第159話 森の会合


「はい、始めます。集まって貰ったのは、凶魔兵についての情報を共有するためです。不要だという人は挙手を。すぐに帰します」


 俺は円形の会場を見回すようにして言った。


「い、いったい、何の権利があって我らをこのような・・」


 狐顔の獣人が声をあげた。


「はい、ユノン。狐さんがお帰りです」


「分かりました」


 小さく頷くと同時に、狐顔さんが魔光に包まれて消え去った。これで、獣人は獅子顔さんと、大鷲オオワシ族の族長だけだ。


「他に、帰りたい人?」


 今度は、誰も口を開かなかった。


「じゃ、さっさとやりましょう。今から見て貰うのは、チュレックの島での交戦記録だ。凶魔兵・・という呼び方はフレイテル・スピナさんが言っていたので、俺達もそう呼んでいる。まずは、出現した位置から・・」


 俺が言った時、部屋の照明が絞られて、円卓の中央に映像が映し出された。

 無数の小島が点在する荒海を上空から見下ろすように映し、線や矢印が描かれて島の名称、大きさなどが表示される。それだけで、低いどよめきが起きていた。


 映像に集中できるよう、軍服女子カグヤさんには姿を消して貰っている。


「このデジン群島にある神殿跡に、凶魔兵が出現し、俺達はフレイテル・スピナさんの応援要請を受けて出向き、島で凶魔兵と戦闘を行った。わざわざ、ここに集まって貰ったのは、この凶魔兵がかなり厄介だからだ。すでに交戦したチュレックの騎士達は身をもって理解したと思うけど・・まずは、個体情報、その能力について判明した情報を伝える。信じる、信じないは、各自で判断するように」


 言葉を切ると、凶魔兵の姿が映し出された。


 実物大である。

 これには、集まっていた全員がどよめき、り、慌てて武器を構える者までいた。


「映像だから・・う~ん、幻像って言った方が伝わるかな?」


 俺は苦笑しつつ、


「この凶魔兵を陸上で684匹、海中で106匹仕留めた。身体能力や攻撃手段が・・これね」


 空中に線が描かれて、説明文が次々と表示される。


「質問して宜しいでしょうか?」


 挙手しつつ立ち上がったのは、ディージェだった。


「どうぞ」


「魔法が効き難いというのは、どの程度でしょう?」


「うん、口で説明するのは難しいので、映像記録を・・」


 実物大の凶魔兵が縮小されて脇へ移動し、中央に戦闘中の映像が映し出された。パエルが火炎魔法を放ち、炎の渦が数十という凶魔兵を飲み込む。しかし、わずかに外殻をがした程度で凶魔兵が進み出て来る。


「なお、今の魔法を蛙巨人に使うと・・」


 並列して別の映像が表示される。同じく、パエルが28体の蛙巨人めがけて火炎魔法を放ち、19体が炭化して崩れ、残る9体も半死半生といった状態で身動きできなくなった。


「なるほど・・よく分かりました」


 ディージェが厳しい表情で着席した。


「だけど、この外殻は破損すると魔法防御力が大きく落ちる」


 今度の映像ではパエルが剣を構えて突撃し、凶魔兵の腕をかいくぐって外殻を叩き割り、至近距離から火炎魔法を放った。先程より威力は低いだろう火魔法だったが、亀裂の入った脚部は焼けて崩れ落ちた。


「外殻は区分というのか、部位ごとに魔防の範囲が決まってるみたいだ。具体的には・・」


 背甲、胸甲、腹甲、右肩甲、左肩甲、右腕甲、左腕甲・・。説明文が表示されていき、実際に、部位ごとに破壊した記録映像が流される。

 続いて、凶魔兵の攻撃手段、その威力、自身の生死を無視した戦い方などが映し出される。

 居並ぶ誰もが息を詰め、映像に見入りながらも対策を頭の中で巡らせているようだった。


「次は、この凶魔兵の上位種と思われる個体」


 外殻が異なる双角の凶魔兵が表示された。


「あれ?・・コウちゃん、これって・・」


 フレイテル・スピナが声を漏らした。


「ん? エルダーってやつでしょ?」


「ううん、これは、その上のやつだよ。ボク達がジェネラルって呼んでいたやつ」


「あれ? じゃあ、部隊長の・・エルダーっていうのは?」


「さっきの外殻破壊実験の・・」


 フレイテルが映像へ視線を向けると、外殻破壊実験に登場した凶魔兵が個体別に表示されて並んだ。


「これっ、この右下の・・」


「ああ、これ?」


 まあ、確かに少し外殻の形状が・・肩甲が一回り大きいかも?


