第171話 宇宙の輝き
『フランナ、発艦しました』
司令室に、
立体映像に、背から光を放ちながら出撃するフランナの姿が映し出されている。
そう、うちのお人形さんは、宇宙空間とか関係無く自由自在に移動し、そして、自由自在に攻撃できるのですよ。本人の売り込み通りに、"有能"なのです。
「砲撃準備」
『リドニウム尖砲弾、装填完了。光力加圧開始準備』
「初弾、彗星中央。次弾、最大分裂体」
『照準修正必要ありません。最大加圧点まで、10秒、9、8、7、6、5、4、3・・』
「撃てっ!」
『発射。次弾装填・・装填完了。光力加圧開始準備・・・初弾命中、目標点誤差ナシ・・彗星、核が爆砕しました』
「次弾、加圧開始」
『次弾、光力加圧開始・・・最大加圧点まで、10、9、8・・』
「向かって左下に見えているやつを狙え」
『了解です。5、4、3、2・・』
「撃て」
『発射・・衛星軌道上に観測器散布・・潜行準備』
「ユノン、フランナに伝話は届く?」
「いいえ、やはり、この空間では大幅に弱まるようです」
宇宙は、魔法を創った神様の領域外ということかな?
「カグヤ、打ち合わせした信号弾を使う。フランナに隕石群の破壊を指示」
『了解です。信号弾射出・・観測器、情報来ます』
「見せてくれ」
『隕石群、想定内。個数3万6千・・内、攻撃が優先される質量体、8千3百』
「落下地点は?」
『南半球6千9百、北半球1千4百・・・フランナ、隕石群に接近』
「さあ、頑張ってくれよ」
映像を見ながら呟く。
全てを破壊するのは無理だ。ここからは、出来るだけ小さく粉砕する作業になる。映像の中でビームを撃ち、ミサイルを乱れ撃ち、ピンク棒を振り回していたフランナが、ピタリと動きを止めて、こちらへ向けて戻り始めた。エネルギー(神酒)切れだろう。あれで、もうちょっと継続戦闘時間が長ければ言うこと無しなんだけど・・。
『フランナを回収後、リジン震甲弾を斉射します』
「よし・・」
観測された情報が表示され、隕石の個数は増加したが、最大質量体は数値が小さくなっている。
『フランナ、格納します。リジン震甲弾、全門装填完了・・斉射』
「ユノン?」
「デイジーさんが神酒を与えています・・冷え切っているようですが、問題は無さそうです」
「よし、デイジーに格納庫から退避するよう伝えて」
「はい」
「カグヤ、おまえも補給しておけ」
俺は神酒を軍服女子に差し出した。なんだかんだ言って、このサクラ・モチが宇宙における最高戦力だ。
『はっ! 感謝致します!』
「デイジーさん、格納庫を出ました」
『確認。封扉施錠』
「フランナ、出撃」
『外殻解放・・フランナ、発艦します』
「次にフランナを回収し、リジン震甲弾を斉射した後、南半球へ亜空間潜行で移動する」
『了解であります』
「こうして見ると、小さな岩なんですけど・・」
ユノンが映像を見ながら呟いた。
「直径5メートル程度の岩でもチュレック王都くらいなら消し飛ぶらしい。まともな魔術師が居れば、防御魔法で被害を抑えられるけどね。少なくとも、樹海やチュレックの王都は大丈夫か。他の国にどんな魔法使いが居るのか知らないけど、加護持ちがいるはずだし・・神様がお告げで警告しているらしいから」
それなりに対応はしてくれている・・はず。まあ、そこまで責任は持てません。可能な限り小粒な隕石にするので、後はみんなで頑張って?
「2メートルくらいに砕けば良いんです?」
「燃えるし、
「そうなると、被害は小さいんですよね?」
「・・だろうと思う。でも、自信無いんだ。もう・・やってみるしか無い」
『フランナ、帰艦。リジン震甲弾を装填・・』
カグヤの声が響く。
「お父様!」
司令室の床の転送紋から、フランナとデイジーが飛び出して来た。フランナは、すでに身長20センチのお人形サイズになっている。
「偉い! 凄い働きだったぞ!」
「フランナは有能!」
「うん、お前は有能だ。驚いたよ」
俺は率直に褒めた。だって、本当に助かったんだから・・。
なのに、
「ユノン母様、お父様が素直過ぎる・・怖い」
お人形が気味悪そうに声を潜めてユノンの方へ退避して行く。
「ふふふ・・本当に素晴らしい活躍でした」
「ありがとう!」
フランナが拳を突き上げて舞い飛ぶ。
「ほら、ちゃんと飲んで・・どこを傷めているか分かりませんよ」
デイジーがフランナを抱えるようにして、神酒を飲ませようとする。
「デイジー母様、心配要らない。フランナは異常ナシ」
「こらっ、ちゃんと飲んでおけ。まだまだ忙しくなるんだから」
「・・分かった」
フランナが大人しくデイジーに捕まった。
『リジン震甲弾が、震動爆砕を開始』
想定値より、細かく破砕できている。予想値と実測値の誤差は小さく無い。これなら、大気圏内で大半が燃え尽きるかも?
『予想より鉄成分が多いようです。地表付近へ到達可能な隕石を選別表示します』
「ふうん?」
不安になるくらい数が少ない。このままだと、千に届かないんじゃ無いか? 完全では無いし地上に被害は及ぶ数、規模だけど、当初に予測した生物が死滅するような事態は回避できたと言って良い。
「ちょっと、少な過ぎるくらいだな」
『はい。予測値との乖離が大き過ぎます』
「何かの方法で偽装している?」
『リジン震甲弾は、全弾が精密に着弾しております』
「思ったより、彗星そのものが脆かったのか・・それにしても変だ。カグヤがここまで大きく予測を外す理由が分からない」
うちの軍服女子さんは優秀ですから・・。これは、逆におかしい。
『司令官閣下』
カグヤが背を正して次の指示を待つ。
「見えているもの・・起こっている事が、フェイク・・釣りか? やりたい事・・欲しい結果は別にある?」
俺は、ぶつぶつと呟きながら映像を見つめていた。
隕石群を降らす事は目的の1つなのだろう。だけど、主目的かと言えばどうなんだろう? こうして防がれる可能性は十分にあったはずなのに・・。
「タケシ・リュードウの遺した人形は、カグヤの探知をかいくぐって
『はっ! 約40秒前まで正確な座標の特定は困難であります』
「予定変更・・・隕石群は残るけど、隕石群の破壊作戦はここまでにする」
後は地上の人で何とかして下さい。どうも、嫌な予感がします。
『はっ!』
「侵攻中の別働隊を想定、当艦は亜空間潜行で移動」
『目標地点をご指定ください!』
「樹海、神樹の上空だ」
何かは分からない。狙うなら、樹海、それも神樹・・そんな気がする。
『了解致しました。亜空間内での遭遇戦を想定、急速潜行を開始』
「待機室の皆と話したい」
『はっ! 繋げます!』
「こちら、司令室。映像で見て貰っているように、彗星の破壊作戦は順調に行われた。このまま時間をかければ完全に無害化できる状況だけど・・どうも、
待機室への通信を終えて、俺はカグヤに頷いて見せた。
『急速潜行、開始』
「フランナ、ユノンとデイジーの護衛任務だ。何があっても、2人を見失うなよ?」
『分かった! フランナに任せる!』
「うん、お前になら任せられる」
亜空間航行の独特の違和感を感じながら、俺はちびっ子なロボに笑みを向けていた。
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