第215話 ナイトメア
「おぅのぅ・・」
「・・見たく無かったです」
「まあ・・」
「エグいな」
俺とユノン、デイジー、リュードウの感想だった。なお、同行の
ちなみに、タケシ・リュードウは培養体を棄てて、専用設計だという
訊きもしないのに得意げに解説してくれたところによると、戦闘能力が従来の
魔素、太陽光、宇宙放射線をエネルギーとして動いているらしい。
ウチの某アグレッサー型は神酒をおねだりするのだけど・・? まあ、深く考えるのは止そう。あいつ、言うことが、どんどん人間じみてきているし・・。どっか壊れてるに違いない。
さて・・。
お店の精霊を喚び出した俺達は、しばしの間、立ち尽くしてしまった。
まあ、夜の・・ちょっぴり触れ合いに餓えた大人がお酒を楽しむためのお店です。隣に、綺麗なお姉さんが座るか、エグい服装のゴツイおじさんが座るかの違いはありますけど・・。
その美的な問題点については事前に周知し、各々が覚悟と興味をもって、いざ召喚っ! という運びだったんですけども・・。
『あぁ~ら・・可愛らしいマイ・ダ~リン、ご無沙汰だったじゃなぁ~い』
金ラメのボディコンが内側から破裂しそうな筋骨逞しいおじさんが、しなを作ってウィンクをして見せる。後事を託して気絶して良いですか?
その横に、こちらは人間サイズの・・というか、顔をよく見知っている人物が、大胆に背中の開いた真紅のナイトドレスを着て立っていた。
「いらっしゃいませ」
少しはにかむように伏せ目がちに微笑したのは、そう、現在行方不明となっている、神樹様・・ルティーナ・サキールその人である。
細作りの美貌には化粧を施し、目尻と唇には紅をさしている。もともとが中性的な外見だっただけに、怖いくらいに美女です。どこからどう見ても、妙齢の、ほっそりと華奢な感じの美女です。隣に浮かんでるバケモノとは次元がかけ離れた、超のつく美女が立っています。
なんというか、腰つきというか・・ちょっと身をよじるような仕草が女性っぽいんです。
俺は、ちらっ・・と、連れて来ていた神樹の衛士を振り返った。
後ろ手に縛られ、呪文封じの猿ぐつわを噛まされたレーデウスとシンギウスが驚愕に眼を見開いて硬直していた。
まあ、同情はしません。龍帝と殴り合いをやっている時に、魔法を撃って来やがりましたからね。
『まぁまぁ・・今日は女の人まで連れて、もうっ、妬けちゃうわぁ』
「ははははは・・ちょっと、後学のためにね。うん・・ああ、俺の方が見なくて良いよ? そっちの恋人さんを見つめててね」
『あぁん、恋人だなんてぇ~・・この子は、あ・い・じ・ん・・キャッ』
金色ボディコンのオッサンが身をくねらせる。
もう殺したい。
兎パンチを叩き込んで、顔面を駄々っ子踏みにしたい。
「・・もう、マスター・・お客さんがお困りですよ」
赤いドレスの美人さんが、恥ずかしげに目元を染めて、金ラメおっさんを甘く睨んだりしています。
(こいつ・・ホンモノだ)
俺は確信した。
そして、同時にちょっぴり抱えていた罪悪感が綺麗さっぱりと消え去った。
『うふふ・・妬かないで、ルーちゃん』
金ラメおっさんが、余裕たっぷりな笑顔を見せる。
「・・ああ、良いかな?」
『なぁに、マイ・ダ~リン?』
「今日はちょっとお願い事があってね」
『まぁぁぁ・・ついに、良い夢を見たくなったのねぇ?』
「俺じゃ無いんだけど・・まあ、力を貸して欲しくてね」
『ぅん・・もうぅっ、何だって言ってよぉ~・・ダ~リンのお願いなら何だってきいちゃう』
「俺が3日前に見た女性をここに具現化して欲しい」
『えぇぇ~女の人なのぉ~?』
「こいつの最愛の人」
俺は、やや後ろに退き気味のリュードウを指さした。
『ダ~リンじゃないの?』
「まあ、ルール違反かな?」
『うぅ~ん・・違う人のためは、ちょっとぉ・・』
「そう思って、対価を用意しました」
俺はにこりと笑顔を向けた。
『対価ぁ~? なぁに~?』
「はいっ・・この2人でぇ~す」
