第185話 ノルダヘイル・ミーティング

「王様・・」


 珍しくマリコが発言を求めて挙手をした。

 

 ノルダヘイルの動きを検討するために、主立った人間が集まっている。


「なに?」


「さっき、チュレックの人に教えていた潜水艦の話なんですけど・・」


「ん? ああ、あれね・・あやふやな知識だったから、突っ込みどころ満載でしょ?」


「いいえ・・詳しいことは私も分かりませんけど・・アズマ君と潜水艦の話をしました?」


「へ?・・アズマと? いや、しばらく会って無いけど?なんで?」


 マリコがノルダヘイルに来る時に会ったきり・・そう言えば、あいつ生きてるのかな?


「以前に、アズマ君が同じような潜水艦の話をしていた事があるんです。なんか、そういうことに興味があったらしくって、他にも色々詳しいみたいでした。興味が無かったから、あまり聴いていなかったんですけど・・」


 そう言うマリコの表情が曇って見える。


「えぇ~と、どうして、アズマ? 何かあった?」


「・・多分、勘違いだと思うんですけど」


「良いよ。何でも言ってみて。聴いてからじゃないと判断できないし」


「う、うん・・はい。その・・話に出ていたギノータス連邦ですが、急にそういう船を造れるようになったのはおかしいと思います」


「・・確かに」


「どこかで知識を手に入れて、それを元にずっと前から造っていたんじゃないでしょうか?」


「む・・・それ、アズマが?」


「ユウキく・・王様ほどじゃ無いですけど、私達・・二条松のみんなは、たぶん他の国の加護を持った人に比べれば段違いに強いです。色々と特殊な魔法が使えますし・・マキちゃんは転移が出来るようになっていました」


「ほほう?」


「樹海だけでなく、みんながこの世界に不満を感じていたのは、王様の仰る通りです。だから、転移によって別の土地へ行ったりしていたんです」


「ふうん・・まあ、そりゃそうだよね」


 俺なんか宇宙にまで行ってるし・・。海外旅行とか普通じゃん?


「ぁ・・もしかして、ギノータスに潜水艦を造らせたのって、アズマなの?」


「そこまでは分かりません。でも、ギノータスの・・マッカルボという町には何度か行きました。私は・・死んじゃった子達と一緒に、ここの生活に文句ばかり言っていたから、ちょっと距離を置かれちゃってて・・マッカルボとかに行っても市場の調査とか・・まあ、そんな役目で遠ざけられていたんですけど」


「あらら・・」


 これは、黒っぽい? まあ、アズマが何をやろうと誰にも文句を言う資格は無いんだけどね。ああ・・チュレックは迷惑をこうむってるし文句を言って良いかな。


「ギノータスだけじゃ無いんです。アズマ君は他にも気球とか・・風魔法を使った鉄砲とか色々思い付いて造って・・それをあちこちに行って教えていました」


「・・おぅのぅ」


 あのハーレムキング、何をやっちゃってんの?


「それは、召喚という拉致を行った神々を・・この世界を恨んでの事ですか?」


 ユノンが訊いた。これも珍しいことだ。会議の時は水を向けないと一言も発しないんだけど・・。


「・・本当の気持ちは分かりません。アズマ君は何も言ってくれませんから・・ただ、怒っていたのは本当です。樹海のために戦おうと決めて頑張って・・でも、いつまで経っても同じ毎日で・・奴隷狩りが来なくなったと思ったら、蛙の巨人に大きな蜂だし・・もう、みんな疲れちゃってて」


「・・それは、まあ・・無理も無いかな」


「あそこに居たら、もう死んで終わりにしたいって・・私は蜂・・ホーネットを相手にして死んでいたと思います。何度も、そうしようって思ったし・・でも、悔しかったから・・あのまま死んで終わってしまうのが悔しくて・・それで・・王様のところへ来たんです。同じ日本から来て・・ううん・・二条松高校と違って、ユウキ君はたった一人で・・独りぼっちだったのに、多分、最初は私達より弱かったし・・なのに」


 マリコは独白するように話し続け、円卓を囲んでいた全員が沈黙を保って彼女の声に耳を傾けた。


 いや、俺一人は、ちょっと居心地の悪いような感じで、もぞもぞと座り直したりしている。


「自分たちの事で精一杯で・・そしたら、ユウキ君がいつの間にか凄く強くなって・・龍の王様をユウキ君が追い払ったって、神樹の人に聴いた時くらいから、どんどん差がついていく感じでした。みんな口にはしなかったけど、ユウキ君の所へ・・仲間に加えて貰いたかったと思っていたはずです。自分たちで色々考えるのを止めて、もうユウキ君を頼った方が良いんじゃ無いかって・・私や死んじゃった子達が言ったこともあります。あれは・・半分は八つ当たりで不満をぶつけただけでしたけど」


「うちに来たって、死んでたかもしれないよ?」


「うん・・はい、そうだと思います。蜂の事が無かったら、ぶつぶつ文句ばかり言いながら、ずうっと同じことをやっていたと思います。考えることをアズマ君に押しつけて・・それで文句を言ってるんです。馬鹿ですよね?」


