第170話 神様の依頼


「ここで呼び出しですか」



 俺は思わず笑っていた。タイミング見計みはからってたでしょ、絶対に・・。



『我を知っておるか?』



「知りません」



 誰ですか? 初めて聴く声ですけど?



『我は、剣神と呼ばれている』



 威厳・・というか、尊大に聞こえる声だ。



「へぇ・・」



『お主に加護を授けてやろう』



「不要です。ゴミ加護とか、今さら要りません」



 きっぱりと断った。俺の加護は、月光の女神様から貰ったものだけと決めてあるので。



『・・貴様、我が加護を何と言いおった?』



「ゴミ」



『お、おのれっ! この・・』



「女神様ぁ~、居ませんかぁ~? 変なのに呼び出されてんですけどぉ~?」



 俺は思いっきり声を張り上げた。



『黙れっ! 貴様っ、下界に棲まう下人げにんの分際で・・』



『おまえが、黙れ!』



 割って入った声は、俺がこの世界に投棄された時の、一番最初の神様だ。



「ボクに神様を見限って暴れろって事なんですかねぇ~? ボクはまだ神様が好きだったんですけどねぇ~?」



 ふて腐れたように、ぼやいてみせる。



『剣神の一派は、ちとアレでな・・嫌な思いをさせた』



「下人て言われて傷ついちゃって・・ボク、泣きそうなんですよぉ~?」



『・・コウタ・ユウキよ』



「はい?」



始原しげんの創造者からの接触があったな?』



 やっぱり気にしてましたか。まあ、気になるよねぇ。



「しげん? そんな大袈裟な感じじゃ無かったけど、それっぽいのが来ましたねぇ~・・・アレ、思い出したく無い黒歴史なんですけど」



『我らとは干渉し合えぬ存在じゃ・・故に、何処で何が行われておったのか、我らには関知できぬ』



「何もありませんでした」



 思い出すべき何事も無しっ!



『・・誠か?』



「ええ、断じて何にもございません」



『・・彼の者も、コウタ・ユウキに目を付けてきたか』



 彼の者というのは、"名無しの創造主"さんのことか。



「人気者なんですねぇ~」



『魔神のやつめも、何やら言っておったが・・』



 魔神さんには1度しか会って無いけどな・・。



「モテモテですねぇ~」



『・・神界が乱れておる』



「みたいですねぇ~」



『先ほどの剣神なども、狼狽うろたえて右往左往うおうさおうしておる』



「何やってんですかねぇ~」



 リュードウののこしたお人形なんかに掻き乱されちゃって・・。



『神域の者は、直接何かをせるわけでは無いからな。何らか直接的な影響を与えようとすれば、代理の者が必要となるのだ』



「加護者とか?」



『うむ。加護を与えた者が多ければ、それだけ人界、魔界に直接影響を与える事が可能となる』



「ははは・・」



 加護者頼りとか言っておいて、加護者が調子に乗ったら、馬鹿め・・とか言って加護を取り上げちゃうやつですよね?

 直接関与出来ないとか言っておいて、神の兵隊てんしが居るんですよね? ついでに、裏技の一つ二つ隠し持っていますよね? 分かっていますとも。



『剣神めは、加護を与えた者をかなり失っておる。あせっておるのだろう』



 まあ、それについては俺も少し関係してるかも?



あせって何をやるんです? 何か起きました?」



『知っておってたずねるのか?』



「尻ぬぐいをやらせる気なら、ちゃんと事情を教えて欲しいんですよ。俺は凡人なんで、理由も教えず、ただやれと言われても、やる気が出ないんです」



 世界を守れというのなら、対価を提示して頂きましょう。



『・・ある程度は推察しておるのだろう?』



「まあ、自前で調べた範囲では・・今もその対策を会議していましたからね」



『ふむ・・彗星が悪魔の領域であること、タケシ・リュードウによる神域への攻撃で、彗星が我らの管理下を離れたことは、コウタ・ユウキの推察通りだ』



「・・嬉しくないですね」



『あのまま衝突を狙っている彗星を自壊させようとしているのは、我ら神域の者達だ』



「ふうむ・・」



『高高度で総てが燃え尽きるように小片に砕くつもりであったが・・』



「邪魔が入った?」



『途中でな、作業をさせていた作業者共が管理下を離れおった。このままでは、小片とは言えぬ大きさの隕石に分裂して降り注ぐ事となる』



「予想される被害は?」



『太陽を必要とする生き物は、ほぼ死滅するであろう』



 カグヤの予測と同じようなものか。



「神様は何かできないんです?」



『ただ落ちるだけの物には働きかけが出来ぬ』



「・・あぁ、なるほど」



『加護者に働きかけて予言で危機を告げたり、防御の魔法陣を準備させたりといったところだ』



「しょぼ・・」



『そう言われても仕方が無い。我らは精神体・・意識体と言った方がより実態に近いか。加護を受け入れてくれる者・・知的な生命体にしか影響を及ぼせぬ存在なのだ』



「なるほど・・"名無しの創造主"さんとは、ちょっと違うんですねぇ」



『彼の者もまた、直接的な働きかけは出来ぬはず。自らが生み出したものへの干渉は行わず・・滅びたなら新たに生み出すだろうが』



「ふうん・・」



 どっちにしても、とりあえず今の危機はここで生きている者で何とかしないと駄目って事だ。



『剣神はあのような申し様をしておったが、人を失いたくないという意思を強く持っておる』



「・・なるほど」



『あやつは、長らく人の世に関与してきたからな・・あまり肩入れをし過ぎるのも考えものじゃが』



「ところで・・大昔に、神様の兵隊と悪魔の兵隊が戦ったそうですけど、あれって事実です?」



『む? ああ・・天兵と魔兵の戦いか。過去に4度あったな』



「武器は?」



『・・・なるほど、あれに手を焼いておるのか』



「いや、反射とかをやる奴は仕留めたんですけど、一々面倒なんですよね。まるっと無効化する武器や技は無いんですか?」



『こんな時に、そのような事を訊いてどうするのだ?』



「ふふふ・・5手、6手先まで見据みすえているのですよ」



『何を言っておるのか分からんが・・・あれは武器がどうこうでは無い。一定以上の威力を有する攻撃には効果が及ばぬのだ』



「つまり、強い攻撃は返せない?」



『そういうことだ』



「目安は?」



『そうだな・・何と比して申せば・・おお、そうか。それを測る道具を授けようか』



「むむっ!? そんなのがあるんです?」



『効くか、効かぬか・・それだけを判別する程度の品だが』



「・・良いですね」



『では、コウタ・ユウキの所持品へ加えておこう』



「死出の餞別ですかねぇ~」



 対価としては、ちょっと物足りないよなぁ・・。



『死ぬ気は無いのだろう?』



「・・まあ、頑張りますけど」



『月光のやつが、何とかしようとして悪魔共と交渉をやっておるが・・おそらく、不首尾のまま戻るだろう。人に無関心だった月光めも、いつの間にやら世界に肩入れをしておるようだ。あやつを喜ばせてやれ』



「ちぇっ・・簡単に言いますよねぇ」



『人の世にとっては未曾有みぞうの危機・・見事切り抜けた暁には、我からも褒賞を与える』



「良い物?」



『コウタ・ユウキが望む情報を一つ。どんな事でも、真実を教えると約束しよう』



「・・なるほど、それは魅力的です」



 呟いた直後に、俺の意識が暗転した。


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