俺はレーデウスとシンギウスを引きずるようにして、金ラメおっさんの前に転がした。
『ぅんっ・・まあぁぁぁっ!?』
金ラメおっさんが金切り声を張り上げた。
「無理だとか、駄目だとか聴きたく無いなぁ?」
『うひ・・お、おほほっ・・いやぁ~ねぇ、もうっ、ダ~リンったらぁ~、そんな野暮なことなんて言わないわよぉ~~っ!』
「言っとくけど、成功報酬だからね?」
『あぁぁ・・なんだか熱くなって来ちゃったぁ~・・なぁに、なにを見せたら良いのぉ~ん?』
「・・準備オッケー?」
俺はリュードウを振り返った。
「お・・おおっ、無論だ!」
毒気を抜かれた顔で立ち尽くしていたリュードウが、慌てた顔で何度も頷いて見せる。
「よし・・じゃあ・・俺の記憶にあるアヤという女の子をここに出現させてくれ。裸のまま、完全に再現してね?妥協は無しだよ?」
『んまぁ・・裸の女の子だなんてえ、ダ~リンったら、エッチねぇ』
「出来るの? 出来ないの?」
『うふふふ・・出来るわよぉ~ こんなに素敵なお土産を貰えるのに、出来ないなんて言わないわぁ~ アタシの仕事は完璧なのよぉ~・・』
金ラメおっさんが、火照った顔で
「ひっ・・」
リュードウが引き
『良い夢、見せて、あ・げ・る・・チュッ!』
金ラメおっさんがリュードウに近付いていって、凍り付いて金縛りになったリュードウの唇を奪った。
途端、黒々とした魔瘴気が足下から噴き上がって渦を巻き、みるみる人の形へと変じていく。
そして、次の瞬間には、眩しいほどに白い肌身を晒したアヤになっていた。ちょうど女神が入った時のように、両腰に手を当てて誇るように裸体を晒している。
「・・ぅぉっ・・ぉぉぉおおおおおっ!」
タケシ・リュードウが発狂したかのような声をあげて抱きつこうとした。その襟首を掴んで引き留め・・。
「落ち着け、これは幻影だから。さっさとコピーしろ」
俺はリュードウに耳打ちした。
「ぁ・・お、おうっ! そうだった! ラピスっ、ローズっ! 測定しろっ! 全部だぞっ! 毛の一本まで、全部を写し取れっ!」
鼻息荒く、リュードウが命令を下す。
「・・3分保たせてよ?」
『あぁん、大丈夫よぉ~・・あと、4分はいけるわぁ~』
言いながら、金ラメおっさんがもじもじと腰を揺する。
「ああ、そうだ。色々あって、この2人は帰る場所が無いから・・」
『ぇ・・えぇっ? そ、それって・・』
「ここに置いてやってよ」
『きゃぁぁぁーーーなんなの、もうっ、あぁぁん・・もうっ、ダ~リン、まじ天使っ!』
奇声をあげて飛びついてくる金ラメおっさんを鷲掴みにして遠ざけつつ、床で震えているレーデウスの顔の前へ連れて行く。
「こっちが、レーデウス。で・・こっちがシンギウス」
『レーちゃんと、シンちゃんねぇ』
俺の手から解放された金ラメおっさんが、しがみつくようにして2人の顔前を行ったり来たりする。
レーデウスとシンギウスが、この世の終わりのような顔で身を震わせていた。
「・・・あいつ、あれさえ無ければなぁ」
俺は溜息をついた。
視線の先で、タケシー・リュードウが床に仰向けに寝転んでアヤ(幻影)の足の間へ身を入れ、真下から女体の神秘を両眼に焼き付けていた。
そうっと視線を向けると、ボクのお嫁さんとお妾さんの眼が絶対零度になっていました。その視線の先では、色々な作業が進行中なわけで・・。
「約束は果たしたからね」
幸せの絶頂にあるタケシ・リュードウと、お店のマスターに声を掛けると、そそくさと場を後にしてユノンとデイジーに駆け寄った。
これは保険措置だ。
俺の精神破壊を阻止するための・・。
だって、もう耐えられない。
限界ぎりぎり・・。
口直しが・・心と体の浄化が必要ですっ!
「・・しばらく、寝かせないからね!」
俺は両手で2人のお尻を鷲掴みにすると、荒々しい決意を言葉にして転移を促した。
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