「リリン、こいつどうだった?」


 映像の中で、この凶魔兵をたおしたのは、リリンである。


「外殻の厚みと強度が別物でした」


 壁際に控えていたリリンが短く答えた。


「ふうん・・実際どうだったかな?」


 俺の疑問に答えるように、映像中に比較情報が表示された。


「・・なるほど、別物だ」


 データで見ると、かなり危なそうなやつでした。


「これがエルダー?」


「うん、間違いない」


 フレイテルの肯定を受けて、映像中の個体名が修正された。


「で、この・・うざかったのが、ええと・・」


「ボク達はジェネラル・ウードって呼んでいた奴・・これ、どうやってたおしたの? 魔法も武器も、全部反射してきたでしょ?」


 あれをフレイテル・スピナも味わったらしい。


「こっちを攻撃してくる時、足の裏のまもりが消える。あと、長距離からだと反射できない」


 俺の言葉を裏付けるように、戦闘情報が詳細に表示される。こちらが試みたこと、その結果が表示されていった。一応の推考結果として、目視による転移術である可能性も記述された。


「3キロ・・というのは、魔法でも良いのかな?」


 質問したのは、本郷ホンゴウさんだ。


「魔圧との関係で減衰の割合が変動するけど、反射されないのは確かめたよ」


「・・そう・・でも、この消えて見えない攻撃は厳しいかな」


「知能はどうだった?」


 アズマいてきた。


「個々が考えているというより、この凶魔兵が1つの意思で動いている感じだったな。この・・ジェネラル・ウードを仕留めたら、凶魔兵が動きを止めて無防備になった。だいたい、6分間くらい」


 指揮系統の再構築時間だろうと、軍服女子さんは言っていた。


「その・・6分後は?」


「一斉に撤退して行った」


「そうなのか。すると、ジェネラルというのを攻略する事が鍵なんだな」


「そうなるね。当然、ジェネラル・ウードの上も居るんだろうけど?」


 俺はフレイテル・スピナを見た。

 あの双角の青年について訊くべきか・・。ちょっと迷っています。あれはギリギリの戦いだった。今の俺達、ノルダヘイルの限界を教えるようなものだから・・。同盟関係にあると言っても、こちらの力の底を見せてしまうのは良くない気がするんだよね。


「居るよ。でも、こちらに実体化するかどうか・・」


 チュレックの国母さんが首を傾げ、同じ世代らしい神樹さんを見る。同じ奴の事を思っているかは分からないけど、この古エルフ2人には思い当たる対象が居るらしい。


「そもそも凶魔兵による侵攻が、どういった存在の、どういう意図によるものか不明なのです。今回は、フレイの情報によれば、魔族の領主の1人、ロダンバズが悪魔に堕ちた事がきっかけのようですが・・」


 神樹様・・ルティーナ・サキールが呟いた。


「そうだった。その魔族に会うために、デジン群島の神殿跡に行ったんだっけ?」


 確か、フレイテル・スピナがそんな事を言っていたような・・?


