第182話 神様ミーティング その2


「ご無事で何より」



 彗星騒動の時、女神様が悪魔との交渉に出向いたとか聴いて、少しばかり心配していましたよ?



『ふん・・あの、無礼な悪魔共を多少でも懲らしめたこと見事だった。正直、胸がすく思いだったぞ』



「・・・兎になっちゃったんですけど?」



 まさかの巨大怪獣ならぬ、巨大兎になりましたけど?



『よい毛並みだったな』



「いやいやいやいや・・違いますよね? 毛皮自慢なんてしてませんから?」



『そういう技だ』



「・・兎が?」



 兎化って技でした? 天兎の凶乱って技名でしたよね?



『ちゃんと人の姿に戻ったであろう? 何の不満がある?』



「不満っていうか・・不安?」



『何が不安なのだ?』



「いや・・あのまま兎になっちゃうんじゃないかって・・戻れないんじゃないかとか、凄く不安だったんですけど?」



 本心から不安で不安で、心細くなって、本気で泣きそうでしたから・・。



『人としての自我を失えば戻らないだろうが・・コウタ・ユウキが人として在りたいと思う限りは大丈夫じゃ』



「・・本当に?」



 念を押しておく。



『くどい。嘘など言わぬわ』



 女神様が煩げに言った。声音の感じからして本当らしい。



「ははは・・でも何て言うか、ずいぶん大きな兎でしたよね? というか、兎にしては・・こう、可愛げがなかったような?」



 後から、カグヤに録画映像を見せられた時には、ちょっとガッカリしましたよ? 兎って、もっと平和な容姿の生き物なんじゃ無いですかねぇ?



『まあ、化け物だったな』



「めっ、女神様っ!?」



 お口が過ぎますぞ!



『かつて神界で悪さをやった兎とは比べものにならない巨体・・凶暴さだったぞ』



「・・ふうん」



 なんだか、この世界の兎って、悪いことばかりやってるような・・。



『もう、兎として生きていったらどうだ?』



「暴れますよ?」



『ふふ・・冗談だ。許せ』



「ボク、泣きそうでしたからね? 兎やりながら、本気で泣きそうでしたからね?」



『龍めが与えた技能であろう? 苦情を言う相手が違うのでは無いか?』



「・・そうなんですけど」



 おのれっ、龍さんめっ! 今度会ったら、挨拶代わりに自慢の頭突きを食らわせてやる!



『些事は良い。それより、見事な働きであった。加護を授けた者として嬉しく・・誇らしく思う』



 兎事件が些事で片付けられちゃいました。

 俺にとっては大事件なんですけどね。



「・・ありがとうございます」



『褒美について様々考えはしたが、もう十分に兎だからな・・』



「いや、兎から離れましょう?」



 兎以外のご褒美だってありますよね?



『だが、魔力の無いお前が強者として生き延びているのは、その身に取り込んだ兎の力のおかげだろう?』



「・・・まぁ、そうなんですけどね」



 兎技は強いです。否定はしません。でもねぇ・・。



『タケシ・リュードウが使っていた"創造の杖"はどうだ?』



「要らないです」



 あんなの厄介事を抱え込むようなものじゃないですか。



『ほう・・?』



「ああいうのは、人間が持ったら駄目になります」



『人間ならば、そうだろうが・・』



「女神様?」



 ボクはニンゲンですよ?



『まあ、そうよな・・いらぬ騒動を招くやもしれん』



「そこで魔法ですよ」



 魔法を使える体にして下さい。魔力がじゃぶじゃぶ溢れる感じでお願いします。



『無理だ』



 ですよね。知っていました。



「・・・じゃあ、他の神様が何でも一つ、俺の質問に答えるという約束をしたんですけど、似たようなのは駄目ですか?」



『一つだけ、真実の答えを・・か』



「三つ、真実を答えて下さい」



『そのくらいの事なら構わないぞ』



「・・嘘や誤魔化しは無しですよ?」



 まあ、この女神様は嘘は言わないけどさ。誤魔化しはあるかも?



