第187話 神聖な国


 俺とアヤが向かったのは、旧名ランドール教会。神聖王国デオランダールの聖都である。


 有能な秘書"カグヤ"さんの協力によって製作された地勢図を元に、訪問する国と順番を決めていたのです。


 目的は、"船"の検分ですよ。


 各地に廃棄されていた魔導の船・・例えば、サクラ・モチのような先史文明の遺棄物など、俺のように修復して隠し持っている国があるかも知れないから。


 隕石が降り注ぐ惨劇から北半球を守った報酬として、世界各地の"船"を貰ってしまおうという事です。正当な報酬だよね? 控え目なくらいでしょ?


(まあ、ほとんどゴミ扱いで放棄してると思うし・・)


「陛下・・神殿の周囲に結界らしき物が御座います」


 前を飛んでいたアヤが俺を振り返った。


「2人が通れるくらいの穴を開けてくれる?」


「畏まりました」


 頷いたアヤが腰の日本刀を抜き打ちに振り抜き、逆袈裟に斬り下ろす。さらに、横へ縦へ・・とても丁寧な仕事ぶりです。


「5メートル四方、正方形の穴を構築いたしました」


「ふうん、そう?」


 俺にはよく見えないんだけどね。


「もう結界の穴は閉じない?」


「はい。固着させましたから・・しかし、術者の反応が御座いません。気付いた者は居ないようですね」


 アヤが静まり返っている神殿を眺めやりながら言った。

 まあ、真夜中なので寝静まってるよね。ちらちらと漏れている明かりは、徹夜でお勉強をしている人か、男と女がいちゃいちゃ愉しんでいるかでしょう。うん、きっとそう。


(でも・・本当に、誰もこちらに意識を向けてないな)


 ちょっと無防備過ぎて不気味なくらい。

 総石造り7階建ての巨館を見回しつつ、物音を聴いてみたけど、護りの結界に穴が開いたというのに誰1人として起き出す気配が無い。警報らしき音も鳴らない。


 ここの護りに信頼を置いているのかもしれないけど、これはちょっと酷い。


「う~ん・・」


 俺の予定だと、警報がけたたましく鳴り響き、あちこちから衛兵とか術者が溢れ出て来て、何者だぁーーーとか、そんな展開のはずだったんだけど。


「陛下・・どう致しましょう?」


「まあ、せっかくだから、騒ぎになるまで神殿の中を散歩しようか」


 俺は苦笑気味に言った。


「お供致します」


 アヤも微笑で応えた。


 ちらと夜空へ眼を向けて、俺は神殿の2階辺りの出窓へ降り立った。邪兎の呪髪を伸ばして隙間から入れると、窓の掛け金を内側から持ち上げる。


(うむ・・俺、泥棒もやれるね)


 部屋の中に入る。

 広々とした部屋には、長い丈夫そうな机が置かれていた。


(会議室?・・いや、食堂かも?)


 がらんと誰も居ない部屋を観察してから、俺は周囲の物音に耳を澄ませた。


 最初に、ここを選んだ理由は、ランドール教会が秘匿して研究していた大型船が地下にあるからです。サクラ・モチによる探査によっておおよその位置を割り出しているから迷いません。


「地下へ行く」


 アヤに告げて、俺は呪髪を伸ばして床を円形にくり抜いた。切り取られた床片を収納しつつ、下の部屋へと降り立つ。


 さらに、同じように床を抉る。今度は真下に部屋は無い。それでも構わずに、呪髪を舞わせて足下を切り裂き掘り進む。


 ものの30秒ほどで、分厚い岩盤をくり抜いて巨大な地下空洞へと到達していた。


(ふうん・・)


 なるほど、これは"船"だ。

 それも、サクラ・モチと同じような雰囲気をした、多分、同じ文明が建造した船だった。


「大きいですね」


 アヤが呟いた。

 二人して宙に浮かんだまま、巨大な船の真上へ移動して見下ろしている。


 横幅などサクラ・モチの5倍以上ありそうだ。ずんぐりと丸く膨れたオタマジャクシのような形状をしている。全長は、サクラ・モチの3倍近いだろうか。


(・・よし)


 ここは、専門家に登場して頂いた方が良いだろう。俺がここに到達したことで、カグヤを召喚できるのですよ。



「カグヤ」



『司令官閣下』


 即座に、軍服女子が姿を現した。



「あれは、お前の知っている船か?」



『移民船に積載されていた緊急脱出用の小型艦艇です』



「・・小型?」


 結構、大きいんですけど? こんなのが、救命ボート的なやつ?



『長距離の航行能力は有しません。当惑星に落着した時点で役目を終えております』



「ふうん・・乗っていた奴は?」



『航海記録に残されているでしょう』



「ふむ・・俺が収納した状態で、情報の分析は可能か?」



『残念ながら・・本艦を接舷の上、端子の接合を行う必要があります』



「そうか。なら、ひとまず収納して移動しよう」



『閣下』



「うん?」



『あの艦艇は、後尾部が分離投棄されております。その後尾部には簡易的な機材ではありますが、当該惑星の環境改変に資する機材が格納されていたはずです。回収して頂けると、魔界の成層圏を含めた大気成分の調整が行えるようになります』



「おぅ・・場所は探知できるか?」


 すっごいお宝じゃん! むしろ、図体だけ大きい救命ボートより、そっちの方が有益なんだけど。



『流動する液体中を移動しているようです』



「へ? 誰かが動かしてるの?」



『いえ、未稼働のまま位置のみが移動しております』



「水・・流されてる?」



『地下水脈あるいは、溶融物ゆうようぶつによって流されている可能性が高いでしょう』



「・・・まぁ、回収は任せろ。場所の特定をしてくれ」



 溶融物ゆうようぶつって、ナンデスカ? けて、けたもの? 地面の下で? 嫌な予感しかしませんが?



『27秒下さい』



「ぉ・・ぉう」



 あまり急がなくても良いんだぜ? ボクに心の準備をする時間をクダサイ?


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