第201話 次はどうするか?


「敵になっちゃったかな?」


 ユノンの報告を聞いて、俺は深々と嘆息をついた。


 神樹、ルティーナ・サキールの動向は気にかけてはいたけど、このタイミングで強引に仕掛けてくるとは思わなかった。まだ、神樹の者の仕業とは決まっていないけども。まったくの無関係じゃないでしょう。


 タケシ・リュードウを追い詰め、完全に封殺できる寸前で正に横槍を入れられた形だ。神樹の森に怪しい動きがあると知らせてくれたのは、ユノンの母親、サリーシャ・リーンラムだった。以来、ユノンも時折里帰りをして様子を見るようにしていた。


「それにしても、これは大した威力だね」


 閉じた空間ごとタケシ・リュードウのアジトを粉砕したのは、氷の大柱だ。長さは50メートル、太さは5メートル近いだろう。こんな氷柱が、どこから、どれほどの速さで飛んできたのか・・。


「移動の痕跡を絶たれました。この氷柱と同時に、隠蔽の術が使われたようです。直前まで、魔素の高まりは感じられませんでした。かなり遠方からの遠隔魔術・・これほど大規模な物となると、前もって魔導具が仕掛けてあったのでしょう」


 ユノンが周囲を探査しながら言った。

 この大氷柱は、正確に俺を狙って飛来していた。デイジーの防壁で向きを変えられて、タケシ・リュードウが居た辺りへ落ちたのだが・・。


「陛下・・」


 アルシェ・ラーンが戻って来た。


「凶魔兵多数、悪魔102体、貴族級17体、宝石人形1体を討ち果たしました。今、リリン達が調べていますが、この場所には海底にあったような施設は無さそうです」


 魔界の南極の海底には、リュードウがアーマドールと呼んでいた機械人形を製造する装置、さらには宝石人形を生み出す魔導器らしい装置があった。


「そんな感じだね。まあ、持ち帰れる物は貰って行こう」


「畏まりました」


「カグヤ?」



『司令官閣下』


 軍服女子が姿を現した。



「サクラ・モチの損傷は?」



『自力航行は困難な状態です。効率の良い修繕作業のため、海底より引き揚げて頂けると助かります』



 リュードウ追撃のため、サクラ・モチを深海6000メートルに置き去りにして来たのだ。



「よし、サクラ・モチの引き揚げはユノンに任せる。一旦、ノルダヘイルの王都へ運んで修理しよう」


「はい」


 ユノンが転移術で消えていった。



『大破した機材に断片的に残されていた記録を収集しております。宇宙での収集記録を含め、整理して後ほど御報告いたします』


 カグヤが言った。



「うん、楽しみにしている。まずは修理だ。どうやら、まだまだ忙しいぞ」



『望外の極みに御座います!』


 軍服女子さんが嬉しそうに敬礼して消えていった。永らく眠っていたので、戦闘艦として行動できることが楽しいらしい。



「デイジー?」


 凶巫女さんが氷柱を前に何やら術を使っている。


「これは、魔術で生み出したものではありません」


「えっ?これ、天然のもの?」


「特別な氷塊から削り出された物です。旧来の魔法障壁なら貫かれておりました。この相手、油断できませんね」


「ふうん・・妙な魔導の武器があるのかな?」


 神樹の森が敵に回るなら、シンギウスとか、最悪ロートリングやウルフールが敵になるってことだけど。


「タケシ・リュードウは、どう動くのでしょう?」


 アヤが近づいて来た。


「しつこく、神様を狙いそうだけど・・協力者がいるみたいだし、リュードウの意見だけでは動けなくなるんじゃ無いかなぁ?」


「協力者の意見を無視できないということですか?」


 デイジーが加わる。


「何の根拠も無いけど・・不毛な陣取り合戦が始まるんじゃない?」


「正しく不毛ですね」


「神様の方も大騒ぎだろうし、少し地場を固めようかな」


 サクラ・モチを修繕し、魔界の浄化を進めつつ・・・樹海近くのノルダヘイル本拠地をどう守ろうか。神樹様として信奉しているルティーナ・サキールがノルダヘイルを討つと宣言したとして、樹海の民は全員が従うだろうか?


