第152話 凶魔兵
何というか、恐竜というより、某SF映画に登場する爬虫類っぽい捕食者を想わせる、甲冑のような外殻で覆われた細身の体に、
前情報通り、身の丈は2メートルちょい。かなりの敏捷性があり、動きも単調では無く、強引に襲うと見せて素早く退き、長い腕、尻尾を使った死角からの攻撃を企んだり、着火の能力でこちらの視界を
(・・そして、この体液か)
(蜂の・・デル・ホーネットの方が強い。でも、こいつらは家屋の中だろうと、地下だろうと組織立って襲ってくるのか)
恐ろしいのは、こいつらが統制のとれた兵隊ということだろう。
「コウタさん」
ユノンが近寄って来た。持ち場の凶魔兵を片付けたらしい。手にした黒木の杖がべっとりと汚れているけど・・。それって、魔法の威力をあげる道具ですよね? 殴ったんですか?
「コウタ様」
デイジーもやって来た。こいつも、握っている錫杖がドロドロだ。いったい、どんな戦いをやって来たのか。
「動きが読み辛くて・・虫だか、
「
「そうですね。ただ、着火をしてきますので、場所によっては火事など起こりそうです」
ユノンが振り返る。視線の先をアルシェ達が駆けてくる。皆、手傷は負っているが無事だった。
「デイジー、治療を」
「はい」
毒だけでなく、病原菌を撒き散らしている可能性もある。リリン達の加護の
「ゲンザンさんから伝話です。スピナ様の一団を発見、騎士500ほどと共に、こちらへ向かっているようです」
ユノンが告げた。
俺達が居る場所は船着場だ。停泊しているチュレックの帆船を守って戦っていたのだった。
「ユノン、船長に迎えを寄こすよう連絡を」
「はい」
「デイジー、治療が終わったら船の障壁を張り直して」
「畏まりました」
「アルシェ、シフートとファンティを連れて、騎士達の離岸を支援。怪我人の手当ては船でやる」
「はいっ、承知しました」
「・・海中から来てる。数は50くらいか・・リリン、パエル」
「はっ」
「はいっ」
リリン・ミッターレとパエルが抜剣して海辺へ走る。
「障壁、張り終えました」
「デイジーはアルシェ達を支援。騎士達を迎え入れる準備を」
「はい」
「ユノン、海側をお願い」
「分かりました」
「俺は空に上がる」
空気を足場に駆け上がる。
(ユノンの罠ゾーンまで、まだ300メートルはあるかなぁ・・)
「御館様」
ゲンザンが上昇して来た。
「スピナ殿が仰るには、さらに後方よりエルダーなるものが追って来ておるようです」
「エルダー・・普通に考えれば、先輩格のちょっと強い奴かな?」
「凶魔兵には魔法が効き難いのですが、外殻に傷が入れば問題無く、魔法が効くそうです」
それは有用な情報だ。
「なるほど・・空を飛ぶやつは?」
「今のところ見かけませぬ」
「殺戮を目的にしている奴らが、空を飛ばないはずが無い。エルダー
「手強そうですな」
「ファウル・ホーネットより上かも」
「・・そのつもりで備えます」
「うん、そろそろ罠の埋設場だ。
「はっ、直ちに」
ゲンザンが身を
(忙しいね・・まったく)
ちらっと海の方を見ると、海中を
魔法が効き難いとか、ユノンには関係なさそうです。
(船は・・)
帆船から上陸用の小船が吊り降ろされて海上に浮かべられ、水夫達が決死の形相で
(・・うん)
耳を澄ませるが、海中には凶魔兵の鼓動が感じられない。
「上空を制圧し続けてくれ。あと、例の鉄片降らしからの魔法攻撃が効きそうだ。族長に伝話を頼む」
空から鉄片を降らせるだけでも、外殻に傷を入れるくらいの効果は見込める。
「ははっ!」
ゲンザンが
俺は、すれ違いに高度を下げて、騎士達の真上に位置取った。眼下15メートルを疲労困憊した騎士達が重い足をなんとか前に動かそうと歯を食いしばり視界に入ってきた海岸の見張り小屋めがけて歩いて行く。思ったより怪我人が少ないようだ。
(スピナさんは・・)
視線を巡らせると、近衛らしい騎士5人に護られて歩いていた。かなり後尾に近い位置に居る。
(それで良いのか、騎士さん達・・)
国母様とか言って敬っているんだし、こんな時こそ手厚く護るべきなんじゃないか?
(それに・・ヤバいって!)
