第196話 魔界開拓、報告会
高温からの極低温・・。
魔界を襲った隕石群が引き起こした厄災により、大勢の魔界の人々が命を落とした。
爆風やら高熱の竜巻やら山脈を飲み込む津波やら、土砂降りの毒雨やら・・生物も大半が死滅してしまい、太陽の光が届かない地下で生息していた少数民族や環境の激変に耐えた生物だけが生きる世界・・。
これから気が遠くなるような年月をかけて、ゆっくりと回復していくだろう魔界が、急速な復興を開始している事はまだ知られていない。
樹海にも、チュレックにも教えていない。なぜなら、復興した場所から順にノルダヘイルが支配していくからです。
魔界をデイジーの結界で小エリアに分割し、太陽光を遮る微粒子の撤去、成層圏を擬似的に構成、植物の植樹、強制育成により大気成分を調整し・・。手間暇かけて復興させた土地を、くれてやるつもりはありませんよ?
なので、魔界門の隔離は念入りに行って、逃げ出した連中が勝手に戻れないよう徹底しています。火事場泥棒、上等!なのです。
もうね。俺の中では、魔界=ノルダヘイルになってますから。
エリアには土着の名称のほかに、数字を割り当ててあります。
今は、0000から0087まで環境改善済みで、単純計算で50万人が生活できる広さがあります。まあ、先は長いよね。
逃げ遅れていた魔界の住人は大半が病気やら怪我やらしていたので、デイジー率いる治癒部隊が大活躍し、しっかりと刷り込みを行い、俺はもう魔界の救世主扱いです。道端で女の子に声を掛ければ、歓喜で失神するレベルです。
お陰で、気軽に散策が出来なくなりました。
デイジーさん、やり過ぎですよね・・。
凶巫女さんだからなぁ・・。
仕方ないかなぁ・・。
「陛下・・以上が、復興状況の説明となります」
ホウマヌスが恭しく身を折った。
会議用の長机には、旧来のノルダヘイルの人間から魔界の住人まで入り乱れて着席していた。総勢、102名。ギィーロンに始まり、俺に恭順した住人達からめぼしい奴を見つけて小集落ごとに取り纏めをさせている、その面々を一堂に集めての情報共有会だった。
「悪くないね。土も水も回復しているみたいだし・・作物がもう少しかな?」
適応して育った穀物は安全に食べられる物だった。種類も増えている。野菜や果樹の栽培も順調だった。まあ、半分以上は変異して魔物となったり、実に毒を持ったりして魔瘴気の中では育てられない事が分かった。
意外に苦労しているのが、魔界産の動植物の確保だった。ほぼ瞬時に厄災に見舞われて弱い生き物が死滅してしまったのだ。
「はい。土中の微細な生き物までが死んでしまいましたから、それらの蘇生には今少しの時間が必要かと思います」
「うん、目処が立っているなら良いよ。今、空の・・大気の調整に手間取っているからね。計算通りに進めば、もう3月ほどで調整がひと段落して天気が安定するみたいだ。向こうの生き物を連れて来ているけど、様子はどうかな?」
「魔瘴気に順応する生き物は少ないですね。それでも、2割程度は変異する事なく繁殖しているようです」
2割も残れば御の字かな?