(戦力としては、大鷲オオワシ族だけで十分に守りきれそうだけど、この氷柱のように予想外の攻撃手段を隠し持ってる奴がいるみたいだし・・)


 仮に神樹の森が敵に回ったとしても、知らない連中では無いから、なるべく被害少なく事を収めたい。まあ、攻めて来なければ、こちらは無視してても良いんだけど・・。


 ただ、ルティーナ・サキールの目的が今ひとつ腑に落ちない。

 今のノルダヘイルに敵対行動を取っても何にも良い事無いよね?

 そもそも理由は何だろう?


世界征服?


神域攻撃?


単にリュードウを応援?


ノルダヘイルが目障り?


俺が嫌い?


(魔人とつるんだ?)


 あるかも?

 まあ、えらく長生きしているみたいだし、リュードウと繋がりがあるくらいだ。魔人と何かの取り引きをやっていたって不思議じゃ無いのかも?



 あれこれ考え事をやっていると、ユノンに呼ばれたようだった。

 もう、サクラ・モチをサルベージしてノルダヘイル王都の港へ運んで来たらしい。大仕事をやって来たはずなのに、いつもの涼しげなお美しい御尊顔です。


「ホウマヌスさんから伝話ですけど、後にします?」


「何だって?」


「前にホウマヌスさんが言っていた魔人の・・デギオヌ・ワウダールという人を魔都に招いて街並みを見せたいそうです。ただ、かなり力のある魔人なので念のため警備に大鷲オオワシ族の精鋭か、近衛騎士をお借りしたいと」


「ああ、あったね、そういう話・・」


 完璧に忘れていました。


 いや、ちょうど地場固めをやろうという時だし、タイミングは悪くない。蟻のギィーロンは働き者だし、なんだかんだ言って魔界の人は生真面目です。仕事に手を抜きません。まあ、ホウマヌスさんが、俺の事をかな~り持ち上げて吹聴しちゃってるせいもある気がしますけど・・。


 デギオヌ・ワウダールという魔人は、ホウマヌスさんと同格か、ちょい上なのかもな?


「よし、ハクダン、スーラをサクラ・モチの警備に残し、アルシェ達を先発でホウマヌスの警護に行かせよう。俺とユノンとデイジー、アヤは、一度、サクラ・モチの状態を確認してから行く」


 頑張ったカグヤさんに、特製の神酒を特盛りにしてあげないといけないからね。


「分かりました」


「・・あいつ、ちゃんとやってるかなぁ?」


 俺は空を見上げて呟いた。あいつとは、フランナの事だ。


「お酒を背負って行きましたから大丈夫じゃないですか?」


 ユノンがくすりと笑みをこぼす。氷柱で狙撃された際、高空待機していたゲンザン達、攻めの一翼が実行者らしき存在を見つけて追っている。そのゲンザンに誘導された地点めがけ、凶悪人形を突撃させたのだ。


「自分より大きな酒瓶を背負って飛ぶ人形とか・・怪しさしか無いよね」


「ふふ、あの子の速度を目で追える人なんて、大鷲オオワシ族でも滅多にいませんよ」


 ユノンが柔らかく相好を崩す。


「追いつけるかなぁ?」


「きっと追いつきます。自分が撃ったビームを追い越せるとか言っていましたから」


「それ・・おかしいよね?」


「私には無理ですね」


 ユノンが苦笑する横で、


「暴れたいのを我慢していたので尚更でしょう」


 デイジーも笑っている。


 元はタケシ・リュードウの宝石人形パールによって生み出された可変(?)タイプの侵略兵器、アグレッサー・7型セブン。個体名、フランナである。

 普段は肩乗りサイズの小さなお人形さん。有事には、世の理を無視した兵器の数々を繰り出して猛攻を加える決戦兵器と化す。短期決戦なら、途轍とてつもなく強い子だ。


 今、その真価を発揮するべく、超高速で移動している先には、氷柱で攻撃してきた術者が居るはずだ。向こうも、短距離の転移術を連続して使いながら逃げているらしいけど、遥かな高空から追尾しているゲンザンの眼からは逃れようが無い。うちの大鷲オオワシ族は規格外だからね。