俺は軽く空を蹴って、フレイテル・スピナの上に移動すると、勢い良く下へ跳んだ。
半月状の斬撃に続いて、黒々と揺らぐ炎の槍が降り注いできたのだ。
「強いのが来た。船に急いで」
フレイテル・スピナの近くに降り立って一声かけると、兎の瞬足で一気に前に出る。左右で、凶魔兵達がユノンの仕掛け罠に
デイジーが追って来ていた。みんな助かるだろう。
(・・あいつかな?)
四つ脚の
黒い液体を被ったかのように、どろりと湿ったものが全身を覆っている。脚が4本あるくせに、人っぽい上半身にも左右4対の腕が生えていた。頭部の形状は凶魔兵に似ているが、少し細長いかな? 体高は3メートル程度。蛙巨人に比べれば、おチビちゃんである。
まあ、人のような上半身ではあるけど、何というか黒いゴムっぽい質感の見た目だ。
(先手必勝っ!)
俺は、
(・・遁光ぉっ!)
一歩踏み出しかけて即座に光粒子化して逃れた。
激しい衝突音と共に、俺が立っていた場所が砕け散り、大
(何が起きた?)
武器は持っていなかったよ?
実体化して
(何も・・ぇっ!?)
「ぐぅ・・」
雷兎の毛皮が無ければ真っ二つにされて即死だったろう。それでも重傷に違いないけど・・。
(なるほど、そういう・・)
舌打ちしつつ、空へ跳ぶ。どうやってかは知らないけど、この黒い怪人はこことは違う空間越しに斬りつけているのだ。
(痛ぇぇ・・油断した)
だけど、2度は食らわないよ!
3度襲って来た多数の斬撃をきっちりと回避し、大きく前に出る。
(む・・?)
そのまま槍穂を突き入れようとした瞬間、ぎりぎりで相手に刺さりそうな穂先を
何か嫌な感じがしたのだが・・。
「・・がふゅっ」
短く苦鳴を漏らし、俺は吹っ飛んでいた。
(もう・・やだ。これ・・反射?)
脇腹を抑えつつ大きく距離を取って対峙する。自分の蹴りだが、これは
(魔法も
以前に呑み込んだ魔法の中から、雷撃を選んで・・。
カァァァァァーーーー
噴吐によって、口から雷を放つ。
果たして、
(ぃ・・だぁぁぁ)
俺が雷撃に打たれて身を震わせた。反射確定だ、これ。
(う、うざっ・・こいつ、うざっ!)
嘘でしょ? こんなのが、ポコポコ出てくるの? きっついでしょ? これが部隊長とか? もう、人類滅亡、確定コースなんだけど?
う〜ん、調子に乗り過ぎたかな? こんなの逃げるしか・・。ちらと逃走も視野に入れたところで、ふと有効そうな戦い方を思い付いた。
(って、あぁ・・そうか)
ふむ・・。 まあ、まだ手はあるか。
要は、外殻を何とかすれば良いんだろう。凶魔兵も、外殻に傷が入れば魔法が
(これで駄目なら、逃げて仕切り直しかな)
先程と同様、目に見えない、音も聞こえない斬撃がどこからか迫ってくる・・と思う。そう思った直後、唐突に周囲に斬撃が出現して押し包んできた。
(遁光・・)
光粒子と化して回避する。
そして、怪人の真横に実体化するなり、
・・邪兎の呪髪
ひっそりと技を発動する。しかも、伸ばした髪を透明化してある。
(どうかなぁ)
半分痛みを覚悟しつつ・・。
(む・・おっ?)
手応えのようなものはあったが、俺に痛みは返らなかった。地面に着いている足の裏を狙ってみたんだ。
(うひぃ・・)
思わず頰が緩む。控えめに突き入れていた呪髪を一気に伸ばして怪人の体内を切り裂くと、心臓っぽい物に巻きつかせた。
「ふうん・・」
怪人を覆っているドロッとして見えた物は、気体のような・・例の魔瘴気に似た雰囲気のものだった。
怪人が大きく口を開けて、口腔から何かを吐き出す雰囲気がある。
しかし、ビクンッと身を震わせて動きを止め、そのまま草花が
(死んだと見せて、中から小さい
ボロボロと乾いて崩れる死骸に
(む・・?)
周囲の凶魔兵達が動きを止めて、俺の方を見ている。ぼうっとして無防備に立ち尽くしていた。
(なんだか知らないけど・・チャンス!)
俺は話精霊を
「ノルダヘイル王国、全軍に告げる! 敵、凶魔は動きを止めた! 首を
『承りましたぁ〜。代金は500セリカになりますぅ〜』
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