第203話 一問一答


 デギオヌ・ワウダールは思わぬ拾いものだった。

 魔王の宰相だったとか、ホウマヌスが言っていた気がするが、正にそんな感じで、復興していく集落を国という組織に取り込み、役割りを担わせながら、ノルダヘイル王国の臣民としての自負、誇りを抱かせ、国を興していくという作業を、それが当然だという空気感を醸造しつつ実に鮮やかに行なってくれる。


(半分はリュードウのアジトを捜すために始めたんだから、もう止めても良いんだけど・・)


 こうして、大勢の魔人達が懸命に生きようと頑張っている姿を見せられると、力を貸してあげたくなるじゃないですか?


 地位の高い連中が魔界を捨てて平人の地へ逃げ込み、魔界と命運を共にしようとした者や残された民達が頑張っている・・・良いじゃない?


(なんか良いよな。まあ、環境さえ整えれば、あとは今居る魔人達がどうにかやってくれるでしょう)


 なんだったら、今居る魔人達で独立して国を興したって良いよ?

 だが、後から出戻って俺様発言する奴らはダメさ。そういうズルは認められません。


「お考えはよく理解できました。陛下ほどのお力があれば人の世の争いなど地虫の競り合い程度のことで御座いましょう。可能な限り、御手を煩わせる事の無いよう努めて参ります」


 ホウマヌスが恭しく身を折った。


「平人の世とは別に、魔人の世には、各国の王達を統べる真なる支配者としての地位が御座います」


 デギオヌ・ワウダールが口を開いた。


「真なる?」


「魔王・・魔界の総てを支配する地位に御座います」


「あぁ、魔王ね・・う~ん、それって九皇家と何が違うの?」


「あれは、遥かな昔に身罷った魔王の遠い縁者というだけです」


「ふうん、魔王か」


 魔界の王様・・響きは悪くないよな・・。

 でも、ちょっと違うか。


「陛下の器を表すには、少々足りませんね」


 呟いたのは、アヤだった。今は、いつもの女武者姿です。


「そうですね。総ての世界の王なのですから」


 頷いたのは、花妖のアルシェだ。


「みんな・・盛り過ぎじゃない?」


 俺は苦笑しつつ、リリン達を見た。


 えっ?どうして、両隣の美人さん達を見ないのかって? だって、もっと盛ってきますから! むしろ、全宇宙の~とか言い出しかね無いから! なんか、最近、ぐいぐい来るんですよ。


「しかし、陛下は神・・に等しい御方なのです。王という地位では、そもそも不足を感じます」


 リリンが生真面目に言った。

 途端、よく言ったとばかりに、隣のグラビア美人さんが大きく首肯した。


「はは・・まあ、みんな気負い過ぎ。ようく考えて? ノルダヘイルは、樹海外れの小さな港町と大鷲の里だけ。魔界はかなり広い土地を統治しているけど、まだ人々が食っていくので精一杯でしょ?実際のところ、ノルダヘイルは小さな国なんだよ?」


「陛下は・・リュードウ、貴族級悪魔、九皇家・・あれらを総て子供扱いになさる唯一無二の存在であらせられる」


 ワウダールが言った。


「すでに軍兵の数は意味をなさず、加護者は脅威にならず・・大同盟を謳ったところで、九皇家の魔人に頭を抑えられて不平不満を漏らしているだけ。未だに、ただの一兵も攻めて来ておりませぬ」


 大鷲族のハクダンが勇んだ口調で言った。


「御館様は、大粛清後の大幅な人口減を憂いておられるのだ。ハクダンよ」


 ゲンザンが窘める。


「それは・・確かに陛下がお力をふるわれると・・多くが消え去りましょう」


 ハクダンが口ごもる。


「半夜と経たず、地上から人が消え去るでしょう」


 近衛の列に居たパエルが断言した。


「しかし陛下は、人の世の事は、人の力で・・とお考えですから、あまり人間の数を減らしては・・と、御悩みになっておられるのです」


(・・いやぁ・・なんか凄いや、うちの子達・・)


 俺が世界征服に踏み切らない理由をあれこれ考えていらっしゃいます。


(面倒だから嫌って言ったのになぁ)


 俺、そこまで色々考えて無いよぉ?

 俺の、人生、行き当たりばったりだし・・。


 そりゃあ、加護持ちに殺されそうだった頃に比べれば少しばかり強くなったよ?


 地球でも行けなかった宇宙へ行けるし?


 宇宙空間で生きられるし?


 マグマを泳げるし?


 エッチしたら幼女になったり?


 でっかい兎になって駆け回ったり?


 もう、貴族級悪魔とか丸齧りだし?


(・・思ったより、バケモノでした)


 俺は腕組みをして考え込んだ。


(人間とは・・?)


 いや、俺は人間だけどさ? 人間の定義って、どうなってんだっけ?



「コウタさん」


 ユノンが話しかけてきた。手に糸綴じの手帳を持っている。

 切れ長の双眸に、ちょっと悪戯めいた光を感じるけど、気のせいかなぁ?


「はい?」


「コウタさんは、世界を隔てる仕切りをどうされます?」


 唐突な質問が来ました。これ、どの辺からの脈絡ですか?


「そのまま強化して残すよ」


 とりあえず、今考えていることを答える。

 みんなを前にやるのは初めてだけど、ユノンやデイジーだけの時は似たような感じで考えを纏めることがある。


「越境した魔人達は?」


 訊きながら、ユノンが手帳に書き記していく。


「邪魔をしないなら放置」


「魔界門はどうします?」


「一つを残して、全部塞ぎます」


 抜け道が多過ぎるのは良くないよね。


「どこの門を残します?」


「チュレックで最初に潜った・・ホウマヌスの館があった迷宮」


 少し手を加えて制限を設ける仕組み設ければ良いだろう。行き来が簡単にできてしまったら意味が無い。あの迷宮自体、ノルダヘイルが管理しても良いな。


「九皇家が魔界へ戻ってきたら?」


「殲滅」


 魔界が元通りに回復したら戻って来ようとするよね。その時は、見つけた端から駆除しなきゃ。


「悪魔はどうします?」


「歯向かう奴だけ滅ぼします」


 悪魔というのは、神々が生み出した存在だからね。とりあえずは保留でしょう。

 街頭アンケートのようなノリで、あまり深く考えずに回答する。


「神樹が敵となったら、どうします?」


「敵対する理由は訊いてみたいね。危険が無い範囲で」


 何かしら、リュードウとの絡みもありそうだし・・。

 事情が判らないまま一方的に叩き潰すには、少し関係を持ち過ぎました。ちゃんと説明を聞いて、その上で対応したい。


「樹海の民が、ノルダヘイル国民になりたいと言って来たらどうします?」


「デイジーの神聖術で真偽を調べて問題が無ければ受け入れよう」


 手間だけど、誓詞を奉じさせるのも手かな。


「悪魔が国民になりたいと言ったら?」


「ユノンの呪術で真偽を確かめて、本当なら受け入れよう」



 居並ぶ者達が静かに耳を傾ける中、ユノンと俺の間で一問一答が繰り返されていった。


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