。
それを見下ろしたまま、
一角尖・・
破城角っ!
俺は自慢のコンボ技を叩き込んだ。
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