『約束しよう』



「絶対です?」



『くどい。つまらぬ言葉遊びなどせぬ。何なりと答えようぞ』



 くっ・・男前なんだぜ。



「では・・神様がこちらの世界へ召喚した異世界人を、元の世界へ帰すことは可能ですか?」



『・・なるほど、それか』



「どうなんです?」



『可能だ』



 月光の女神様があっさりと答えた。

 ならば、次の疑問だ。



「帰された異世界人はどうなります?」



『向こうで10日以内に落命する予定の者を招いている。元の世界に戻れば・・恐らく、何らかの事象によって命を失うのではないか?』



 う~ん、これは予想と違った。神様パワーで時間とか戻して、元の日本に戻れるんじゃないかって思ってた。この感じだと、メデタシ、メデタシとか・・夢オチ的な事にはならないなぁ・・。この質問はもう止めよう。



「神様は、元は人間ですか?」



『・・何故、そう考える?』



「なんとなく・・」



 こうして対話をしていても、考え方とかが人間臭いというか・・すごく親近感を覚えるから。



『人間とは少し違うが、広範囲を支配していた生物が肉体を捨て去ったもの。意識体という表現が近い。まあ・・肉体は捨てたが、生物としての誕生と滅びを有している。文明社会の発生と発展を助け、崇められたり、怖れられたり・・他の生物の精神の揺らぎを糧としている生命体だ』



「この先、世界をどうします?」



 どういう"揺らぎ"を計画しているのか聴いておきたい。



『3つの質問は終わったようだが?』



「なので、ただ訊くだけです」



『ふむ』



「今後も、今までと同じように、神様をやって貰えますか?」



 質問を少し変えてみる。



『それを望んでいるように聴こえるが、お前はもっと気儘に自由にしたいのだと思っておったぞ?』



 少し意外そうな声音だ。



「俺、この箱庭? 神様が創った人間牧場を気に入っているんですよ。どうせ放っておいても、人間は争いますからね。理由とか関係無く、行き過ぎない程度に管理されているのは良いと思うんです」



『自分が行き過ぎた大暴れをやっている自覚はあるか?』



 女神様の声が呆れています。



「・・それはともかく、何とか元のように落ち着いた世の中に戻せませんかねぇ?」



『意見が割れている。大きく3派だ』



「ふむふむ」



『放置すべし、元に戻るよう介入すべし、全く新しい世界に変えるべし・・とな』



 ありがちな3択である。



「・・・女神様は?」



『本意では無いが、お前を筆頭に加護を授けた者がおる以上、元のように・・それなりに生きられる環境へと戻したい』



 "元に戻るよう介入する" プランですね。


 そういう事なら、



「俺は何をすれば良いですか?」



『む・・神々に協力をすると言うのか?』



 女神様の声に素直な驚きが滲んだ。

 ボク、そんなに反抗的でしたかねぇ?



、じゃ無いです。月光の女神様に協力します」



『・・・お前は神々を嫌っていると思っていたが?』



 ははは・・いや、結構鬱陶うっとおしいなぁ・・とは思っていますけど。女神様に対しては、そんな感情ナッシングですよ?



「バレてました? でも、女神様の事を嫌った事はありません。正直、女神様から加護を貰わなければ、とっくに死んでいましたから・・ああ、もう1人、いや、1柱というんでした? 男の神様にもお世話になりました」



『樹木の神じゃ。お前は、あやつが守護する森に投棄されたからな。最初に見つけてきたのは、あやつじゃ』



「樹海の・・そうでしたか」



『神の責務を負わせるような事は語れぬ。だが、世界を落ち着かせ、元のように生き物が棲息する環境へ戻したいと・・願っている』



「うふふ・・」



 さすが、俺の女神様です。



『同じ考えの神は少ない。この先、お前に手を貸してやれるとは限らない』



「ちなみに、樹木の神様の意見は?」



『我と同派だ』



「良かった。あの神様にも恩があるから」



『・・魔界の人間を可能な範囲で救出し、一時的に人界で保護する。そのための居留地の確保を頼めるか?』



「う~ん・・居留地ですかぁ」



『他に良案があるのか? あれば申してみよ』



「魔人って、そこまでヤワじゃ無いですよ。放っておいても、魔界とこちらを隔てる仕切りをぶっ壊して攻め込んでくるんじゃ無いですかねぇ。居留地どころか、さっさと占領して領地を増やしていきそうですけど?」



 というか、そういう未来絵図しか見えませんが?



『魔人をあなどるなという事か。だが生存しているのは、恐らくは支配者階級の者を中心に数万人・・いや、もっと少ないかも知れんぞ? 対して人界は8千万を超える生存数だ。いかに能力差が有ろうとも、数の優位性は揺るぐまい?』



「いいえ、もう絶望的です。俺、世界地図を見たんですけど、だだっ広い北半分に、ポツンポツンって国があって、互いの国を往き来するには、馬や馬車、徒歩とか・・そんなの、端から一国ずつ滅ぼされて終了じゃないですか。魔人は空飛ぶ島やら宮殿やら持ってるんですよ?」



『む・・何と言ったか・・各個撃破というやつだな?』



「いいえ・・各個撃破も何も、全自動的に順番に端っこから撃破されるだけです。そもそも、空飛ぶ島を相手に何かやれるんですか?」



 戦略も戦術も何も要りません。ただ人の町や村を見つけた端から攻め滅ぼせば良いだけ・・。強いて言うなら、小虫を潰し続ける根気くらいは必要かな?