「ちょっと馬鹿過ぎる。かなり幼稚だね」


 一番、鬱陶うっとおしいタイプじゃん。ハーレムキングも困ってただろうな。


「・・今は違いますよ?」


「うん、知ってる。馬鹿のままで生かしておくほど、ノルダヘイルは甘くありません」


「・・うん、えっと・・アズマ君が何を考えているのか分からない。やりたいことをやってるんじゃ無い・・と思う。でも、多分・・何をどうすれば良いのか分からなくって不安なんだと思う」


「・・アズアズ分析は良いけど・・それで、どうして潜水艦?」


「世界を混乱させれば神様が接触をもってくる・・そんな事を言っていたかな?」


「神様にお願い事でもあるの?」


 何なら伝えとくけど? 質問権を一つ留保している神様が居るし? そう言えば、あの神様、逃げてんじゃないよね? 女神様は堂々と答えてくれましたよ?


「全員がそうかどうか分からないんですけど・・多分、元の世界に・・日本に帰りたいんじゃないかと思います」


「・・くろ・・マリコは?」


「私は・・その・・帰りたく無いんです」


「あらら・・」


 まあ、日本に帰っても10日くらいで死んじゃうみたいだから、お勧めはできないけれども・・。それでも戻って向こうで死にたいって人は居るかもねぇ。


「コウタ君はどうするつもりなの?」


 マリコが真っ直ぐに・・食い入るように俺の眼を見つめた。

 本来なら、アルシェやデイジーが不敬をとがめるところだけど、2人は静かな面持ちで話の成り行きを見守っていた。


「ここで生きて、ここで死ぬよ」


 迷い無く答えた。とっくの昔に決心をつけてある事だ。


「なんとなく・・そうなんじゃ無いかって思ってた。その・・どうして? 理由を訊いても良い?」


「ん? いつか宣言したと思うんだけど・・ユノンをお嫁さんに貰った時に決めたんだ。こっちが俺の世界、俺はここの住人になるってね」


 元の日本に戻りたいとか、半端な気持ちでお嫁さんを貰ったりしませんよ? まあ、帰れないんですけどね。俺、首を刈られて投棄されたんで・・。


「デイジーはもちろん・・アルシェ、リリン、パエル、ファンティ、シフート、カグヤ、フランナ・・大鷲オオワシ族の皆だって、もう何て言うか、俺にとっては家族みたいなものだから。ここの皆と離れて何処かへ行くとか考えられないよ」


 俺は両手を腰に当て、胸を張って断言した。本心ど真ん中を言葉にしたのだ。実に気分が良い。


「うん・・うん、そんな感じだよね」


 マリコが俺の顔を見つめて眩しそうに瞬きをした。


「心配しなくても、マリコもちゃんと家族の仲間入りをしてるよ。まあ、まだ新入生だから・・もうちょいだけどね?」


「ふふ・・頑張ります。ふつつか者ですが末永くお願いします」


 マリコが深々とお辞儀をした。


 アズマ達の話がどこかへ飛んでしまったが、正直どうでも良いのです。あいつらはあいつらで好きな事をやれば良い。


 それよりも、ノルダヘイルがこれからどうするか決めなくちゃいけない。


「さて・・王様の仕事をやろうかな」


 俺は円卓に居並ぶ面々を見回した。


(ぅ・・)


 なんだか、熱々ですよ?


(あぁ・・)


 マリコ相手に盛り上がって、語り過ぎたっぽい。


 デイジーの眼が危ないのはいつもの事だけど。アルシェやリリン達まで、なんだか眼差しが熱っぽくて、危険度が増し増しになっている。大鷲オオワシ族の皆さんとか、猛禽類の眼差しがギラギラと底光りしてて・・。


「・・ええと」


 救いを求めて、傍らのユノンを見た。


「もうっ・・絶対、コウタさんの方がアズマさんより危ないです!」


 いつも鉄面皮のユノンさんが少しむくれた口調で呟いた。


「え?」


 なんでアズマ? いや、俺の何が危ないって?


 混乱する俺に、


「御館様・・」


 大鷲オオワシ族の族長が控え目に声を掛けてくれた。


「お、おう・・」


「各地で異変が起き、今後は乗り物や武器なども見たことも無いような物が出てくる・・ひとまずは、そういうことを認識しておれば良いではありませんか?」


「うん・・そうだね。戦略だの戦術だの、これっぽっちも分からんし・・・うん、このどさくさで、魔界に領土を拡げちゃおうかな」


 こちら側で人間同士が争い、魔界をてた魔人達が侵攻してくるのなら、入れ替わりに魔界を貰ってしまっても良いでしょう。


(・・悪くないね)


 思い付きだったけど、案外面白いかも知れない。


「良いですな。胸が躍ります!」


 大鷲族の族長が笑い、控える大鷲族が興奮で膝を打ち、翼を震わせている。



 こうして、会議の最後になって、ノルダヘイルの行動方針が決まったのだった。



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