第161話 ヒロくん!?


 龍帝との邂逅かいこうは有意義だった。もちろん、すべてが正しい訳じゃないんだろう。龍帝も憶測混じりのような事を言っていたし・・。


 新しい力も貰った。


 引き当てたのは、やっぱり兎技でした。いや、もう知ってたし・・。



・・天兎の凶乱



 何というか、すごく賑やかそうな技名だった。


(バーサーカー的なやつかな?)


 そんな名前だけど・・まあ、今度使ってみましょう。


 そんな技より、龍帝が馴染ませたと言っていた某金角の悪魔貴族さん(消化済み)の方が大変な事になっていて、


(これ、駄目なやつですかねぇ・・)


 ははは・・。もう、乾いた笑いしか出ませんよ。



 技・・というか、固有の特殊能力という位置付けで、ボクの中に凶悪なくらいのエナジーが煮えたぎっています。



 能力名は、変態合身。



 うん、使っちゃ駄目な名称です! これ以上、お嫁さんに御負担をお掛けすると逃げられます。いや、試してみたい気持ちはわずかにあるんですよ? ほんの、ちょっぴりね。だって、男の子だもの。


(まあ、ともかく・・新しい力を得たということさ)


 綺麗にまとめて、俺は逃避しかかっていた現実の問題に向き合う事にした。



 目の前に、ズラリと人が並んでいる。

 ちょっと腹が立つくらいの美男美女・・・二条松高校の皆様だ。


「どうだろうか、結城ユウキ?」


「お脳が溶けてんのか、アズマ?」


 女の子の誰だかを俺の所に置いて旅に出たいとか言いやがるんですよ? ワガママボーイ過ぎるでしょ?


「・・まるで世界を知らない。知らないまま、判断を下すところだった」


 アズマがゲロったところによれば、当初の予想通り、魔族の訪問を受けて色々とそそのかされ、魔界を訪問する目論見もくろみだったらしい。ただ、その条件として、神樹の守り手・・ルティーナ・サキールを始末するよう依頼されていたそうだ。ルティーナが護る場所に魔界に通じる門があり、排除しなければ自由に往き来ができないと・・。


「世界がどうとか以前に、殺しの依頼を受けるとか、頭おかしいだろ!」


「・・今、冷静になってみれば、そうなんだが・・何かの術をかけられていた可能性もある」


「アホか。お前が殺したがってるから、つけ込まれただけだろうが! この殺人鬼め!」


「だ、誰が殺人鬼だ!」


「はぁ? 魔族と一緒にルティーナ殺しちゃうぞぉ、ヒャッハァーーとか盛り上がってたくせに何言ってんの? まんま殺し屋じゃん?」


「俺は・・だから気の迷いだ!」


「殺してから、気の迷いでしたって言う気か? アホの子なの?」


「・・だ、だから、あれは・・何かの魔術で」


「殺し回った後で、それを言ったら免罪符セーフ? 街とか吹き飛ばして、何かの魔術で操られていましたぁ~ってか?」


「お、お前だって、山とか消しとばしただろうがっ!」


「俺は自分の意思でやったんだも~ん。誰かに言われてやったんじゃ無いんですぅ~」


「ヒロくん・・もう良いよ」


 上条カミジョウさんが、アズマゆずを引いた。


(キャァーーー、ヒロくん、ですって!? 聴きました? 下の名前で呼んでやがりますよ?)


「・・結城ユウキにしか頼めないんだ」


「む?」


「この通りだ」


 ハーレムキングが机上に手を着いて頭を下げた。


「・・3人を死なせてしまってから、どうしても・・この先に自信が持てない」


「ふうん・・」


 まあ、それは分からんことも無いけど? ずっと一緒に戦ってきた仲間・・それも女の子を死なせたんだもんな・・。


「それで、誰を捨てて行くの?」


「捨てるとかじゃない! 別れて行動するだけだ。うちは、みんな自立して生活している!」


「へぇ・・それなら、なんでアズマがお願いに来てるの?」


 自立しているんなら、ノルダヘイルに来たい人が自分で頼みに来れば良いじゃん?


「私は結城ユウキ君に嫌われているから・・無理を言って、リーダーにお願いしたの」


 いきなり切り出したのは、黒川クロカワさんだった。


「・・・・は?」


 誰が誰を嫌ってるって? いや、嫌うも何も・・そもそも意識の表層にすら登場しなかったんですけども・・。なので、好悪の対象にノミネートすらされていませんが?


「嫌うは言い過ぎでも・・好きでは無いでしょ?」


「うん」


 素直に頷く。


「・・やっぱり」


「そもそも、アズマを含めて最近まで忘れてたし・・」


 いや、申し訳無いけど、それどころじゃなくって・・。


「・・だと思った。私達の方は、何かにつけて結城ユウキ君の・・やってる事とか、断片だけど聴かされるから、忘れたりはしてなかったよ」


「ふうん・・」


 しげしげと黒川クロカワさんの顔を眺める。言うまでも無く美人さんである。二条松高校の女性陣の中では一番小柄だ。


「それで、どうかな? 私、結城ユウキ君の国においてくれる?」


「う~ん・・良いんだけど、頑張れるかな? うち、結構ハードモードだよ? それに、俺は国王だからね? 本当にノルダヘイルに住むつもりなら、王様と配下の関係だよ?」


 同じ異世界人だからって特別扱いはしませんよ?


「・・うん、それも考えた。でも・・それは大丈夫。ずうっと前から・・川原で助けて貰った時から、結城ユウキ君には敵わないって思ってたんだ」


「ふうん・・まあ、黒川クロカワさんが、アズアズの寄こした刺客でも、魔界の刺客でも・・俺にとっては脅威にならないから良いんだけど」


「はっきり言うよね」


「事実だから・・もうね、俺は・・色々な意味で大変なことになってるんだ」


 本当ですよ? もしかしたら、少しだけ人外入ってますからね?


「本音で話してくれるから・・君の・・結城ユウキ君の所が良いんだ。私は・・あの蜂が許せない。結城ユウキ君なら沢山の蜂を殺してくれる。結城ユウキ君の所に居れば、もっと沢山の蜂を殺すことができる。だから、結城ユウキ君の国へ行きたい」


「なるほど・・」


 とてもシンプルで分かりやすい。


「奴隷紋を埋めてくれたって良いよ?」


 黒川クロカワさんが自分の喉元を指し示す。


「ふむぅ・・覚悟はあるってことか」


「うん、色々考えて・・それで決めた。何でもする。どんなことでも・・やるよ。だから、蜂を・・あいつらをたおしてください」


 黒川クロカワさんが、床に膝をついて深々と土下座をした。


「・・なんか凄いね」


 同じ高校生とは思えないですよ。同級生が蜂に殺されたからって、ここまで出来るものかな? ちらと、アズマ達の表情を見たけど、全員が沈痛げに表情を曇らせて俯いていた。


「そこまで言うなら・・デイジー」


「はい」


 黙って見守っていたデイジーを呼ぶ。


「神聖術に、嘘を見破るのがあったよね?」


「はい、御座います」


黒川クロカワさん、術を受け入れる気はある?」


「あります」


「じゃ、今から幾つか質問します。誠実に答えるように」


「はい」


 黒川クロカワさんが床に正座をしたまま頷いた。


(なんか・・大袈裟なことになっちゃったなぁ)


 俺は頭をきながら嘆息し、デイジーの神聖術を浴びている黒川クロカワさんの前に立った。


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