第197話 戦いの前に・・。


 題記の件、色々な国が連合してノルダヘイルを敵国認定したそうです。

 と言っても、ノルダヘイルに攻め寄せるには、大河を渡るか、空を飛んで来るしか無い。今となっては懐かしい、奴隷狩りをやっていた国々が攻めて来た時と同じルートだろう。

 あの時ならともかく、今なら何人押し寄せて来ても問題無いです。

 

 搦め手で樹海の民が裏切って攻めて来ても問題無いです。


 神樹の兵が攻めて来ても問題無いです。


(うん、これは放置で良いな)


 報告書を籠へ入れ、次の紙を手に取る。


(いや、待てよ? こんな意味の無い宣戦布告とかやる? その辺の国がいくつ集まっても、ノルダヘイルに勝てるわけ無いでしょ?)


 何か奥の手があるのかな?

 うちを脅かす可能性があるのは、リュードウと悪魔の軍勢か、見たこと無いけど神の軍兵? そのどっちかが裏で画策している?


「コウタさん?」


 ユノンがお茶を差し替えながら顔を覗き込んできた。


「ん?」


「闇谷のお母様に会って来て良いですか?」


「うん、良いよ。ああ、ついでに長に会って、神樹さんがノルダヘイルに敵対したら、どっちにつくのか訊いてみてくれる?」


「はい、分かりました。敵対すると言われた場合はどうしましょう?」


「何もしなくて良いよ。あと、神樹へ行って、ロートリングにも同じ質問をしてみて」


「はい。鬼人族はどうしましょう?」


「ああ、そうだ。あっちは、アルシェにお願いしよう」


「分かりました。伝えておきますね」


「うん、よろしく。そう言えば、デイジーは?」


 朝から見ないけど?


「大鷲のハクダン達が”迷宮ちゃん“で壊滅しかかっているそうです。ゲンダンさんの要請でアヤを連れて救援に向かいました」


「あらら・・あいつらが壊滅とか、何層なんだろ?」


「51層らしいです」


「ふうん・・まだまだだねぇ」


「あの階層は貴族級が足元の影から不意打ちしてきます。対応しきれなかったのでしょう」


「ああ、そんな感じだったね。あそこで、何人も命を落としてるもんなぁ」


「慣れると難しくは無いのですけど・・じゃあ、行って来ます」


「うん、行ってらっしゃい」


 ユノンを見送って、俺はふと思い付いてサクラ・モチの上甲板へ登ってみた。今は岩山ふうの偽装にしていて、ゴツゴツした岩の中に小さな小屋がぽつんと建っていた。


「カグヤ」



『司令官閣下』


 軍服女子がピシッと背筋を伸ばして現れた。



「ちょっと宇宙へ行ってみたい」



『観測器の情報を御覧になりますか?』



「いや、外から見たくなった」



『承知しました。20秒後に周回軌道まで移動します』



「頼む」


 小屋の軒先に座り、ぼんやりと空を見上げながら俺は陽の光に眼を細めていた。



『移動します』


 カグヤの声と共に、周囲の景色が一変した。


 同時に凄まじい冷気と悪寒が全身を包む。しかし、それも一瞬のことだった。すぐに、何事も無かったかのように身体が慣れる。極低温で放射線で満ちた空間で、無呼吸のまま・・平然と立っているのだった。



『司令官閣下』



「・・宇宙は静かだな」



『極小の隕石群が周回軌道を通過するようです。破壊しますか?』



 カグヤの声と共に目の前に映像が投影された。



「やってくれ」



『はっ』



(極小・・確かに小さいな)


 以前に破壊した彗星に比べれば塵のような大きさだった。攻撃を加えて破壊したのは、衛星軌道上にある観測器だ。フランナの撃つビームとは違う、光帯のような物を照射して細かく粉砕していた。


「今後も、隕石群を発見したら、同様の処理をしてくれ」



『はっ、承知しました!』



「カグヤ、お前の推考を聴きたい」



『対象をご指定下さい』



「この惑星上に、サクラ・モチと同等以上の能力を持った船は存在するか?」



『チュレックと称される地点での決戦兵器として投入された艦船、その残骸は司令官閣下により保管されております』



「・・神と自称する連中は、サクラ・モチの機能凍結を行えた。何故だ?」



『当艦をる存在による操作が行われた可能性が極めて高いと思われます』



「サクラ・モチをる存在とは、昔にこの船に乗っていた人間か?」



『当艦の乗組員は、長期に渡る外宇宙航行用に精神体をユニット化して様々な作業体や戦闘体を操作していました。司令官閣下の仰る人間とは相違を感じます』



「そうだな・・カグヤ、お前も、そのユニット化された存在か?」



『私は操艦用に強化処理された知能体であり、完全なる創造物です。付け加えるなら、当艦には精神ユニット体は存在しません。ユニットは総て母艦に保管されており、遠隔にて当艦を含む決戦兵器の運用を行っておりました』



「なるほど・・しかし、その姿はとても人間らしい」



『これは、かつて遭遇した敵性体の戦闘員をしたものです』



「この宇宙で遭遇したのか?」



『はっ、かつては同一惑星上で共存していた知的生命体だと、遺伝子の分析記録が残されています』



「・・母艦からの操作を受け付けないようにできるか?」



『母艦のユニット体が当艦を敵性体として指定し、攻撃を受ける可能性があります。当艦は母艦への直接攻撃を禁じられているため、有効な攻撃手段の行使が限定的になります』



「母艦への直接攻撃はできないが、母艦のユニット体からの操作も受け付け無いんだな?攻撃以外に制限はあるか?」



『攻撃行動以外は問題ありません。母艦破損時の無管制状態に準じた自律航行艦となります。なお、無照準による砲撃は可能です』



「自律航行になった場合、カグヤはこれまで通りに存在するのか?」



『完全に機能します』



「よし・・今すぐに母艦からの全ての干渉を断ち切れ。これまで通りに操艦はカグヤに一任する」



『はっ、ただちに緊急自律航行に移行します』



「・・どうだ?」



『成功しました。自律航行中です』



「問題は?」



『現在、いかなる障害も認められません』



「観測器はどうだ?」



『情報に誤りが認められます。当艦の管制下を離れております』



「破壊しろ」



『了解です』


 即答したカグヤだったが、


『母艦の管制下にあるようです。攻撃対象として指定できません』



「なるほど・・では、俺がやろう」


 俺は愛槍キスアリスを手に取った。


(頼むよ、キスアリス・・俺の言う事を聞いてくれ)


 そっと表面に指を走らせつつ、


「霊刻、第九紋、解除・・」


 小声で呟いた。すぐに、ブゥン・・と低周波音を鳴らせて愛槍キスアリスが淡く光を帯びた。


(ようし、これからも・・頼むよっ!)


 俺は愛槍キスアリスを投げ放った。

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