「・・神樹の森に隠されていた神殿へ入ったようです・・今、フランナが合流しました」


「飛び込んで10秒間、きっちりと全方位攻撃。即、離脱して帰投。ゲンザンには、帰投するフランナの援護を。大鷲オオワシの族長に一報入れておいて」


「はい」


 ユノンが俺の指示をゲンザンに伝え、すぐさま大鷲オオワシ族の族長へ連絡する。


「観測中の大鷲オオワシ族から連絡です。フランナは、一瓶を一気に呑み干してから急降下して行ったそうです」


「はは・・」


 まあ、やられたらやり返しますよ? やり逃げは許しません。超凶悪、飛翔兵器の威力を思い知りたまえ。


「じゃ、サクラ・モチを見に行こうか。転移よろしく」


「はい」


 ユノンが瞬時に描いた転移紋が鮮やかに浮かび上がり、俺、デイジー、アヤを吸い込むように受け入れて消えた。


 転移した先は、ノルダヘイルの丘の上、懐かしい見張り小屋の横だった。

 前に、アナン教団の妖獣とやり合った場所だ。

 すぐに、こちらを見つけた大鷲オオワシ族の巡視隊が急降下して来て綺麗に整列する。


「族長には連絡したが、俺達を襲撃した奴が居て神樹の方へ逃げ込んだ。神樹のルティーナ・サキールの意思では無いと思いたいが、場合によっては森全体が敵に回る可能性もある」


「なんと!? 神樹の森が・・」


「犯人をゲンザンが追った。近々、報告があるだ・・・ろう?」


 俺の耳が遠くでとどろく派手派手しい炸裂音を拾った。フランナがミサイルを乱れ撃ったらしい。


「向こうからの使者は取り次いで貰って構わない。こちらからの手出しは控えるように。詳細については、後で族長から命令がある。まずは警備隊で情報の共有を」


「はっ!」


 俺の耳には、バルカン砲の連射音が聞こえ続けていた。交戦しているわけでは無く、闇雲に撃ちまくっているらしい。


 フランナの実力を見定めてから反撃しようとか思っている奴が居るなら指をさして笑ってやる。それが貴族級の悪魔だろうと、九皇家の魔人だろうと、もちろん、タケシ・リュードウだろうと、全力で逃走する事をお勧めします。暇を持て余して"迷宮ちゃん"に入り浸っているフランナの火力は心底ヤバイですよ?


(練度が上がったら威力が増す鉄砲というのが意味分からんけど・・)


 まあ、今更だ。

 理屈は、アレを製造したパールという宝石人形に聞いてみないと分からない。


「族長殿です」


 デイジーが空に向かって軽く手を挙げて見せた。

 大空から弧を描いて、大鷲オオワシ族の一隊が降りてくる。


「いよいよ、神樹が敵対してきましたか?」


「まだ分からない。まあ、そのつもりで居よう」


 港へ向かって歩きながら族長と話す。タケシ・リュードウを追って魔界の深海に行った事や宇宙での出来事など。


「宇宙・・星の世界ですか。到底、理解が及びませぬが・・いよいよ、御館様が一強となったように聞こえます」


「む?・・そうかな」


「神樹が何を考えているのかは分かりませぬ。ただ、今後はノルダヘイルを・・御館様を打倒することを声高に訴える者が増えましょう」


「確かに、それはあるかも。分かりやすい攻撃目標になっちゃったか」


「押し寄せる敵を駆逐し、国の境を守護する役目は我ら大鷲オオワシの得意とするところ。相手が神樹であろうと遅れはとりませぬ。ただ、敵味方が判然としない状況は困りますな」


「うん、使者くらい寄越しそうだけど・・これで、チュレックも敵になったりすると、本当の全方位作戦だね」


「・・ありますかな?」


 族長の目が港に停泊するチュレック王国の帆船に向けられた。


「国の都合ってのがあるでしょ。フレイテルさんは良い人だけど、個人の感情だけじゃねぇ」


「そうですな。彼の国も周辺諸国から攻撃を受けているそうですから・・」


「最近、空飛ぶ船は?」


「ほぼ魔人の艦船ですな。かなり自由に飛翔します」


「武器は?」


 長距離で、魔力を込めた大砲、近距離では術者の魔法攻撃や弩弓の類でした。こちら側の人間達では太刀打ちが難しいね。センテイルの龍騎士の噂も聴かなくなったし、正直、どこの国もお手上げなんじゃないかな?