「うん、そうなんだ。協定を破って魔族が現れるようになったから文句を言いに行ったんだよ。あそこに、門があったからね」


 魔界と往き来できる門のような場所があったらしい。


「そうしたら、凶魔兵が?」


「門の封印が解かれていて、魔族が自由に出入りできる状態だった。それで、とにかく封印をやり直そうと準備してたら、魔族が助けを求めて来たんだよ。昔に戦争やってた時の顔馴染みでね、ロダンバズの副官・・秘書みたいな子なんだけど、瀕死でさ・・悪魔堕ちの話はその子から聞いたんだ」


「その魔族は?」


 ルティーナ・サキールが訊いた。


「手当の最中に凶魔兵に襲われて、助けられなかったよ」


 フレイテル・スピナが痛ましげに顔を曇らせる。


「そうか。堕ちるという表現を使ったか。すると、魔族と悪魔はやはり因果の繋がりがあるのか」


 ルティーナ・サキールが低く唸った。その辺は、この2人も判っていないのか?魔族の事、悪魔についての詳細情報はあまり得られそうも無い感じだ。


「全員に分かるように説明して」


 俺は2人を等分に見やりながら要求した。ここの仕切りは俺です。古エルフ2人だけで完結する会話は許しませんよ? ちゃんと分かるように説明して貰いましょう。


「そうだな・・しかし、申し訳ないが多くは語れぬ。そういう約定になっている」


「誰と? どういう約定を?」


 俺は円卓上の映像を消させて着席した。代わって、部屋の明かりが灯る。


「・・魔族のそれなりの地位にある者と、悪魔の・・魔獄と呼ばれている領域の成り立ちについては口外しないと取り決めになった」


 歯切れの悪い回答だ。魔獄ねぇ・・?


「ふうん・・昔に凶魔兵が出てきた時というのは、いつ頃?」


「400年ほど前だったと記憶しているが・・フレイ?」


 ルティーナ・サキールがスピナを見た。


「うん、そのくらいかな・・460年くらい前に、今のセンテイル王国の近くへ越界して来て、それから30年くらい暴れて・・ボクや、他にも色々な種族や立場の人が集まって抵抗したんだ。でも、力の差があり過ぎて、どうにもならなくて、もう駄目かなって時になって、神々の軍勢がやって来たんだよ」


「神様の軍勢? どんなの?」


「う~ん、背中に白い翼があって、金とか銀色に輝く鎧を着てて・・凶魔兵と同じくらいの背丈でぇ・・あ、中には、もっと大きい天使様も居たね」


「その天使様って強かった?」


 そんな兵隊が居るなら、今すぐ派遣して欲しい。


「なんか、攻撃が普通に当たってて、ジェネラルも反射できていない感じで、びっくりするくらい普通の戦いだったよ。数が多い方が勝つって感じ」


「へぇ・・天使か。凶魔兵の・・何か無効化できる道具があるのかな」


 凶魔兵と天使というのが同格という感じか。武器かなんかで、特殊な防御力を打ち消している? そんな武器か、魔法があるのかな? それなら天使に来て貰うより、そっちを教えて貰った方が良いのかも?


「そうかもねぇ・・でも、凶魔兵の攻撃も、普通に当たってたから、お互い様なのかも」


「ふうん・・」


「これは、ボクの想像だし、話半分くらいに聴いて欲しいんだけど・・」


「うん?」


「凶魔兵って・・多分、天使様も・・作り物なんじゃないかなぁ」


 この古エルフさん、時々、ビックリするような事を言い出すよね。


「・・・どうして?」


 俺はギョッと眼を剥いた。聴いていた円卓の皆も同じように息を呑んでいる。


「だって・・う~ん、根拠ってものは無いけどさ・・やっぱり変なんだよ。何かの病気で、痛覚が無いとか、そういうには分かるよ? ボクの知り合いにも居たし・・でも、あの数全部、痛覚が無くって、死を恐れなくて・・なのに薬物や暗示を使った感じでも無いんだ。おかしいよ・・生き物なら、もっと生き延びようって本能的な動きをするよ?」


