第183話 ぼんやりと・・。


 情報の共有会を終えて、チュレック王国や樹海代表達が雑談を交わしながら帰って行く。騎馬の者も居れば、馬車の者も居るし、船に乗り込む者達も居る。


 見送りに出ていたユノンとデイジーが連れだって戻って来たところへ、ファンティが小走りに駆け寄っているのが見えた。そのまま、何やら報告をしている。


(・・平和だなぁ)


 俺は、テラスに置かれた長椅子の上で横になっていた。


 白い石壁の迎賓館には、3階部分に広いテラスが造られていて、泉水が流れと広々としたバラに庭園を見渡せるようになっている。

 今日は、朝からポカポカと陽気で、陽当たりの良いテラスは絶好の昼寝場所なのだった。



 情報共有会議の方は、ユノンとデイジーにお任せです。


 情報の整理や映像資料化は、軍服女子さんがやってくれます。


 接客応対から警護まで、アルシェに丸投げです。



 そう言う訳で、


(暇なんだぜ・・)


 うつらうつらと閉じかける目蓋まぶたを持ち上げたり、眠気に任せて閉じかけたり・・気怠けだるさを楽しみながら寝転がっているのだった。


 シフートとパエルは魔界へ行っている。

 任務は、魔人達の動向調査だ。


 俺は、魔人達・・その支配者層は、こちら側へ大侵攻してくると確信していた。事実として、すでに北部では魔界で観測された浮遊城が出現していて、いくつかの国々と交戦中だった。


 方々へ飛んでいる大鷲オオワシ族の偵察網から、日々、越境というか、こちら側へ侵攻してくる魔界の団体についての連絡が入る。こちらの人間の兵士と戦闘になったりしているようだけど、まあ一方的な戦況らしい。


 力を減じることなく神様が創った仕切りを越える方法を見つけたのか、力を制限されていても圧倒的な能力差があるのか。


(・・神様が創った仕切りが消えちゃった?)


 魔人には出来ない事でも、悪魔達なら出来るかもしれない。それに、リュードウが絡んでいれば・・。

 いや、それなら、空がこんなに澄み切っているはずが無い。


(あぁ・・亜空間のトンネルとか? 仕切りの一部だけに穴を開けたり?・・あるかもね)


 う~ん、そうなったら・・?


 南半球の魔瘴気とかどうなる? こっちに流れ込んで来るのかな?


(俺は平気でも、魔瘴気で死ぬ生き物は沢山でそうだな)


 そうなると、どうなるんだろう?


 みんな死んじゃった世界で、ぽつ~んと・・?


(・・面白く無いね)


 それぞれが勝手気ままにガチャガチャやって、鬱陶うっとおしいくらいに賑やかで・・それが人の世ってもんだろう。


 まあ、賑やかになったという意味では、今がまさに最高潮なのだけど・・。


 凶魔兵、蛙巨人、巨蜂が目立っているけど、これまでにも居た魔物も数を増やしているらしい。円筒形の元船は、魔瘴脈やら地脈やらに刺さるようにして地面に聳え立ち、機械兵を生み出して周辺生物の駆逐を行っている。これに、魔人達、さらには悪魔達・・。


(手が届く範囲なら何かしら出来るんだけどな・・さすがに、世界中を飛び回ってまで人助けは出来ないよねぇ・・ん?)


 微かに羽音が聞こえる。

 この心音は・・。


「御館様」


 ゲンザンが、若い大鷲オオワシ族を連れてテラスへ舞い降りてきた。迷宮ちゃんでの戦いで急速に力を伸ばしているという若者だ。確か、ハクダンとかいう名前だった。


「北西空域をこちらへ近付く船が発見されました。浮遊する船にございます」


「ふうん・・魔人かな?」


 俺は起き上がって石床にあぐらを組んだ。


 見ると、ゲンザンとハクダンは床に両膝を着いて低頭している。


「現在、空域哨戒に当たっている部隊が接触を試みております」


「いきなり攻撃してくるかもね」


「はっ・・相手がホーネット程度であれば問題ございませんが、貴族級の悪魔が顕現してくれば我が方も損害をこうむりましょう」


「そうだね・・でも、このところ貴族級は見かけなくなったな」


 それどころか、凶魔兵も見なくなった。


「カグヤ」



『司令官閣下』



 軍服女子がすぐさま姿を現す。



「接近する船を捉えているな?」



『はっ、貨物艦であります』



「貨物・・武装は?」



『当艦に脅威を与える対艦装備は御座いませんが・・拠点制圧用の対地掃討兵器を有している可能性は御座います』



「こちらへ向かっている?」



『速度を減じつつ着陸を試みているようです。地図上に位置を投影します』



 軍服女子さんの声と共に、俺達の眼前に地図が描き出された。ノルダヘイルからの距離は、直線で82キロ。地図上に、赤い光点が点滅している。



「うちの哨戒部隊は?」



『貨物艦の甲板上に居るようです。光点が重なっております』



「なるほど・・ゲンザン、伝話は?」


「・・はっ、こちら側の人間が乗っておるようです。高度の維持が難しく、落下が止まらなくなっているとのこと」


「あらら・・故障かねぇ?」


 地図で見た感じだと、センテイル王国の領内に落ちるようだ。どこの船で、どこから飛んで来たのかは知らないけど・・。


「あの辺、下は・・」


「凶魔共の巣窟となっておる湿地帯です」


 ゲンザンが答えた。


「・・どこの船か、確認とれた?」


「船内の者達は我が方の呼び掛けには応じず、獣人であることを理由に攻撃を加えてきたようです」


「じゃあ、放置で。部隊は哨戒任務に戻して」


 うちに被害を及ぼす力は無さそうだ。


「畏まりました」


「カグヤ、他にノルダヘイルに向かう船とか無い?」



『チュレック国籍で登録済みの帆船が7隻、河面を遡上しております』



「ゲンザン?」


「すでに連絡を受けております。ディージェ・センタイル殿が乗船している船団で、乗員総数は237名になります」


「ふうん・・カグヤ、他には?」



『ノルダヘイルには向かっておりませんが、樹海北部を飛行物体が4つ、北西部から真東へ移動中です』



 別の地図が投影され、光点が移動する様子が示される。かなりの速度だ。樹海の北側、200キロほど離れた場所を横切っていくコースをとっていた。


「・・速いな」


 巨蜂が最高速で飛んでいるくらいの速さが出ている。

 でもね・・。


「ゲンザン、かなり距離があるけど、こいつらの正体を確かめて来て。貨物船より、こいつらの方が危い感じだ」


 大鷲族なら追いつけるのです。


「はっ、直ちに!」


 ゲンザンとハクダンが連れ立って飛翔して行った。



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