第198話 神の星屑

"・・それは星系の担当で処理させろ! いちいち、本部に照会させるな!"


"ですから、彗星軌道は時空設定の誤差でしょう! 監督者は何をやっていたのですっ!"


"次元の歪みを放置するなっ! 十分な担当者を派遣してあるだろう!"


"新生体の保育を優先しろっ! 緊急保護措置を急げ!"


"侵入体イリーガルの特定はまだかっ!? 警備隊は何をやっている!"


"クソッ、今度は何だっ!?外宇宙の星系などどうでも良いっ!駐在で処理できぬなら管理区から切除しろっ!"


"機体の使用を許可します。直ちに処理しなさい"


"先遣者を廃棄、後継者を派遣しろ"


"また侵入者イリーガルか! 抗体防壁はどうなっている!?"


"敵性文明の残滓ざんしを残すなっ! 分解後は徹底洗浄しろ!"


"保全区画の警備大隊が全滅だとっ!? 全警備者に、重兵装を許可する!防隔壁を封鎖しろ! 機体化兵マシナリーはまだか?"


"精神隔壁に寄生型強襲艦っ! 処理部隊を派遣します"


"侵入路確定、残留物の分析開始"


"外星系担当官など待たせておけっ!"


"各惑星支部局、中央管理区から切り離せ! 侵入経路となっているぞ!"


"未確認の構造体が接近っ! 外殻部で精神汚染を仕掛けてている! 至急排除せよ!"



 混乱を極め、負の感情が支配する伝達網の中に、



 ビィーーーーーーーーー



 不意に高音の警報が鳴り響いた。

 緊急事態を報せる警報音だ。



『・・神を気取った道化どうけ達に告げる。我は、タケシ・リュードウ。貴様ら道化どうけどもの上位互換体であるぞ!』


 いきなり、伝達網の中に、得体の知れない意識体が割り込んできた。


『永きに渡る探査活動の末に、貴様らの精神が保存された母艦ゆりかごを突き止める事に成功した。記念すべき瞬間を迎えることができ、我は嬉しく思う・・・ああ、道化どうけ達よ。君達の永遠なる母艦ゆりかごは、もう時空転移はできない。存在次元の変更もできない状況下にあるのだ。非常に危険で、事故の起こりやすい、通常空間に存在が固着してしまった』



"馬鹿なっ! 何だ、これは!? どこから侵入されたのだ!"


"保安部隊キーパーは何をやっている!?"



『我が愛すべきアーマ・ドールによって狩られているのだ。道化どうけ達よ』



"アーマ・ドールだと? いや、中央管理区には近づけるな! 全機体の使用を許可する!艦内から駆逐しろっ!"


『ふははは・・せいぜい、抵抗してみるが良い。航行能力を失い、精神体の転写経路を封鎖され、貴様らの記録体ユニットは棺桶に等しいぞ?』



"貴様、何者だ!?"



『タケシ・リュードウだ。地球という惑星から拉致され、惑星デギーザで異世界遊びをさせられた者だ』



"・・クソッ、どこの惑星が!?"


"外宇宙星系区の開拓惑星カントリーです。辺境惑星間での知的生命体、入植実験中との報告があります"


"経路遮断しろ! 辺境区など放棄で良い!"



『遅いのだ。道化どうけ達よ・・もう遅いのだ。これより後は、このタケシ・リュードウが管理者として惑星デギーザを支配する。君達の干渉は邪魔になるので、管理下に置かせて貰うぞ』



"そのような惑星など、貴様にくれてやる! さっさと立ち去れっ!"



『・・ほう、我がアーマ・ドールと互角に戦っている者が居るではないか。精神体となって久しいだろうに、未だ肉体の扱いを覚えて居るようだな』



"アーマ・ドールとやらも、わずか62体ではないか。外殻に係留した貴様の船はすでに破壊したぞ?通常空間とは言え、移動経路を遮断され、移動手段を失っては、貴様もここを墓場とするしかあるまい"



『ふふふ、この場の我は予備体に過ぎんのだよ。道化どうけ達よ』



"なんだと!?"



『三位一体・・だったのだが、手違いがあって、現在動ける精神体は一体のみ。だが、この場の精神体が滅びようとも、残してきた精神体は近々復帰する。ご心配には及ばないのだ』



"そのような辺境惑星カントリーの・・管理下にある生物が何故我らの存在を知った?"