 確かに、フレイテルが言うように凶魔兵は痛覚を覚えていないか、恐怖といった感情が抜け落ちたような捨て身の動きをする。


「確かに、そうかも」


「・・結城、実際に戦ってみて、どうだった?」


 アズマいてきた。


「凶魔兵は、戦闘能力だけなら、黒い蜂と同じか少し下くらい。エルダーってのは・・」


 リリンを見る。


「ファウルよりは動きが遅く単調でした」


 リリンが端的に答えた。


「ファウルといのは、死ぬ時に悪疫を撒き散らすやつ。俺達は、ファウル・ホーネットと呼んでる」


 俺の補足に合わせて、ファウル・ホーネットの映像が表示された。


「なるほど・・あの蜂が反射の防護膜を纏っている状態と同等。その上、見えない攻撃で斬られるのか」


 アズマが顔をしかめた。


「そう・・無数の斬撃を転移させている感じだった。いきなり、周囲の至近距離から斬撃が襲ってくる。あれは、初見だと厄介だね」


 透明な物が飛来するんじゃない。どこかの別空間をくぐって、いきなり周囲に出現するのだ。


「・・結城ユウキはそれでも生き残ったんだな」


「当然だろ? 俺がユノンやデイジーを置いて死ぬわけ無いじゃん」


「・・それを言える結城ユウキうらやましいよ」


 アズマが苦笑した。


「言える時に言っておかないと、いきなり死ぬからね、この世界は」


結城ユウキ・・」


「異世界人に優しくない所だよ、ここは。森のため、町のため、国のため・・そんなつもりで居たら、良いように使い潰されるだけだぞ? もっと自分に素直になって、好きな女の子のためとか、お金持ちになるためとか、王様になるとか、ハーレムを・・は、もうあるね。とにかく、そういう気持ちで行動した方が自然だし・・上手くいかなくて死んじゃう時でも、きっと後悔が少ないんじゃないか?」


 俺は、アズマの肩を優しく叩いた。


「・・だから、ハーレムというのは」


「良いんだ! みなまで言うな、いやっ、責めてるんじゃない! そりゃ、独りぼっちの時には、朝昼晩晩、死ねば良いのにって思ってたけどね。いやっ、今は全くそういう気持ちは無いよ? 幸せになってくれたら良いなぁって、生温かい気持ちで応援してるんだよ?」


「だから、俺は・・」


「まあまあ、アズマ君、君の惚気のろけ話を聴いてあげたい気もするけど、ちょっと場をわきまえようぜ? な?」


「お前が言い出したんだろうが!」


「うはは・・アズアズが照れてるぅ~。いやぁん、アズアズ、カワイイ~」


「このぉっ・・」


結城ユウキ君?」


 上条カミジョウさんが危険な顔つきで見つめていらっしゃる。


「おっと・・」


 俺は素早くユノンの後ろへ逃げ込んだ。


「まあ、あれだ。俺達、異世界人は戦争の道具じゃ無いって事、自分達の都合で便利に使おうとするなって、この場でキッチリ言っとけよ。いい加減にしないと、樹海ごと焼き払うぞってさ。ああ、ついでだ。俺が言ってやろう。異世界人代表として・・」


 俺は円卓の他のみんなを見回した。


「いや、結城ユウキ、お前何を・・」


 アズマが俺の上着の袖を引く。


「え? だって、魔族と組んで樹海を燃やすんでしょ?」


「何を馬鹿な・・」


「良いんだって、気持ちは分かるよ。もう何もかも焼き払ってしまいたいよね。うん、よく分かります。ただ、闇谷だけは見逃してくれないか? 俺の義母おかあさんが住んでいるんだ。燃やすんなら、他の場所にしてよ。ああ、さっきの狐顔の家とか焼き討ちしない? 付き合うよ?」


 握り拳を作って見せた。


「魔族の事を聴いたのか?それだったら、俺達とは無関係だ」


 アズマが首を振る。


「そうなの? 俺は魔族の知り合い居るけどね。じゃ、森に来た魔族って、俺を訪ねて来たのかな?」


「・・なんだと!? お前、魔族と?」


 アズマが眼をいた。


「まあ、普通に良い人ばかりだよ?」


「お、お前は、使徒になったと聴いたぞ?」


「いいえ、ボクはニンゲンですぅ~。ただのヒューマンビーイングですぅ~」


 みんなして誤解もはなはだしいのですぅ~。ボクは、真人間ですぅ~。


「しかし、お前の・・ノルダヘイルでは、みんなが国王は使徒だと言っていると」


「勘違いしたお馬鹿さんの妄言ですぅ~」


 俺は、へらへらと笑った。誰だ、いったい? 後で説教部屋だぞっ!