魔物になっても食物連鎖を形成してくれれば良いんだけど。野ウサギ、イノシシ、鹿が魔瘴気の中でも魔物にならずに繁殖してくれた。河水ごと運んだ水棲の虫やら魚貝も多少は適応しそうだという。もっと苦労するかと思っていたから、今のところ順調過ぎるくらいだ。
「うん、良い感じだね。避難してくる人達の保護は?」
「ギィーロンの尽力により、多くの部族を誘導しております。一方で、こちらの説得に応じずに死滅のみちを選ぶ者達も少なくありません」
「そうか・・土地は大量に余ってるんだけどなぁ」
「はい。凶魔兵や悪魔共との交戦予想地点を除く土地は、ここに集まった者達を長とした集落として自由に開墾させて頂いておりますが・・広すぎて処置に困るほどです」
ホウマヌスの説明に、集まっていた魔人達が明るい笑い声を立てた。すでに、衣食住は何ら心配いらないレベルに達している。失われた什器類も必要最低限の物は支給されていた。もちろん、死の世界となってしまった故郷に帰りたい想いを抱えた者も居るが、それすらも決して夢物語で無く、近い将来に実現しそうなのだった。
「悪魔達は、最近こそこそと入って来るんだよなぁ・・隠れて逃げ回るくらいなら来なければ良いのに」
もう、うちの大鷲族は、悪魔はもちろん、貴族級の悪魔ですら問題なく討伐できる。哨戒する大鷲族の小隊が発見した端から斃している状況だった。
「悪魔達も、魔界の急速な復興が物珍しいのでしょう」
「悪魔の棲家も吹っ飛んだからなぁ、何処かに住んでいるんだろうけど・・あいつら家とか建てるのかな?」
「うふふ・・それらしい拠点を見つけましたらご報告いたします」
「うん、お願い。あと、ノルダヘイル以外の人間が入り込んだら排除ね」
「はい。承知致しました」
ホウマヌスがお辞儀をした。まあ、魔瘴気に耐えられる人間しか入って来れないんだけど。マスクとか、何か魔道具を発明して侵入してくる可能性はある。
「それから、人界へ逃れた魔人達からの接触が2件ございました」
「へぇ?」
「一つは、旧九皇家のブルアリーン・ドイセ・サグーン。もう一つは、デギオヌ・ワウダール。どちらとも面識はございます」
「なんだって?」
九皇家というのは魔界の支配者達で、何とかって家の奴をフランナがまとめて斬り捨てたと報告を聴いた覚えがある。
「ブルアリーンは、浄化された土地を献上しろ、浄化の技師を寄越せと。デギオヌは、陛下に御目通りを願っております」
「ふうん、まあ、ブル何ちゃらは殲滅しよう。それと、デギオヌには会ってみよう。アルシェ、近衛を連れてブル何ちゃらを討伐して来て」
「畏まりました」
花妖アルシェ・ラーンが低頭して踵を返した。リリン達が付き従って退室して行く。
「デギオヌには、どちらでお会いになられますか?」
「人界だね。ノルダヘイルの迎賓館が良いな」
近頃、お客さんが少なくて迎賓館が寂しい感じなのです。
「では、そのように伝えておきます」
「しっかし、土地を差し出せとか頭おかしいよな」
対価の提示も無く、ただ差し出せとか良い度胸じゃない。
「九皇家は代々それが許されておりましたから、この地に残された下々の苦労など気にかける事はありませぬ」
そう言うホウマヌスさんの声にも怒りが含まれている。
「 まあ、もう、七皇家になっちゃうけどね」
「ふふふ、強者であればこその九皇家です。悪魔貴族にも対抗できず、逃げ惑うばかりの者など滅びれば良いのです」
「ぉ、おぅ・・」
星詠みさんの笑顔が怖いんだぜ。
ところで・・。
「デギオヌという人は、どっかの王様か何か?」
「九皇家が生まれる前、魔王の御代において宰相を務めていた人物です。世を捨てたようになっておりましたが・・何か思う所があったのやも知れませぬ」
「ふうん、今は何処に?」
「かつて、私の館があった場所を訪ねて行き、建屋を修復しつつ住んでいたようです」
「へぇ・・迷宮か」
あの迷宮は人界と魔界の狭間のような場所だった。陽の光は拝めないが世捨て人を気取るには悪くない所だね。
「あの者は、誓約によって人界には踏み入れないのです」
「なるほど・・面白そうだね」
「コウタさん、その人に会った事がありますよ?」
不意に、ユノンが言った。
「へ? いつ?」
「初めて、ホウマヌスさんの館へ着いた時に」
「むむ・・」
そんな奴が居たかな? まあ、ユノンが言うなら間違いないけども・・。
そうか。会った事がある人か。
ホウマヌスの口ぶりからして九皇家より話が通じそうだし楽しみだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます