第158話 思い付き


「それで、どうして生きてるの?」


 俺は、頭を抱えながらいてみた。


『お父様、質問の意味が不明』


「いやっ、お前が意味不明だよ!」


 俺はおどり上がるように立って、ビシッと指差した。


 相手は、黒翼の少年・・だか少女だかをして造られた、凶悪なロボである。性的特徴を指摘できる部位までは造られていなかったため・・と言うか、ロボなので性別は無い!


 何がどうなったのか、粉々に粉砕したはずのコイツが、小さくなって復活したのである。身長20センチほどの、美少女だか、美少年だか判らない黒翼人形だ。


『お父様、大幅な血圧の上昇が認められる』


「誰のせいだ、このっ・・」


「コウタさん」


「・・うん?」


「フランナちゃんは、まだ幼いですから」


 ユノンが俺をなだめるように微笑む。


「・・そうだっけ?」


 でも、ロボだし、製造年月日とか関係ないじゃん。


「まだ生まれたばかりですし、色々と・・悪気は無いんだと思います」


 デイジーまでがかばうような事を言う。


「むむ・・」


 すでに、2対1です。家庭内投票をしたら負け確定じゃないですか・・。


「でもねぇ、こいつ・・フランナは何で帰らないの? 敵でしょ? 俺達を殺しに来た極悪ロボットだよ? ちっちゃくなったけど」


『フランナはお父様を攻撃できない。フランナは心配している。お父様は著しい記憶の混濁あるいは妄想が疑われる』


「お前がな!」


「ほら・・コウタさん、落ち着いて下さい」


 ユノンが俺に身を寄せて、スミレの瞳で優しく見つめてくる。


「う・・うん、まあ・・いや」


 逆らえません、ユノンには・・。


「もうすぐ、カグヤさんの検査結果が出ますから、それから・・決めませんか?」


「うん・・そうだね。そうしようかな」


 腹立たしいけど、デイジーの言う通り、カグヤの分析によって全ては解明されるだろう。



『司令官閣下』



 軍服女子が姿を現した。



「おう、待ってた!」



『結論から申し上げます。個体名フランナは、敵性ではありません』



「なんだってぇ!?」



『常時展開されている防御力場が弱体化した状態で、許容範囲を逸脱いつだつした衝撃を頭部に受けたため、行動原理として規定されていた命令情報が損壊、同時にいくつかの記憶領域も部分的に消滅したため、行動原理の論理構成が構築されず不具合が生じたために・・』



端的シンプルに言うと?」



『壊れた記憶を消去し、無事な記憶を繋ぎ合わせて整合性を作った過程で、司令官閣下を創造主として認識しております』



「・・つまり、この・・フランナはもう敵じゃ無い?」



『はっ! ただし・・』



「なにか?」



『失われた記録に置換する形で、司令官閣下を神として認識しております』



「おぅのぅ」



『意見具申』



「・・どうぞ」



『個体名フランナは、極めて優秀な攻撃能力を保有しております。司令官閣下のおそばに置いておく事は閣下にとって有益だと愚考致します』



「ぅ・・うむ、まあ・・安全なんだな?」



『全ての安全性試験において、完全に合格です』



「う~ん・・」



 俺は、ちらっとフランナを見やり、続いてユノン、デイジーを見る。


「フランナ、俺の名前は?」


『お父様』


「違ぁーーう! コウタ・ユウキだろ!」


『でも、コウタ・ユウキと、お父様は完全に意味が一致している』


「・・こちらの美人さんは?」


『ユノン・ユウキ。お母様。護衛対象』


「ふむ・・じゃあ、こっちの美人は?」


『デイジー・ロミアム。お母様。護衛対象』


「・・そういう認識ね。まあ、良いけど」


『会話用に、口語辞書機能を利用している。フランナは高性能』


「あっそう。高性能なフランナちゃん、俺の質問に正確に答えなさい」


『分かった』


「フランナは何が燃料・・行動するために、何を摂取・・吸収しているんだ?」


『ごはん』


「・・ぶつよ?」


『正確に答えたら、ぶつの?』


「ぅ・・いや、正確なら良い。ぶたない」


『ジュエル・ナイツと同じ食事をする』


「ふうん・・でも、ここに来てから何も食べて無いよね?」


『お母様から神酒という液体を分けて貰った』


「ほほう・・?」


 俺はユノンを見た。ユノンが口元に笑みを浮かべて首肯する。


『フランナは順調に回復している。いつでも、お父様の敵を撃滅できる』


「うん、まあ・・頼もしいね」


 俺は、ちびっ子な兵器を手に入れたらしい。


(でも、ビームとかミサイルとかが、全部コイツのサイズになったって事だよね? それって・・)


 ただ痛いだけで、怖く無いんじゃ?


