第192話 床の間
ユノンが声も無く身体を痙攣させて反り返る。しっとりと匂やかな肢体を組み敷くように両腕で細い腰を掴みながら、俺も痺れるような快楽に身を任せていた。
ややあって、崩れるように寝具の上に身を倒した。
(うぅ・・また、やりすぎちゃった)
俯せに倒れたまま、そろそろと身を動かしてユノンを解放する。
(・・俺って、こんなんだったっけ?)
チリチリと余韻で痺れる頭で、ぼんやりと思いを巡らせる。
ユノンやデイジーの身体に、ここまで溺れるとは想わなかった。もう、自分でもキリが無いというか・・いつまで経っても萎えないというか・・。
ちらと隣を見ると、先に戦線を離脱したデイジーが静かに寝息をたてている。
もう片側では、ユノンがまだ煙るように焦点の定まらない瞳を開けて乱れた息をついていた。
「・・ごめんね」
申し訳無いとは思うんだけど・・。だって、俺の中の男の子が
(今は夜?・・同じ夜・・じゃ無いよね)
過去の実績的に、かなりの高確率で、開始日の夜から幾日か経っています。
(・・うん、深く考えるのは止そう)
立ち上がって水挿しの水を口に含むと、そっと洗精霊を喚び出して、部屋ごと洗って貰う。
(ふっ・・証拠隠滅なんだぜ)
個人倉庫から生地の柔らかいローブを取り出して羽織ると、清潔な掛布を寝台の2人に掛けてあげる。
(それでも、前よりはコントロールできてる?)
どこかで自我を保てたというか、ぎりぎりのところで忘我に陥らずに耐えた気がする。たぶん・・。
さて・・。
このままだと、また2人に襲いかかってしまうので・・。
(・・耐えろ、俺っ!)
念じつつ、幼女の身体に変じた。
良いんだ。もう慣れました。
俺は、ちゃんと男子なんだからね?
とは言え、この姿で人前に出るのは抵抗があります。
なので・・。
(お邪魔します)
俺は寝台に戻って、掛布に潜ると2人の間へ身を横たえた。
欲情状態が鎮まるまで眠るに限る。
(ふぅ・・・それにしても)
リュードウの操るロボ・・アーマ・ドールの最後の自爆は危なかった。いや、俺自身は耐え切れたと思うけど、あの土地一帯は広範囲に渡って爆発に巻き込まれていただろう。
ただの爆発じゃない。範囲内の生物を死滅させる毒素を含んだ爆発だった。あのロボは、そうした兵器なのだ。
(壊したら爆発する。壊さないと攻撃してくる)
面倒なやつだ。
(ん?・・でも、あの場には、アヤも居たんだぞ? あいつ、アヤまで巻き込むつもりだったのか?)
ロボを斃されたって、また別の機会にアヤを取り戻しにくれば良いわけで・・。
(・・おかしいよな?)
あれだけ執着している女(?)を巻き込むような爆発をする? いや、アヤなら爆発で粉々になっても蘇りそうだけど・・。
(でも、あの毒素はヤバいだろ?)
ちょっとした化学兵器ですよ? カグヤに分析させ、デイジーに対策させているから、次回は問題無いと思うけど・・。初見だと、デイジーの魔法でも危うかったかもしれない。
まあ、呑み込んだんだけどね。
おかげで、お腹が雷鳴みたいな音を立て続けたし・・。
その反動って言うの? 快復と同時に、こう・・気持ちが盛り上がっちゃって、ユノンとデイジーに襲いかかったという流れです。
(・・これが生存本能か!)
適当な事を考えつつ、俺は仰向けに寝たまま腕組みをした。
ぶっちゃけ眠くありません!
