第168話 禁止薬物!?


(ふうむ・・)


 迷宮ちゃんの20階で、俺は腕組みをしてうなっていた。

 素晴らしい出来映できばえだ。


 何がって?


 いつぞや戦った金角の青年(タイプL)である。試作と試闘を繰り返して調整し、ついに納得の仕上がりになった。戦闘能力、再生能力などはもちろん、青白い肌の質感から、偉そうな表情まで見事な再現度です。


(カグヤさん、グッジョブだぜ!)


 モデリングはもっぱら軍服女子さんにお任せだ。生命の創造という部分は、迷宮ちゃんの仕事だ。俺は監修という形で、実際に戦闘を行って確かめる役回りだった。


 この金角の青年には、タイプS、M、L、そしてLLが存在する。タイプSは速度型、タイプMは魔法型、タイプLはバランス型、タイプLLは全能力の強化バージョンです。


 この20階層では、タイプS、M、Lが雑魚敵として登場します。ボスが、タイプLLね。


 何て言うの、もう地獄? だって、次々にタイプS~Lが襲って来ますから。戦闘音を聞きつけ、はるか遠くから駆けつけて参戦してくるので、それはもう・・・頑張って?


(ふふふ・・素晴らしいんだぜ、迷宮ちゃん)


 今は完全なる罠・・ブービートラップ扱いで、サクラ・モチにある間違った扉から入ると、迷宮ちゃんに転移する仕組みになっている。何しろ、サクラ・モチには入口が存在しませんから・・。御用のある方は転移するか、地上に設置の転移門を潜るしか出入りができません。


(ユノンの毒罠もあちこちにあるし・・)


 難攻不落と断言して良いだろう。迷宮種に階梯レベルとかあるのかどうか知らないけど、もしそういう評価点があるなら、うちの迷宮ちゃんは最凶ランクでしょう。


 だって、俺が・・俺達がボコボコになるんですから・・。


 いや、なんとか勝ちますよ? もう、涙目で本気リアルで死にそうになりながら、ユノンとデイジーと一緒に戦って、ギリッギリで生き残る感じなんです。


 なお、リリン達はまだ早いので、下の凶魔兵の階層で戦わせています。


 カグヤにお願いすれば、ノルダヘイルの国民は、指定した階層のみに直接出入りできますから。もちろん、巨蜂ホーネット蛙巨人ジアン・トードとも戦えます。これ以上無い、実戦演習を繰り返せるのですよ。


「・・死ぬかと思いました」


 デイジーがやつれた顔で呟いた。

 いつも明るく元気な凶巫女さんをここまで追い詰めるとは・・20階層恐るべし。


「最終的には、80体以上が集まって来ていました」


 さすがのユノンも床に座り込んでいる。いつものユノンなら端数まで正確に数えられるのに、その余裕が無かったということか。


(ふふ・・)


 まあ、俺も格好をつけて腕組みなんかしているけど、座り込みたい気持ちでいっぱいです。足腰に震えが来ちゃってます。


「しばらくは、この階層で十分だね」


 これ以上は、絶対無理です。


「・・できれば、心の準備とかあるので、事前にお知らせ頂けると」


 デイジーが深刻な顔で依願してきた。


「そうですね。この階層は・・死の覚悟が必要ですね」


 ユノンも同じ意見らしい。


「すいませんでしたぁ!」


 俺は大人しく謝罪した。いや、正直、途中で滅茶苦茶めちゃくちゃ後悔しましたから・・。もう、アホかと言うくらいに危なかったです。金角の青年が次から次に集団で襲ってくるんですよ?


「大丈夫です。私は巫女として、どこまでもついて参ります」


「ユノンも一緒に参ります」


 2人の・・という言葉が重いです。行く先はあの世でしょうか? 自分で創った迷宮ちゃんで死亡とか間抜けすぎて笑えませんよ・・。


「ま、まあ・・あの数でも何とか生き延びられる事が判ったことは幸いだったよ」


 俺は何とか綺麗にまとめようと、2人をなだめるように両腕で抱き寄せた。


 2人がぐったりと力無く寄りかかってくる。


(これは・・相当キツかったんだな)


 "名無しの創造主"に会って以降、俺の身体は地力がモリモリ上がっている。その俺が死にかけたのだから・・。考え無しに俺に合わせていたら、2人を死なせてしまいそうだ。


(もっと・・ちゃんと考えないと)


 配慮が足りませんでした!


 というか、本当に良く生き延びたよね、2人とも・・。デイジーなんて本当の意味で普通の人間なんだけど・・心の底から凄いと思います。どうなってんの?


「コウタ様の・・神酒を頂戴した身で無ければ、とうにしかばねをさらしておりますよ」


 デイジーが苦笑する。


「・・えっ!?」


 神酒? 俺の酒がどうしたって?


「お気づきでは、御座いませんでしたか?」


「・・ドーピング?」


「どーぴん?」


「力が付いたり・・体力が付いたり?」


「はい。御神酒は、傷病を癒やす過程で種族に定められた肉体の限界を超えて大幅に治癒力などを活性化させて下さいます。その副産物として、本来はどんなに修練しても届かなかったしゅの限界を超えた能力を得られるのです」


「・・・マジかぁ」


 まったく、全然、これっぽっちも知りませんでしたよぉ・・。


「そ、その・・他に悪い作用とかある?」


「これといって思い付きませんが・・種の限界を超えるにしても、相応の修練が必要になりますし・・御神酒を頂戴したからといって誰もが優れた力を得られる訳ではありません。そもそも・・種としての限界まで鍛えた者にしか実感できない領域ですから」


「・・・ぉお・・そうか、そうだよね」


 デイジーはいつだって限界ギリギリだったもんね・・。


「じゃあ・・これまで通りで、危なくなったら神酒をあげても大丈夫?」


「もちろんです。この身はまだまだコウタ様のお役に立てます」


「ユノンも?」


「はい。私はまだクーンとしての限界まで届いていませんけれど・・」


 ユノンがさらりと物騒な事を口にしていらっしゃいます。


(ふぅぅ・・2人とも凄いんだぜ)


 俺は額ににじんだ冷や汗をぬぐった。


 しかし、神酒については、少し自重しないといけない気がする。ゲンザン達、大鷲オオワシ族にも大盤振る舞いしちゃったし、アルシェやリリン達、うちに来たマリコにも、迷宮ちゃんで死にかけるたびに、じゃんじゃん飲ませている。


 まあ、その他では、フレイテル・スピナに少し・・くらいか。


「・・ほぼ、ノルダヘイルの人間にしか飲ませていないから良いかな」


 俺は安堵の息をつきながら、冷えた神酒(甘酒ベース)を取り出してユノンとデイジーに手渡した。もちろん、自分も飲む。


 もしかしたら、この神酒を生み出せる能力が、俺の一番の強みチートなんじゃないかな?


 乾いた喉をうるおしながら、俺はホッと息をついた。



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