『飛竜などの魔物に騎乗する者が居るだろう? 加護を授けた魔術師も多く居る。それに、異界の船を所有しているのは、お前だけでは無いからな』



「ほほう・・まあ、俺はいつも通りに樹海とチュレックを護るだけですけどね」



『協力を申し出たのでは無かったか?』



「あぁ、そうでした。じゃあ、行儀の良い魔人にはノルダヘイルに住む土地を用意しましょう。最悪、樹海とチュレックだけになっても、こっちの人間は滅びませんよね?」



 何人残っていたら絶滅しないんだっけ?



『お前の国に、魔人の移住を許可するのだな?』



「誰でも・・じゃあ無いですよ?」



『選別する気か?』



「俺の国に入る時は、入国審査があるんです。タチが悪いのを入れちゃうと面倒なんで」



『種としての絶滅を回避する為にも出来るだけ多くの魔人を収容して欲しい』



「鋭意努力します」



 戦っても、魔人に負ける気はしないけどね。できる限り、穏やかに・・。普通に騒動無く暮らしてくれるなら、何万人でも住めるようにしますよ?



『・・・やはり、お前が良さそうだ』



「はい?」



『タケシ・リュードウと悪魔共が狙っているもの・・・創造の杖をお前に預けよう』



「は?・・いやいやいや、意味分からないし・・って、タケシ・リュードウが何ですって?」



『正確には、奴の意識体・・なり損ないなのだが、上級悪魔に憑依する形で蘇りおった』



「ふぁ?」



 蘇った? あいつが? 精霊皇帝が?



『奴が執心している娘の方は、どこやらの化け兎が邪魔したお陰で半端な蘇生に終わったようだが・・』



「あの黒い卵?」



『悪魔共に創らせた代物で、蘇生器のような物だ。他の生き物の命を吸って、封容された死骸に新たな生命を宿す。ただし、タケシ・リュードウに精神支配を受ける形でな』



 逃げられた女の子を精神的に隷属させた上で蘇らせるとか・・。頭が桃色過ぎるでしょ。今のところ、リブ改めアヤは、途中で卵の殻が割られたために不完全な蘇生になり、リュードウが植え込もうとした"桃色プログラム"は不発に終わっている。



「・・その、リュードウはどこに?」



 早急に仕留めなければ・・。発見、即抹殺だ。



『憑依していた上級悪魔は処分したが、別の悪魔に憑いた可能性が高い』



「逃げられたんですね?」



 姿が見えないのかな? そうだとしたら、面倒なことになりそう。



『深手は負わせた。力は大幅に減じたはずだ。そもそも、肉体へ取り憑くことは膨大な力の消耗と危険を伴う。そう何度も成功するものでは無いからな。生前の自我を保っているかどうかも怪しいほどだ』



 取り逃がしはしたけど、それなりにダメージは与えたという感じ? でもまあ、復活してくるでしょ。



「・・ちなみに、黒卵って他にもあったりします?」



『あと2つ、それぞれ北半球と南半球に落下した』



「おぅのぅ・・」



『どちらも、タケシ・リュードウの・・まあ、腹心のような存在だな。すでに肉体を得て、殻から外へ出ている』



 タケシ・リュードウ愛に満ちあふれた"何か"が2体も出現済みということか。



「リュードウは?」



『悪魔の肉体共々、隕石に紛れて地上へ降りたようだ』



「じゃ、大気圏で燃え尽きなかったんだ?」



 精神体だか、意識体だと熱も何も関係無いのか。



『地上で何らかの生き物に取り憑いたところを、剣神の加護者が発見して攻撃した。残念ながら返り討ちにされたようだが・・』



「それって、何人くらいでやったんです?」



『近くに剣神を主神と崇める国があったので、啓示のていで命令したそうだ。時間が無い中で2千もの軍兵を集めたらしい』



 2000対1で負けるとか・・。剣神さんは泣いた方が良い。



「場所は、どこです?」



『ゴーラン聖王朝の国都近く』



「・・もう、移動しました?」



『消えおった。未だに感知できぬ』



「むぅ・・」



 これは、面倒な騒動が起きそうだ。


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