第211話 リュードウの居場所

『・・"封獄"という物かどうかは不明ですが、探査波を受け付けない空間を内包しています』


 カグヤが報告をした。



「やっぱり、これか」


 俺は、深海から引き揚げた隕石を見つめた。彗星のカケラで、大きさとしてはビーチボールくらいしか無い。


「ユノン、何か解る?」


「・・完全に閉じた空間です。因子が刻々と変容し続けていて解析を阻んでいます」


「むむ・・」


 綺麗に開ける事は諦めて、強引に割るしかないのかな? あまり時間が無さそうだし・・。


 容れ物には、クリスタルの神像を用意したから問題無いはずだから、後はどうやって神像に入って貰うかだけど・・。


「精神体って、目で見えないよね?」


「視覚で捉えるのは困難でしょう」


「どうやったら居る事が分かるの?」


「魔法による感知ですけど、コウタ様は霊体になれますよね?」


 デイジーが言った。


「ぁ・・そうか! あの状態なら見えるのかな?」


 光霊毛を使えば、光霊体になるんだった。


「触れる事は出来ると思います。ただ、形あるものとは限りませんので、目で見て、それと判るかどうか・・」


「居る事が感じられれば・・後は、これに入ってくれるかどうか、説得するしか無いんだけど」


 ちらっとクリスタル神像を見る。正直に言って、あまりデザイン性に優れているとは言い難い。


「そもそも、この像にどうやって入るのでしょう?」


 リリンがもっともな疑問を口にした。


「専門家を連れてこないと駄目だな」


 おれの呟きに、


「専門の人がいるのですか?」


 アルシェが首を傾げる。


「タケシ・リュードウ」


「・・ああ」


 ややテンションの下がった表情でパエルが頷く。彼は、うちの女性陣には好かれていない。俺は、そこまで嫌いじゃ無いけどね。


「そう言えば、リュードウはどうしたっけ?」


 龍さんの話では、神と一緒に転移したそうだけど・・。



『個体名タケシ・リュードウの連れていた敵性体であれば、ノルダヘイルの北西部から移動していないようですが?』


 カグヤが地形図と共に、位置情報を表示した。

 50キロほどの場所で、2つの光点が重なるように点滅したまま動かない。



「いつから、この位置に?」



『魔界から帰港後の定期探査で感知して以来、動きはありません』



「ふうん?」


 どういう事だろう?

 リュードウが連れていた敵性体と言えば、2体の宝石人形ジュエル・ナイツか隷属悪魔だろう。慎重に隠れ回っていたリュードウが、カグヤに探知される状態で動かない理由は何だろうか?


「・・また罠かな?」


 俺を釣り出して、サクラ・モチ狙い? さすがに、無いかな・・。


「陛下と戦う愚は理解しているでしょうから、何か・・からめ手でしょうか?」


 ファンティが首を捻っている。


 無視しても良いんだけど・・。


「今は、リュードウの知識が欲しいんだよなぁ」


 精神体を安全に容れ物へ移す方法が知りたい。神様を除けば、その道のスペシャリストはリュードウくらいでしょ?


「御館様」


 不意に、ゲンザンが話しかけてきた。


「まるで関わりの無い事かもしれませぬが・・」


「何かあった?」


「いえ、逆に無さすぎるのです」


「へ?」


神樹の主人ルティーナ・サキールが失踪し、衛士のレーデウス、シンギウスも行方知れず。本来なら樹海はもっと騒がしくなるはずですが、どうにも・・動きが見られませぬ」


 なるほど、言われてみればその通りだ。

 もうちょっと、ばたばたと騒ぎになっていてもおかしくないけど。


「魔界のホウマヌスとの連絡は取れてる?」


「はい。問題無く」


「チュレックは?」


 リリンに訊ねる。


「・・それが」


「リリン?」


「お父様・・いえ、ミッターレ宰相が体調を崩して出仕していないようです」


「体調不良に不審が?」


「かつて無かった事ですから・・少し気になります」


 リューギ海王国との戦いは小競り合いを繰り返す程度に収まり、今のところ大規模な戦争にはなっていないらしい。チュレック王国としては一呼吸落ち着ける状況だったけど。

 ずうっと病気無く出仕を続けてきたミッターレ宰相が休みを取るというのが不審だと言う。娘だからこそ感じ取れる違和感なのだろう。


「ユノン、闇谷は?」


「今朝はいつも通りに母様と伝話で話しました」


「河向こうの国々は・・まあ、しばらく大変だろうし・・」


 龍と、兎の格闘戦によって、あちこちが更地さらちになってしまい国としての存続が危ぶまれる王国やら帝国があるとか無いとか・・。

 となると、樹海から東の広大な湿原、その向こうの険しい山岳地帯、後はチュレック王国から南方の諸王国を見ておけば良いか。


「・・・よし、アルシェ、リリン、パエル、ファンティは、チュレック王国へ潜入してくれ」


「潜入・・でありますか?」


 リリンが訊いた。


「うん、何か悪い事が起きている前提で行ってくれ」


「了解しました」


 アルシェ以下、3人が敬礼をして即座に踵を返す。


「マリコ、シフートは樹海東の鬼人族の集落を訪問して。こちらは表敬訪問の体で良い」


「はい!」


 マリコとシフートが早足に司令室から出て行った。


「ゲンザン、ハクダン、スーラは族長と連絡を取りながら、神樹や他の住人を警戒しておいて」


「承知」


「承りました」


 大鷲族の傑物3名が飛び出して行く。


「さて・・俺、ユノン、デイジー、フランナ、アヤはサクラ・モチに乗って、リュードウのお人形に会いに行こう」


「罠を承知で・・ですね?」


 デイジーが微笑する。


「うちの最高戦力が結集するんだ。何を仕掛けて来ても返り討ちにできるでしょ」


 俺は表示された地形図を眺めた。


「降臨した神々が、各地で何かを煽動していると考えるべきでしょうか?」


 ユノンが呟く。


「う~ん・・その辺については、女神様に訊きたいところだけど」


 "封獄"だと思われる岩塊を見つめた。


 この岩そのものが"封獄"なのか、入口みたいな物なのか・・。

 上手く開ける事が出来ても、女神様の説得作業が残っている。同意を得られても、果たして、クリスタルの神像なんかに入ってくれるかどうか。


「・・・場合によっては、神域に行かないと駄目かもね」


「その方が確実かもしれませんね」


 ユノンが頷いた。


「神域にちょっかい出しているリュードウに色々と訊きたいところだけど・・」


 "裁きの神"とかいう奴と転移してからの足取りは不明だ。

 と言うか、すっかり忘れていました。

 

「とりあえず、向こうが攻撃してきても防御ね。話をしたいから」


「フランナに任せる!」


 いや、お前に任せたら即発砲でしょ? 俺、防御って言ったよね?


「会話が出来れば良いのですよね?」


 アヤが刀の柄に手を添えながら微笑み、


「知識を吸い出すだけなら他にも手法がありますけど?」


 ユノンが物騒なことを呟いている。


(タケシくん・・君の未来は明るく無いかもしれない)


 俺は席に座りながら、カグヤに作戦の概要を指示していった。


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