「空飛ぶ魔人も居る?」


「はい。我ら同様に、翼を持つ者や魔法で飛翔する者もおります」


 港に降りたところで、隔壁で囲ったサクラ・モチの停泊場所に入った。サクラ・モチが自分で修理をしているので、警備の人間しか居ない。


「カグヤ」



『司令官閣下』



「状況は?」



『亜空間潜行が可能な状態にまで修復致しました。リドニウム尖砲弾の精製まで、47時間を要します』



「うん、しっかりと修理をしてくれ。神酒は足りているか?」



おぼれるほどです』



「ふふふ、良い返しだ。カグヤ」



『光栄であります!』


 軍服女子が笑顔で敬礼しつつ消えて行った。



「驚きましたな・・その・・船が冗談を申したのですか?」


 大鷲オオワシ族の族長が呆然とした声で呟く。


「日々成長しているのだよ」


 ぶっちゃけ、人格が宿ってるよね?


「・・そういう事ですな。我らも気を引き締めて日々の鍛錬に励まねば」


「うむ・・まずは避難訓練をやってもらおうと思う」


 俺は、ズバッと切り出した。


「避難訓練ですか?」


「さっき族長が言っただろう? 敵味方が判別できないって」


「はい、同盟した者まで疑わねばなりませんからな」


「戦って負ける事は無くても、街中や港内、大鷲オオワシの里などに入り込まれて数に任せた消耗戦を仕掛けて来るかも知れない・・と、アルシェが言ってた」


 あの花妖さんは、うちの近衛騎士団きっての戦術家なのです。伊達に団長をやっていません。


「ふうむ、しかし我らも警戒しておりますぞ? そう易々と内部には・・」


「脱走したとか、追われてるから助けてくれとか、老人やら子供が難民のように押し寄せて来たら?・・と、これもアルシェが言ってた」


「なるほど・・老人や子供が避難してくれ・・病人やら怪我人が居るようなら尚更気を緩めるかも知れません」


「本当に避難民かも知れないし、判別とか難しいよね?デイジーか、リリンが居れば神聖術で確認できるけど・・まあ、これは一例ね。色々と運が悪くて、敵味方入り乱れてドロドロの乱戦になっちゃったり、ありえない化け物が出て、ボロボロに追い散らされたり、そんな時のために逃げ方の訓練をします」


「逃げ方の訓練・・」


 大鷲オオワシ族の族長が納得のいかない様子である。

 剽悍ひょうかんさを誇りにしている部族だけに、逃げる練習というものに抵抗感があるのだろう。


「相手は圧倒的に数が多い。面倒くさいので、纏めて攻撃したくなる。敵味方が入り乱れていると敵だけ狙う手段が限られる。そこで・・」


「避難・・退避ですな?」


 大鷲オオワシ族の族長が大きく頷いた。


「そういう戦いは何度も何度も起こる。その度にノルダヘイルの兵を失っていたら、相手は消耗戦をずうっと続けようとする」


「はい」


「・・例え、世の中から生き物が全部居なくなるような戦いになっても、俺は生き残る。ポツン・・と、何も無くなった世界でね」


 俺は空を見上げた。遥かな高空から、推定身長18センチに縮んだフランナが急降下して近づいて来る。やや遅れて、お目付役だったゲンザン・グロウが大翼を拡げて旋回しつつ高度を下げていた。


