第222話 トモダチ


「我が使徒だとっ!? 何を寝言を言っているのだ!」


 タケシ・リュードウが怒声を張り上げた。

 居並ぶ宝石人形達がびくりと肩を竦める中、


「まあまあ、タケシくん」


 俺はにこにこと笑顔を振りまきながら、馴れ馴れしくタケシ・リュードウの肩を抱いた。


「ここだけの話・・」


 こそりと声を潜める。


「ぅ・・む?」


 リュードウも荒げかけた声を鎮めた。


「月光の女神様の加護は秀逸です」


「・・呪や毒の無効化か。しかし、そんなものは対抗薬を揃えればどうとでも・・」


 言いかけるリュードウを遮って、


「でも、薬だと後手でしょ?」


 俺は間近にリュードウの眼を覗き込んだ。


「む?」


「あのねぇ、俺はお前の奥さんのために、この話を持って来てるんだよ?」


 小声で怒る。


「お、おくっ・・そうなのか?」


「だって、愛しい奥さんが、一分でも一秒でも、病気とか呪いとか、毒とか・・そんなのに冒されたく無いでしょ?」


「・・無論だ!」


「だ・か・ら・・女神様の加護ですよ?」


 女神様の加護は練度があがると、それはもう完璧に状態異常をブロックしてくれるんですよ。お嫁さんが大切なら、お嫁さんに加護を授けて貰った方が良いんじゃないかなぁ?


「・・ふむ、一考の余地はありそうだな」


 リュードウが納得顔で思案を始めた。


「あるある。一考どころか、十考くらいした方が良い」


「ふうむ・・加護か。しかし、使徒となると・・行動に制限がかかるのでは無いか?」


 まあ、そこは不安になるよねぇ・・・でもさ、


「俺を見て。どこかに制限が?」


「・・・・無いな」


 たっぷり考えて、リュードウが首を振った。


「お前ほど自由にやっている奴はいない」


「いぇす、ふりーだむ」


「だ、だが・・その月光の女神を演じている精神体は、なんの利益があるのだ? 加護を与えた者が、この地に留まれば意味もあるだろうが・・我は去るのだぞ?」


「重大な役目があるのです」


「・・やはり行動に制限が・・」


「女神様の手紙を、向こうの神様に届けて欲しい」


「・・手紙? メッセンジャーということか」


「うん、そう」


「ふむ・・地球にも精神体がおるのだな? まあ予想の範囲内だが」


「元から居る神様と、後から来た神様が入り乱れてるらしいよ」


「なるほど・・どのみち、我が帰還するとなれば邪魔をしてくるだろう。そいつらに届ければ良いか」


 リュードウが頷いた。


「さっすが。そういうこと・・で、使徒からのメッセージということで、ええと・・女神様と同じ星から来た神様が居れば無視できない規則らしい」


「内容は?」


「これ」


 俺は板チョコくらいのクリスタルを取り出して渡した。


「・・解析して良いのか?」


「うん、どうぞ? 特に駄目とは言われて無い」


「うむ・・」


 タケシ・リュードウが、ラピスラズリという宝石人形ジュエル・ナイツに向かって手招きした。素早く近寄ったラピスラズリに、クリスタルの情報解析を命じて、


「・・基本、お前の提案を受け入れよう」


「おおっ、ありがとうっ!」


「ふん・・断って暴れられたら厄介というだけだ。決して、馴れ合っているわけでは無いぞ」


「まあまあ、もう友達じゃん? そう尖るなって」


 俺は馴れ馴れしくリュードウの肩を抱いたまま目尻を下げた。


「だっ、だれが、友達かっ!?」


「えぇぇ? 俺とリュードウでしょ? ガチ友じゃん?」


「・・まあ、ただの知り合いでは無いが」


 リュードウの語気が弱まる。


「奥さんの完璧なるモデリングに協力したのになぁ・・」


「あっ、あれには感謝しておる!」


「でしょう? あんなの、世界中で俺にしか出来ない芸当よ? 結構、危ない橋を渡ってるんだからね?」


 ユノンに浮気と誤解されたんだよ? 本気で、冷や汗かいたからね?


「・・うむ。あれは・・まあ、我にとって人生最高の瞬間であった」


「いやいやいやいや、タケシくん。最高なのは、これからなのだよ?」


 なに言ってんの? ちょっと方法は歪んで、色々とこじれてるけど、恋いがれた女の子をついに手に入れたんでしょ?


「むっ!?」


「だって、あの・・お美しい女性がタケシくんの伴侶として末永く一緒に居るんだよ?」


「ぉおおお・そっ、そうだな! うむっ、失言であった。これから、我の最高が訪れる・・いや、続くのであった」


 リュードウが興奮顔で頷いた。


「でしょう? あんな美人さんが、ずうっとタケシくんだけを見つめてくれるんだよ? もう、逆上のぼせちゃって大変だよぉ?」


「う、うむ・・ちょっと、落ち着かぬ気分になるな」


「しかも、その美人さんは永遠にタケシくんだけのもの・・」


 リュードウの耳元で囁く。


「ぉ、ぉぅ・・」


「朝起きてから夜寝るまで、ずうぅぅぅっと一緒」


「くっ・・リア充とは怖ろしいものだな」


「もう、その最高を手に入れたんだからね?」


「うむっ・・我はついに手に入れたのだな」


「そういうわけで、メッセンジャーくらい務めてよ? 向こうの奴に、ビシッと叩きつけるだけで良いからさ?」


 俺は、リュードウの肩を叩きながら念押しした。


「・・良かろうっ! 我が・・このタケシ・リュードウがその役目を引き受けてやろう!」


 タケシ・リュードウが自分の胸を軽く叩きながら断言した。


 これでもう大丈夫でしょう。リュードウはつまらない嘘はつきません。やると言ったら、必ずやってくれるでしょう。


「おおおっ、さすがリュードウ、男前なんだぜっ!」


「ふっ、我に任せておけ!」


「うん、リュードウなら安心だ」


 俺はホッと安堵の息をついた。


「よし・・それで使徒になるには、どうすれば良い? アヤコはまだ培養体で眠っているのだが・・」


「そのまま、何もしなくても良いらしいよ。女神様の方で加護を与えるって言ってた」


「そうか。ところで、その・・とっ、友として頼みたい事があるのだが」


 リュードウが何やら言い難そうに切り出す。


「なんだろ?」


「・・う、うむ・・我はもうじき旅立つのだ」


「うん」


「それで・・ちょっと問題があってな」


「ふむん?」


「色々と手を尽くしたのだが、我が旗艦、エグゼシオーレは宇宙空間での航行に特化していてな。離陸・・離床から通常航行までの間がどうしても鈍い・・もたつくのだ」


 まあ、こいつの船はでっかいからねぇ。サクラ・モチの3倍くらいあるでしょ。


「ふむ」


「できる範囲で構わん。護衛を頼めないか?」


「良いよ? 離陸して大気圏を抜けて宇宙へ出るまでで良い?」


「うむ。我の航行計画において、唯一の不安材料だったのだ。お前が護ってくれるなら憂いはない」


 リュードウが右手を差し出した。


「ふふん、任せたまえ。ガチ友の門出だ。我がノルダヘイルの総力をあげて警護しよう」


 俺はリュードウの手をしっかりと握った。


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