「魔族を・・魔族と付き合うことを、お前の・・月光の女神は神々は認めているのか?」


 アズマ怪訝けげんそうにいてくる。なんで、ここで女神様? うちの女神様、なんにも言わんよ?


「まあ、俺・・魔族の神様ともお話しした事あるし? ちょっと文化とか常識の違う人達ってだけだよ? あっちも、ゲコや羽虫があふれて困ってるとか言ってたな」


「お前という奴は・・」


 アズマが戸惑い顔のまま溜息をついた。


「スピナさん、タケシ・リュードウを知ってるよね?」


 俺は別の話題をふった。


「うん、知ってるよ? アイラヴューとか言って花束渡された事がある」


 フレイテル・スピナが笑いながら言う。


「・・言葉の意味を?」


 ごめん、何か絵が浮かんだ。頭痛がしてきた。


「何となく分かるけど、知らんぷりしてたら、他の子にも言ってたよ?」


「・・恐ろしい奴」


「あの変な子、精霊皇帝とか言って、戦争を起こしたんだよね」


「世界の半分を支配したって?」


「う~ん、そんなに? そうかなぁ?」


 声にも顔にも深刻さが無い。あれっ? ガセなの?


「違うの?」


「あちこち攻めてたけど、うちには攻めて来なかったし・・・ある日突然やって来て、好きな人ができたから前に言った事は忘れて欲しいって、慰謝料だとか言って山のようなお金を置いて行ったよ」


 フレイテル・スピナがけらけらと笑う。


「慰謝料?」


 頭痛が酷くなってきた。


「恋心を抱かせちゃったおびとか言ってた」


「・・異世界人がご迷惑をお掛けしました」


 俺は、深々と頭を下げた。本当に申し訳ございません。


結城ユウキ君・・」


 声をかけてきたのは黒川クロカワさんだ。先日よりは、尖った感じが鎮まったかな?


「蜂を殺してくれてるのよね? 蜂についてのデータ・・情報もあるよね?」


 念を押すような口調で、じっとこちらの表情を覗っている。


「そうだね・・カグヤ、ホーネットの種類別の討伐数を出してくれ」


 姿を消している軍服女子カグヤに声をかけると、黄色、黒色、灰色、白色、赤色の個体が映し出され、それぞれ横に累計の討伐数が表示された。


「・・こんな色の蜂は知らない・・でも、凄い数」


 黒川クロカワさんが呆然と呟いた。


「ちなみに、こいつらの巣は・・こんな感じ」


 1つの街ごと巣にしてしまった例を映像で見せる。


「最初は焼き払えば良いのかと思ったけど、意外に難燃性で・・結局毒を使った。まあ、殺虫剤だね」


「毒が効くの?」


「密閉された場所ならね」


 ある程度、空気が滞留するような場所で無ければ効果が薄い。拡散して無関係な者に被害が及ばないよう、ごく短時間で無害化するように調整してあるからだ。


「そっか・・巣とかなら」


 黒川クロカワさんが頷いた。


「厄介なのは、こいつら世界中で巣を作って繁殖をしちゃってるってこと」


「減らないの?」


「魔界の方も数が減らせずに手を焼いてる感じだったし、思ったより面倒な虫だなぁ・・・もう、俺の生徒達・・近衛見習いが蜂を狩れるようになったから、かなり効率よくたおしてるんだけど・・知ってる? こいつら、水中にも巣を作るんだよ?」


「水に潜るの?」


「・・よし、凶魔兵については一通り終わったし、ここからはホーネットトードについてかな。帰りたい人は言って、すぐに転移で帰すから」


 みんなに訊いてみたが、誰一人として帰るとは言い出さなかった。何しろ、この場の大半の者にとっては、凶魔兵どころか、巨蜂や蛙巨人の方がより身近で現実的な脅威なのだった。


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