「それじゃつまんないから、みんなで生き延びようぜ」


「仰せのままに!」


 大鷲オオワシ族の族長が低頭した時、


「お父様ぁーーーーーっ!」


 大声をあげて落ちてきたフランナを俺は両手で受け止めた。


「おかえり」


「フランナは有能っ!」


 手のひらの上で、18センチ人形が両腰に手を当てて胸を張った。


「頑張ったみたいだな。映像は後で見せてくれ。それより・・」


 個人倉庫から紅いクリスタルのボトルを取り出した。


「お父様、素敵っ!」


「満月の下で創った逸品だぞ」


「ユノン母様っ! お父様が優し過ぎて怖い!」


 紅瓶に飛びつきながらフランナが騒ぐ。


「あら、いつも優しいですよ?」


 ユノンが小首を傾げる横で、


「はい、とても優しく慈愛に満ちておいでです」


 デイジーが瞳を潤ませながら胸元で手を合わせる。


「デイジー母様、支えて欲しい」


 2人の言葉をスルーし、紅い瓶を手にフランナがデイジーの方へ飛んで行く。


 入れ替わるように、ゲンザン・グロウが舞い降りて来た。族長に会釈をしつつ、俺の前で片膝を着いた。


「相手は?」


「貴族級・・それも、かなりの強者」


「数は?」


「目視で8体を確認しました。遺跡らしき建物の奥へ逃れたようですが、いずれも深手を負ったように見えました」


 ゲンザン・グロウが報告を始めた。その間、デイジーの胸元では、お人形が酒瓶をラッパ呑みにしている。


 今のところ、神樹のルティーナ・サキールが関わっている様子は無い。しかし、フランナが暴れた遺跡は神樹の森から、わずか10キロしか離れていない。神樹の森が、魔界からの侵入者を見張っている・・公言通りなんだけど。


「コウタさん」


 ユノンが話しかけて来た。


「なぁに?」


「この樹海を支配しませんか?」


「・・はい?」


 ユノンさん、何を言っちゃってますか!?


「そうすれば、誰が味方で誰が敵か、すぐに分かると思うんです」


「いやぁ・・それやると、みんな敵になっちゃうんじゃ無いかなぁ?」


「そんな事は無いですよ。味方についてくれる人達はいっぱいいます」


「そうかなぁ・・?」


 ぐいぐい来るユノンに圧されつつ、助けを求めて視線を彷徨わせたけど、デイジーはアレだし・・、大鷲オオワシ族はアレだし・・、フランナはアレだし・・。


「闇谷の曾祖父様はどっちつかずですけど・・あっ、お母様とクインルー義姉様は味方をしてくれます。誓印紙を差し出してくれました」


「えぇっと・・」


 ユノンさん、ちょいちょい闇谷に戻ってたけど、そんな物騒な仕込みを・・。


「もちろん、ロッタも味方ですよ」


「お、おう・・」


「鬼人族のパシェーラさんも力を貸してくれるそうです」


 い、いや・・それ、どんな女子会? 集まって何をお喋りしてんの? 女子会って、恋バナでキャッキャウフフじゃないの?


「コウタさん」


 間近に身を寄せて、ユノンがじっと見つめてくる。


「は、はい」


「樹海は、未だに凶魔兵にも苦戦してるんです。もちろん、蛙巨人ジアン・トード巨蜂ホーネットを必死に、命がけで退治している状況です」


「えっ、そうなの?」


 まだ蛙巨人ジアン・トードとかと死闘やってるレベル? ヤバいでしょ・・。世の中、凶魔兵、悪魔どころか、貴族級も居るって言うのに・・。


「樹海の民って、外の・・平人より強いと思ってたけど?」


「強いですよ」


「むむ?」


「ノルダヘイルの民がおかしいんです」


「・・まあ、"迷宮ちゃん"で訓練してるし」


 でも、迷宮なら樹海にもあるんだし、訓練ならできるはずだけど。


「みんな、どんなに鍛錬しても限界が来るんです。種としての限界・・前に話をしたじゃありませんか」


「ん・・あぁ、神酒か!?」


「はい。あのお酒、ちょっとおかしいですよ?」


 ユノンが目元に笑みを浮かべて俺の眼を覗き込んでくる。


「神酒が・・おかしい?」


 俺は、神酒を取り出した。自分でも時々飲んでいるけど、変化には気づかなかったなぁ?


 ユノンが近づいて来て、じっと瓶の中身を見つめる。


(お酒の賞味期限でも切れたかな?)


 最近、艶が増した感じの酒屋の精霊さんを思い浮かべて俺は首を捻った。


「やっぱり・・兎さんの気が混じっています」


 何が見えているのか、ユノンが眼を細めるようにして神酒を見ながら口元を綻ばせた。



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