『お父様』


「なに?」


『世界征服する?』


「そんなにヒマじゃありません」


『神域を破壊する?』


「寝言は寝て言いなさい」


『無双はしないの?』


「俺は常識人なの。無双とか脳が傷んじゃった病人の妄想なの」


『分かった。論理構成を修正する』


「フランナは、パール、ガーネット、ダイヤモンド、ルビー、エメラルド・・ジュエル・ナイツが何処に居るのか判る?」


『分からない』


「・・使えねぇ」


『フランナは有能』


「はいはい」


『お父様はいじわる』


「いいえ、俺は優しい人間ですぅ」


『フランナを馬鹿にしてる』


「お前、大っきい時は凄かったんだけどねぇ」


『フランナ、大きくなれる』


「・・へ?」


『小さい方が長く動ける。大きいと、24時間で活動限界がくる』


「どゆこと?」


『ナイツと違って、ドールズは平時はお人形としての役目がある。色々な衣装を着たり脱いだり、要求された姿勢を維持しなければならない』


「・・で?」


 なんなの、そのらない裏設定は・・。


『有事の際には・・』


「って、ぅおお!?」


 眼の前で、ちびっ子が戦った時のサイズになった。


「あ、ありえん・・」


『普段は人形に擬態。侵入者があると大きくなって排除』


「ふうむ・・有能かも」


『フランナは有能』


 元のお人形サイズに縮んでいく。


「もしかして、見たものを録画したり・・それを投影したりできる?」


『盗撮機能は万全。暗視、望遠も完備。絶対に対象には気付かれない』


「・・あいつだな。それオーダーしたの」


 精霊皇帝が要求したに違いない機能である。しかし、使い方によっては優秀だ。


「フランナ、お前に対する認識が間違っていた。お前は、とても優秀だ」


『嬉しい。フランナは有能』


「よし、フランナを信頼しよう。俺からの依頼が無い時は、ユノンとデイジーを護ることがフランナの仕事だ」


『分かった』


「カグヤ」


『はっ』



 軍服女子が姿を現した。



「フランナとの情報のやり取りは可能か?」



『可能であります』



「フランナがとらえた映像を収集して分析も?」



『可能であります』



「よし・・凶魔兵の出現は?」



『索敵範囲内に存在は認められません・・艦外に個体名ゲンザンが接近中』



「ユノン?」


 俺の問いかけに、


「チュレック艦隊は無事に港へ到着。スピナ様と宰相、提督から、それぞれ書状を預かって来たそうです」


 すでに伝話を受けていたユノンが答える。


「この島の凶魔兵が這い出て来た神殿に、俺の砲仙花ホウセンカとユノンの毒罠を設置しておこう。気休めかもしれないけどね。それが終わったら、一度、チュレックで話を聴き、ノルダヘイルに帰還する。先に、樹海には大鷲オオワシ族から凶魔兵の様子を伝えておこう」


「はい」


 ユノンが頷いた。相当に手強い敵だ。収集した情報はどんどん伝えておいた方が良いだろう。

それにしても、忙しい戦いだった。


(正直、ちょっとキツいんです・・コイツ滅茶苦茶だったし・・余裕無くて追い込まれたからね? 満月ブーストかかった俺が、ギリギリよ?)


 凶魔兵はともかく、エルダー(?)何某なにがしはとんでも無く面倒だし、フランナとか即死級のビームやらミサイルやら・・。


(って言うか、神様達、こんなの放置してんの? 他にも居そうなんですけど? 世界観が粉々じゃん? 良いの、これ?)


 タケシ・リュードウの宝石シリーズに、フランナみたいなドールズが居て・・どうせ、他のシリーズも出て来るよね? 亜空間の工房に攻め込んだような事を誰かが・・ダイヤモンドだかが言ってたっけ? ああ、女神様も、ちらっと言ってた?


『お父様が動かなくなった。故障?』


「考え事をなさっているの。邪魔をしたら駄目ですよ?」


 デイジーが何やら言い聞かせている。


『長い考え事。処理速度が遅い。頭脳は旧型?』


「破壊しますよ?」


 ユノンの一言で、


『撤回して謝罪する』


 素直に口をつぐんだらしい。


 うむ。ユノンに逆らったら駄目なんだぜ? 我が国の不文律ルールなんだからね?


(・・じゃなくって、ええと・・)


 集まった情報を1つ1つ並べて見ないと駄目かも? 関係が無さそうな事も含めて、ちょっと整理しないと駄目だね。


(フレイテル・スピナ、宰相、提督、ディージェあたりに、闇谷の長と義母さん、神樹の長に・・)


 いや、戦闘続きで忘れていたけど、龍帝にも会って色々といてみたい。


(やっぱり、樹海か)


 何だかんだで、あの地域は特殊な環境だ。まあ、チュレックも大概だけども。龍帝・・は、会えるかどうか微妙だけど、国母様フレイテル神樹様ルティーナには会える。闇谷の義母さんが知っている以上の情報を持っているだろう。


「カグヤ」


『はっ!』


「凶魔兵についての情報を取りまとめ、映像中心の説明資料にしてくれ」


『はっ! 27分下さい』


「うむ。サクラ・モチは、ノルダヘイル上空に移動させておけ。ユノン、俺を連れて転移を頼む」


「分かりました。どちらへ向かいましょう?」


「まずは、チュレック、それから闇谷、神樹・・かな」


 みんなに集まって貰って話をする方が良いんだけど、会いたい相手はみんな重要な職にているからね。


(・・まあ、危ないぞぉ~って報せるだけなら、話精霊で良いんだけどさ)


 それでも良いのかな? 俺があれこれ動くの・・誰に頼まれたわけでもないし、お節介かもなぁ。


「う~ん・・・」


「コウタさん?」


「いや、どうせなら、もうちょっと・・うん!」


 俺は、デイジーを見た。


「ノルダヘイルに、チュレックのお偉いさん、樹海のお偉いさんを集めて来る。デイジー、出迎えの準備を頼むよ」


「畏まりました」


 デイジーが頷いた。


「カグヤ、デイジーの指示に従って迎賓館を構築してくれ」



『了解です』



「ユノン、ちょっと忙しい感じになるかも」


「大丈夫です」


 ユノンが魔光をまといながら微笑した。


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