第188話 ホット・ストリーム
(ですよね・・)
誰だって分かるよね? ええ、マグマでしたよ。
>解説しよう。
うちの有能な
以上。<
足下にポッカリと開いた穴の下を、サラサラな燃える液体が流れているおかげで、掘ってきた縦穴が溶鉱炉さながらの熱に包まれて、もう、身も心もポカポカなのさ。
マグマって、もっとドロドロかと思ってたんだけど・・。
「さて・・」
これだけ輻射熱でこんがり灼かれても平気ということは、どうやら俺はマグマくらいでは死なないらしい。たぶん・・。
(で、でも・・火傷とかしない?)
どう見ても、泳いだら駄目な感じなんだけど・・。
『司令官閣下?』
いつまでも動こうとしない俺に、
「お、おう・・いや・・生まれて初めて見る光景だったから、ちょっと見とれてしまった。ははは・・」
男の子の
『確かに、美しい流れです』
「・・うむ」
俺は覚悟を決めた。ここは、男子として退けない場面です。
(これ・・足から行くべき? それとも頭から?)
どちらも結果としては変わらないんだろうけど・・。
『閣下、位置情報に修正を加えます。80メートルほど流されたようです』
「む・・うむ」
色々と待った無しなんだぜ・・。
俺は身体の力を抜いて足先からマグマに浸かって行った。
(・・あづぅぅぅぅーーーーーーっ!?)
熱っついじゃん!? アホかってくらいに熱っついじゃんか!
何なの? 俺を丸焼きにしようっての? いや、自分から浸かったんですけどっ?
(むぎぃぃぃぃ・・・)
うちの爺ちゃんの浸かってた風呂ぐらい熱いんだぜ! ゆで卵が作れそうなんだぜ!
(・・・ふむ)
まあ、一瞬で慣れました。
ちょっと熱めの露天風呂って感じかな。頭まで浸かってて、マナーが良いとは言えないけど。仕方ないよね。水面・・じゃないマグマ面?まで浮かんでも、天井高が無いし?
(あれぇ?)
俺は熱々な
今、気がついたんですけど、体が流されませんよ? 川のように勢いよく流されるんじゃないの?
(こんなんで、船の装置が流されるって、無理でしょ?)
もちろん、うちのカグヤさんが探知した情報だから移動しているのは確かなんでしょう。でも、これは・・。
首を捻っていると、
『コウタさん』
ユノンから伝話が届いた。
『魔界のジエルゴという部族を追っている武装集団に、
「ぶっ壊して良いよ」
『了解しました。他の悪魔、凶魔兵と一緒に破壊します』
ユノンから伝話で返事が返った。
うむ。淡々として物騒な奥様、とっても素敵です。愛しているので、いつまでも仲良しでいましょうね? ね?
(さて・・)
気持ちも新たに、マグマの中を見回して・・まあ、なにも見えないし、眼球とか熱いです。
(・・これかな?)
マグマの流れに、ちょっと異質なノイズが混じっている。頼りになる兎耳が活躍してくれます。
(よし)
俺は平泳ぎで泳ぎ始めた。クロール? 苦手なんです。
(・・うん、俺って息継ぎ要らないっぽい?)
マグマの中で普通に鼻から呼吸できるんですけど、どうなっているんですかねぇ? 俺、某男に唇を奪われた
呪髪を伸ばして周囲の地形を把握しつつ泳ぎ進んで行くと、おぼろげながら巨大な空洞に溜まったマグマの中に居る事が分かった。
マグマに潜り始めてから、数百メートルとかじゃ無くて、たぶん数キロとか泳いでいるけど、未だに底に着きません。とんでもなく広いですよ、ここは。
『コウタさん、
「ジエルゴはホウマヌスさんに任せて、サクラ・モチで休憩してて。俺も目的の物を回収して直ぐに戻ります」
『分かりました』
(うむ・・貴族級悪魔に同情を禁じえません)
いくらユノンでも、正面きって多勢の貴族級や宝石シリーズを相手にするのは簡単じゃ無い。
多分、ペットのマジュオンを使った不意討ちからの広域殲滅魔法、生き残りに凶威力の単体狙撃魔法・・という連続攻撃で、設置した凶悪な
だって、何度も見せられたパターンですから。近頃は、"迷宮ちゃん"で本物より強い貴族級を殲滅していますからね。
悪魔さん達のご冥福をお祈り申し上げます。
(おっと・・)
どうやら目標物らしき物体に近づいた感じです。目視はできないけど、音で判別できるからね。この場合、水音とは言わずにマグマ音かな?
距離にして、もう200メートルも無い。一掻きすれば手が届く所まで来た。
周囲に呪髪を伸ばして触覚代わりにして泳いでいると、ようやくマグマ以外の物質が触れたのが判った。
(・・思ったより大きいな)
呪髪が刺さらないように意識しつつ、押して重さを確かめてみる。
(・・あれ?)
なんだか、髪を伸ばして触れている物体が向きを変え始めたような?
えっ? 流されてる装置には推進装置とか付いていないって、うちの軍服女子さんが言ってましたけど? 向きを変えるって、どうなってんの? そんな流れなんか無いけど?
(・・ひょ!?)
あ・・これ、アレだ。違うやつだ!
ハリセンボンのように周囲へ展開していた呪髪の先を押し返して、何かが周囲から包み込んでくる。同時に、マグマごと前方へ吸い寄せられ始めた。
多分、俺の正面に何かが居て、振り向きざまに俺を呑み込もうとしている。
(・・ぁ)
分析している間に呑み込まれたらしい。
まあ、良いけどさ・・。
今さら、怪獣に呑まれたくらいで驚いたりしませんよ。正直、身の危険すら覚えません。
押し包む熱気の中に、ヌルリと息づく生命感を感じつつ、物音に耳を澄ませる。
脈動する心拍らしい音・・
サクラ・モチの駆動炉とは違うが、どこか似た感じのする機械的な音も混じって聞こえて来た。
(こっちか・・)
やることは変わらない。
岩盤を
酸だろうが、毒だろうが・・もう、俺には効きません。体内に入れてしまった怪獣さんに、俺を攻撃する手段は無いのです。
(あ・・そうだ)
こんな怪獣なら、酸袋か、毒腺のような物を持っているかも? 持って帰れば、うちの
(環境改善装置というのを回収したら探してみようかな?)
脈動にも似た機械音に向かって進みながら、俺は怪獣の仕留め方に思いを巡らせていた。
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