第169話 巨大彗星


 サクラ・モチに与えていた任務、全世界の測量が一段落し、中間報告という形で発表された。


 サクラ・モチ内にある司令室に、俺とユノン、デイジー、ゲンザンの他、アルシェ、リリン、パエル、シフート、ファンティ、マリコが集まって映像で説明される情報を食い入るように見つめていた。


 全世界の大陸図、陸地を中心にした立体映像では河、湖、海などの底まで精密に描画され、任意の地点を拡大すれば、各地の集落、町・・そこに建つ建物まで鮮明に見る事が出来た。


 まあ、そのくらいでは驚きません。俺、異世界人なんで。

 俺が期待していたのは・・。



『続いて表示しましたのは、同次元に存在しながら特殊な力場によってへだてられている、もう一つの世界になります』



(来ましたわぁ・・)


 いつだってカグヤさんは、俺の期待以上に働いてくれるんだぜ・・。


(・・なるほどなぁ)


 俺の想像とは違って、魔界は同じ惑星上にありました。こう・・イメージしていた並行世界とかじゃなく、同一惑星上に存在していたんですね。


(北半球と南半球・・といった区分かな)


 大雑把おおざっぱだけど、地球で言うなら赤道に当たる辺りで区切られているようだ。



「力場については何か分かった?」



『司令官閣下が魔瘴とお呼びになる物質を使った隔壁です。厚さは50キロメートル、高さは成層圏を超えて宇宙空間にまで達しており、半球そのものを包むように形成されています』



「なるほど・・」



 惑星というれ物を半分に仕切ったわけか。



『非常に安定した力場であり、同一次元内での行き来は当艦でも不可能でしょう』



「ふむ・・亜空間経由なら?」



『可能です』



「よし・・それが分かっただけでも成果は大きい」



 俺は満足げに頷いた。



『続きまして、司令官閣下が神域と命名された空間について測量結果を投影します』



 ゴルフボールのような絵が表示された。



『こちらは、完全なる別次元になります。従って、当惑星との位置関係は測定不能でした』



「ふむ?」



『タケシ・リュードウの兵器による攻撃行動を解析致しました。他次元への攻撃は行っておりましたが、あくまでも表層域であり、深部へは到達できておりません』



 ゴルフボールが二つに割られ、年輪のような円が幾重にも存在している様子が映し出される。



『中心部に高力場があり、これを包むようにして多次元が存在し、無数の泡沫のように漂っていることが観察されます』



「・・ふむ?」



 まるで分かりません。だれか、タスケテ・・。



『タケシ・リュードウの攻撃は、この最外殻部の下に位置する精神体の被膜に届いたと観られます』



「ほほう?」



 上からコンマ数ミリじゃん? 中央まで先は長いぜよ・・。



『こちらの映像をご覧下さい』



「おぉ・・彗星?」



 それは、青っぽい光る尾を引いているように見える彗星だった。

 拡大されると、大きな岩塊のように見える。



「これが?」



『当惑星を中心とした周回軌道を保持して宇宙空間を移動しております』



「・・ふむ?」



『地上から目視可能な距離に接近する周期は、450年に1度になります』



「む・・?」



 あれ、なんだか嫌な予感ですよ?



『この彗星の核に、司令官閣下が神域と称される空間と類似した力場が存在しております』



「もしかして・・この彗星が見えるようになってから、凶魔兵が現れるようになったとか?」



『発生と時期が一致します』



「おぅのぅ・・」



『移動速度の遅い彗星です。通過まで約8000時間を必要とします』



「・・それって、何日?」



『333日相当です』



「長いな・・」



『彗星の接近に伴い、大きな災害が見込まれます』



「なに?」



『彗星の核に幾つかの表層剥離が観測されております。また表層部の下には大型の亀裂があり、それらは深部へ達しているようです』



「ええと・・?」



『700時間以内に深刻な分裂が予想されます』



「・・ふぁ?」



『分裂した彗星は隕石となって、当惑星に落下が見込まれます』



「う、うん・・まあ、そうなるね」



『予想落下地点は、南半球部が中心になりますが、幾つかは北半球にも落下、全惑星規模での津波、地震、衝撃波によって舞い上がった粉塵が太陽光を遮り、硫酸が降り注ぎ・・』



「ああ、その辺は良い・・それより、降ってくる隕石をできるだけ小さく砕きたい。方法は?」



『計算されて分裂が行われている可能性があり、直径150メートルの隕石として分離が予想されます』



「・・それが何個?」



『南半球に2万4千、北半球に4千』



「大気圏で少しは燃えるよね?」



『はい。大気の摩擦熱により地表到達前に爆発に近い状態で細分化し、燃え尽きることが予想されます。一つ一つは、500戸前後の家屋が消失する程度の被害しか起こりませんが、合計2万8千もの爆発が起これば、空中であろうと地表であろうと被害は大きく、気象は変動し、生態系は大幅に変更されることになるでしょう』



「・・さらに細分化してやれば?」



『燃え尽きる数が増え、被害は減少します』



「大気圏外で可能な限り撃ち落とし・・と?」



 思い付いたアイデアを口にしようとした時、しばらくぶりに神域に招かれる感覚が襲ってきた。


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