『無論、惑星の管理者から聴いたのだ。かなり前の事だがな。我が最愛の者を蘇らせるためには、どうしても神と称する管理者どもの力を借りる必要があったのだ』



"そのような報告は上がっていない"



『精神体を拉致したからな。手紙を書け無かったのだろう』



"・・アーマ・ドールとやらが劣勢のようだが?"



『ふむ・・これは誤算だな。まあ、アーマ・ドールは爆発と同時に精神体を死滅させる物質を散布する。楽しみではないか』



"辺境区は専用の肉体を所持した者を配備している。万一の場合でも、独立して惑星管理を行えるぞ?"



『大いに結構だ。いずれ、我が手足として働いて貰う者達なのだからな』



 ビィーーーーーーーーー



"統括星系内に・・・亜空間潜行艦が出現しました。こちらの統制下にありません"


"なに?"



『む?』



"発射光が観測されました"


"なんだと?"



『ふぁ?』



"宙域使用が禁止されている光圧型リドニウム尖砲弾ですっ! 防御不能っ! 防げませんっ!"



 ビィーーーーーーーーーーー



 警報音が鳴り響くのと同時に、ズンッ・・と低く籠もった震動音が艦内を揺るがしたようだった。


"情報体オリジン保管庫、大破っ! 防隔溶解っ! 強電磁波が保管庫内に発生っ!"


"・・終わりだ"



『お、おい?』



"続いて、リジン震甲弾来ます!"


"外殻アウターシェル上区画から中央セントラル区画にかけて消失・・外殻アウターシェル防衛機能の4割が機能不全となりました"


"艦外へ迎撃に行ける機体は?"


"保安部隊キーパーは侵入体と交戦中"


"・・・見事な陽動だったと言わざるを得ないな。タケシ・リュードウ・・"



『いやっ、これは俺じゃな・・』



"リドニウム尖砲弾、来ます!"


"我々は、各惑星に知的生命体を繁殖させる一方で、惑星間の戦争などが起こらないよう包括的な統制下に置いて来た。こうなっては、各惑星に置いた支部ごとの管理能力に期待するしかあるまい"



『な、何を諦めたような事を言っている!諦めたら、そこで終わりだぞ!』



"かつて星系間大戦により、数億を超える知的生命を失った。それを愚とし、二度と繰り返さぬための管理網だったのだ。惑星ごとに、知的生命体に受け入れやすい超常の存在として君臨し、度が過ぎる災禍、戦争行為が発生せぬよう監督し・・"


 独白のような声が響く中、再び、艦内を震動音が揺るがした。


"リドニウム尖砲弾、着弾しました。予備サブ次元通路シンセライン予備サブ保全区間セーブゾーンが消滅っ! 情報体、精神体共に脱出経路ラインが絶たれました!"


"・・時には力を与え、時には罰しながら永き時を管理し続けて来た"



『待てっ!とにかく、今は・・俺は外で撃っている奴を知っている! 奴と話をさせろ!』



"リジン震甲弾、発射されました"



『急げっ!とにかく、話を・・』



"亜空間潜行艦より通信っ!"


"・・繋げ"



『おお、よ、よし・・』



『やあ、神様ごっこを楽しんでいる皆さん、こんにちは』



『き、貴様っ、化け兎か!?』



『おや、タケシくん、妙な船に乗ってるね』



『貴様っ、何をやっているのか分かっているのか!?』



『蜂の巣を壊してまぁ~す』



『い、いや、とにかく待てっ! 俺の話を聞けぇーーーっ!』



『話は後で聴くよ。タケシく~ん』



"リドニウム尖砲弾、光圧確認"



『この惑星は文明の記録そのものなんだぞ!?宇宙に点在する知的生命体の所在全てが記録されているのだ!』



『ほほう?』



"・・リドニウム尖砲弾、発射確認・・・"



『きっ、貴様ぁーーーっ!このクソ兎めがぁーーーっ!』



"続いて、リジン震甲弾が斉射されました"



『うははは・・我こそは、ノルダヘイル国王、コウタ・ユウキであ~る!』



『いいから、話を聞けぇーーーっ!』



"リドニウム尖砲弾、装填っ!"



『待て、このクソ兎っ!』



『ファイエル!』



『な、何がファイエルだぁっ!』



 タケシ・リュードウの叫びも虚しく、凶悪な破壊兵器ファウル・ディザスターが母艦中央部に撃ち込まれた。


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