いや、男の子としての欲情は消えました。なので、そっちの気分は大丈夫なんですが、眼は
不本意ながら、幼女の時、俺の思考回路は最大限に仕事をしている気がします。この時間は、誰の邪魔も入らないしね。
(・・なるほど)
あの毒素は、アヤを害さない物質・・あるいは、アヤは毒素を無力化できる能力を持っている。それは、月光の女神様の加護を上回るもの・・。加護練度の高い俺ですら、お腹がピーピーゴロゴロ大変だった毒素を、無害化する力を持ち合わせているという事だろう。
(リュードウ・・悪魔を兵隊にしている。それに、あの機械兵・・アーマ・ドール。多分、あれは誰かが操らなくても動くんだろう)
アーマ・ドール、悪魔貴族、悪魔、凶魔兵・・俺を、いやユノンやデイジーを狙って来るのなら、撃退する自信がある。
(でも、広範囲で同時に行動されると手に負えないなぁ)
リュードウの執着心なら、アヤを放置して他所を攻めるとは考えにくいけど・・。
(・・まだ攻撃を仕掛けてこない)
嫉妬に狂って数押しの攻撃を仕掛けてくると読んで、
(俺を恨みと狙って来るわけでも無く・・)
何処で何をやっているのだろう?
本気で自分の女を取り戻そうと思うのなら、少しでも早く助け出そうとするはず。
どこかで俺達の様子を監視し、
(何をやっているのか分からないと言えば・・神様達も)
宝石人形を見つけた時は攻撃を仕掛けたらしいけど、今度もリュードウを攻撃しているんだろうか?
(神の兵・・?)
天使とか、使徒とか呼ばれる連中にリュードウ達を襲わせている?
(でも、神様って強いんかね? 剣神の加護持ちとか、弱っちぃ奴ばかりだったよ? リュードウを相手にするなら、加護持ちなんか、もう戦力外でしょ?)
人間同士が国盗り合戦をやるんなら加護持ちは重宝するだろうけど、ぎりぎり凶魔兵くらいなら相手に出来る? 俺の知らない凄い加護持ちが居る?
(俺って、結構派手にやってるけど、どこの国も攻めて来ないよね)
神樹の森やチュレック王国を煙たがっている?
ノルダヘイルを新興国だと侮って無視している?
魔人達が各地を侵略中で、こちらへ割く戦力が無い?
(・・順当なら、魔人相手に苦戦していて他国を見ている余裕が無いって感じ?)
なら、チュレックを攻撃してきたという、リューギ海王国・・ギノータス連邦はどうなんだろう? あっちは兵に余裕があるの?
(凶魔とか・・悪魔にも、魔人にも襲われていない?)
そんな国があるだろうか?
(・・って、あぁ・・)
これは、アレだ。魔人か、リュードウか。後は神様? どこかの陣営がバックについてるね。だから強気になって周辺諸国を攻めている。
(ギノータス連邦ねぇ・・)
チュレックのディージェが、妙な加護持ちの兵団に襲われたって言ってたっけ? 聴いた感じだと、即製の兵士という印象だったけど・・。
(即製・・というのが問題なんだな)
たいした訓練もせずに、ある程度の練度を積んだ加護者を苦しめるほどの対人専門の兵士を大量に揃えられる国か・・。
後ろ盾になっているとしたら、神様か、リュードウかな? 対人専門の加護技だって話だから、神様かねぇ?
(リュードウが来ないのなら、チュレックの様子を見に行こうかなぁ?)
魔界の状況も見ておきたいけど・・。
「難しいこと、考えています?」
いきなり話し掛けられて眼を向けると、ユノンの美貌が間近にあった。瞳が触れそうなくらいに近くで見つめている。
「ちょっと、これからの事を考えてただけ」
「私に時間を貰えます?」
「うん、もちろん、何時間でもあげます」
そう答えた俺を、ユノンが抱きしめてきた。どこかヒンヤリとした柔らかい身体に包まれて身動きが取れなくなった。ほんのりと甘い香りに包み込まれる。
香水とか着けてないはずなのに・・良い香り・・。
「ユノン?」
「このままで・・私達と一緒に眠ってください。こうしていると、とても落ち着くんです」
「・・うん」
ここは大人しく従うところでしょう。どうせ幼女の姿だと、ユノンには敵わないし・・。
「子守歌を歌いましょうか?」
どこか笑いを含んだユノンの囁きを聴きながら、
「良いねぇ・・」
俺はゆっくりと瞼を閉じて眠りに落ちていった。
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