第209話 乱れた神域
『遅かったな』
「あれ、タケシくんと、美男子ゴッドは?」
俺は、大きく穴の空いた床を眺めつつ視線を巡らせた。
『何処ぞへ転移して行きおった』
「ふうん?」
『コウタ・ユウキよ。お前は、この世界をどうするのだ?』
いきなり、龍帝が問いかけてきた。
近頃、やたらと似たような質問をされる。その度に答えてるんだけど、俺には世界をどうとか、そんな大袈裟な考えはありませんよ?
「短期的には、南半球の環境を改善して前のように生き物が生息できるようにします」
『む・・おう、魔神共が
「まあ、魔神が見捨てて、魔人も逃げ出した場所を改善するんだから、そのまま俺の土地にします」
『ふむ、当然だ』
「魔界との行き来を絞って、元の通りに、魔人は魔界に住むように規制します」
『そうだな。このままでは、平人共が家畜にされかねん』
「でも、まったく交流が無いのは寂しいので、一つだけ門を用意して、平人でも魔人と対等にやり合える力を身につけたら通れる仕組みにします」
『ふむ、良い案だ』
「神様には引き続き、神様の世界で、ちゃんと神様をやって貰います。と言うか、魔界の環境改善を手伝えと言いたい。降って来る隕石は壊せないし、悪魔はばら撒かれたまま野放しだし、何をやってんの? そんなので、神様として崇めて貰えますか?」
『う、うむ・・まったくだな』
「リュードウは色々言ってたけど、俺は神様だと思ってるんだからね? きちんと仕事をしてもらわないと困ります」
『・・機会があれば言っておこう』
「まったく、魔界の復興だけでも忙しいのに、大同盟とか言って平人の国を煽って戦争仕掛けて来るとか、どこのアホですか? そんな暇があったら、畑に行って鍬の一振りでもやれって話です」
『お、おう・・』
「おまけに、神樹に呼び出し? お脳にウジが湧いてんじゃね? 良いですか? 俺はやる事がいっぱいなの! 隕石が落ちた場所を調べて、有害な物があれば回収して処分。土に還らないものは、宇宙に投棄。魔界の人達が食べられる穀物を改良して、土も水も浄化処理して、空気まで洗浄してるんですよ? もうね!お嫁さん達が居なかったらグレてたよ、俺は! 優しいお嫁さんとお妾さんのお陰で、何とか頑張れてるんだからね? なのに、邪魔ばっかりして、くだらない支配者ごっこをしたがる奴がいて、何なの!? 神域の神様達はやる気あんの?この惑星をどうすんの? このままだと、死の惑星ですよ?」
『い、いや、何かやろうとはしていると思うぞ?』
「遅いんです!今っ!すぐに取り掛からないと、どんどん復興の時期が遅くなるの!分かんないかなぁ? 悪魔は、しばらく牢屋にでもぶち込んで封印。越境した魔人は全員捕縛して強制就労。戦争やりたがりの王が居たら人生退場。無駄に暴れる魔物は殺処分。さっさと取り掛かりなさいって話。分かりますか? どっかでこっちを見てるんでしょ?」
『・・コウタ・ユウキよ』
不意に、頭の中に伝わる声が変化した。
『お主の言うことは多くの部分で共感できる。しかし・・』
「しかし?」
『お主と道を等しくするには、我らはあまりにも多くの同胞を失い過ぎた』
「・・喧嘩売って来たのは、そっちでしょ?」
俺から頼んだわけじゃ無い。
『うむ・・だが、母艦を攻撃され、不死性を消失された時点で、冷静な判断を下せる者など居なかったのだ。我々は動揺し、怯え、恐怖した』
「ふうん・・ところで、俺を神樹に呼び出した後、別働隊が俺の船を攻撃に行った?」
『三千余の神兵、剣神を筆頭に六百もの神が肉の身を得て亜空間潜行艦を襲撃した』
「ご愁傷様です。お悔やみを申し上げます」
ユノン、デイジーが揃ってる所に攻撃を仕掛けるとか、ただの自殺行為じゃん。
『・・全軍をお主にぶつけるべきだった』
「ははは、後の祭りですねぇ」
まあ、俺の所に来ても結果は変わらないけど。
『だが、まだお主だけならば・・命を奪える』
「・・まだやるの?」
『龍帝を解き放つ。最早、繋いでおく力も残されておらぬからな』
「で、龍さんが、俺を食べる?」
『こやつは、お主と戦いたがっていた。抑えておくのが大変だったのだ』
神様でも、他に俺を倒す方法が無いって事か。
「・・訊くけど、月光の女神様は何処に?」
『あれは強情でな。例え仮でも、肉体を得て地上へ降りることを
「・・・それで?」
俺は冷えた双眸を龍帝へ向けた。
『受肉を拒んだ者達と同様に封じた』
「どこに?」
『・・聞いてどうする?』
「だって、他の神様はみんな死ぬから。後で、誰かに神様やって貰わないと困るんだよね」
とりあえず、降りて来た神様の掃討が確定しました。封獄というのに入っていない神様は全て悪神です。
『龍帝と戦って生き延びるつもりか?』
「もちろん、生き残るよ。俺が死ぬわけ無いじゃん?」
『ほう?大した自信だ。この龍帝はな・・』
「龍さんはどうでも良いよ・・それより、月光の女神様は大丈夫なんだろうね?」
『・・苦しむことは無い』
「へぇ・・」
良い度胸じゃないか。俺を本気で怒らせるつもりか? 挑発にしたってやり過ぎなんだぜ・・。
『龍帝を退ける事が出来たなら、封獄を訪れてみるが良い』
「封獄?」
『我らにとっての墓地だ。外界と繋がる全てを遮断された小さな空間だ。我らは精神体故に、精神が病めば病み、死ねば死ぬ。ゆっくりと、だが確実に死に至るのだ』
「ほんと・・非道いことするなぁ」
薄っすらと笑みを浮かべながら、俺は持っていた愛槍を個人倉庫へ収納した。代わりに、陶器の酒壺を取り出して封を切り、両手で抱えて飲み干していく。さらに、もう一瓶・・。
『この龍はな、かつて・・』
「ああ、語らなくて良い。さっさと龍を解放しろ」
俺の身体から湯気のように青白いものが立ち上り、小さな雷光を瞬かせて爆ぜている。
『・・よかろう。文明を滅する龍の力に恐怖するがいい!』
神の声と共に、置物のように空虚だった龍帝に、いつもの圧倒的な強者の気配が戻ってきた。
『やれやれ、長話だったな』
龍帝がため息混じりに言った。
「俺とやりたいんだって?」
『うむ』
「・・あんた、封獄を知っているか?」
駄目元で訊いてみる。
『おう、知っておるぞ? 神界の罪人を封じておく空間だろう?』
実に簡単げに答えが返った。
「どこにある?」
『前は悪魔共の根城にあったが、さて・・あれは砕かれて地上に落ちたからな。しかし、タケシ・リュードウなら知っておるだろう』
「リュードウが?」
『あいつが追い回しとった
「アヤ・・コか?」
『名は知らんが、そいつも封獄に入れられておったはずだ。タケシ・リュードウは、あの女の精神を取り戻すために封獄を守る悪魔共を襲ったのだろう?』
龍帝が重大な情報をあっさりと
俺の中に、その視点は無かった。
そうか・・。
「・・・そういう事か」
『まあ、封獄から出したところで宿す身体が無ければ消え去るのだが・・』
「なるほど」
『もう、良いか?』
「ああ、いつでも良い」
『よしっ、場所を移そう。ここで戦っては、お前の
「・・そうだな。場所は、あんたに任せるよ」
『うむ・・では、飛ぶぞ』
巨龍が爆風を伴って舞い上がる。やや遅れて、巨大な白兎が宙を駆け昇って行った。
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