第150話 また、何かが起きたみたいです。


 ダイヤモンドとの戦いに勝った俺は、神々から褒美を与えられた。


 まあ、武器だの鎧だの、宝石やら金塊といった微妙なものばかりだけど・・。


 いや、やり取りの中で、サクラ・モチの機能制限は無期限で行わないという言質を得たのは成功かな?

 そして、戦いの前に女神様から貰った金粉・・じゃなくて、光鱗粉。


 ああ、あと司法神がつけていた司精霊が去って行った。役目を終えたという事らしい。善行ポイントがどうとか考えなくても良くなったということです。事情はよく訊かなかったけど、まあ蛙や蜂をかなり狩ったもんな。



「サクラ・モチが自由になったのは喜ばしい」



『はっ! 司令官閣下』



 軍服女子が嬉しそうに胸を張った。心なしか晴れ晴れと明るい表情をしているようだ。



 まあ、神様としては船を使って巨蜂を狩ってくれという事だろうけど・・。



「まずは世界の地形把握からだ。焦らず、精密に行ってくれ」



『はっ! お任せください』



 カグヤが敬礼した。



「うむ、お前に任せておけば間違いないだろう。世界の総てを測量してくれ。それまで、俺はしばらく艦外で行動する」



『はっ!』



 いさむ軍服女子に頷きかけながら、俺は艦外で待つユノン達の元へと向かった。



 左右上下に開いた外殻部の出入り口から地上へと飛び降りる。今のサクラ・モチは自らの選択によって空に浮かぶ岩塊に偽装している。地上から10キロメートルほど上空に浮かぶ岩塊を訪れることが出来る存在は少ない。黄色い巨蜂イェル・ホーネットですら、7~8キロが限界高度だ。まあ、ファウルホーネットあたりは普通に飛んで来るけどね。


 下で待っていたのは、ユノン、デイジー、そしてアルシェに連れられた生徒達だ。ゲンザン達、大鷲オオワシ族も控えている。


「チュレックから救援要請は?」


「まだ届いておりませぬ」


 ゲンザンが首を振った。


「ふうん・・」


 フレイテル・スピナが魔族側と話を付けたのだろうか?


(いや・・そんな簡単な訳は無いよな)



「話精霊、カモン!」



『ご伝言ですかぁ~?』



 蜜柑みかん色の精霊がにこやかな笑顔と共に現れた。



「フレイテル・スピナに返信付きで頼む」



『うぅ~ん・・うぅぅぅ~~ん? あれぇ・・うぅ~~ん?』



「駄目か?」



『うぅぅ~~ん・・・あっ、あっ・・見つかりましたぁ! 伝言できますよぉ~!』



「よし・・救援の要請があれば何処にでも行く。それが別の世界でも。以上だ」



かしこまりましたぁ! 代金は5百万セリカになりますぅ~』



「・・届いたかな?」



『大丈夫ですよぉ・・あっ、返信ですぅ~』



「なんだって?」



『今すぐ助けに来て。悪魔王の手下が攻めてきた。魔界のロダンバズが悪魔ちしちゃった・・・だそうですぅ』



「聴いただけで面倒そうなんだけど・・」


 俺はひたいを抑えて嘆息した。


「魔界の魔族ですら、人々からすれば伝説の中のものですのに・・・悪魔ですか?」


 デイジーが苦笑しつつ俺を見る。


「フレイテル・スピナに伝言、返信付きで・・・何処に行けば良い?」



『畏まりましたぁ~、代金は5百万セリカになりま~す』



「はいよ」



『口座から引き落として起きますねぇ~』



「どうぞ・・ユノン、後でチュレックに請求するから記録お願い」


「はい」


 ユノンが帳簿を手に笑顔で頷く。



『・・チュレックの西海、デジン群島にある神殿に来て。以上ですぅ~』



 蜜柑みかん色の精霊がお辞儀をしながら消えて行った。



(悪魔王?・・魔界の魔族とは違うのか? 悪魔ち?)


 知らない単語だらけだけど・・。


「まあ、相手が何であれ、フレイテル・スピナの依頼だ。チュレックに行くよ」


 俺は、ゲンザンを見た。


「族長に状況を伝えて、大鷲オオワシ族を多めに連れて行きたい。多分・・厄介な感じになる」


「はっ、直ちに」


 返事と共に、ゲンザンが配下の大鷲オオワシ族を伴って飛翔して去る。


「こうなると・・貰い物の武具が役に立つな。売らなくて良かった」


 俺は、ダイヤモンドの討伐で貰った武具を地面に並べていった。


「まずは、ユノン、デイジーから、その後でアルシェ達が選ぶように」


 強い者をより強く・・それが俺の主義である。


「・・神々の祝福を得た武器防具ですか。まさに、今の状況のためにあるような・・」


 デイジーが呟いた。こうなると見越して下げ渡したのではないかと言いたいんだろう。


 まあ、そうかも知れないけど、正直、その辺はどうでも良い。俺に役に立つ物なら、どんどん活用して少しでも戦力の底上げをする。


 ちらと遙かな上空の岩塊サクラ・モチを見上げたが・・。


(まずは、相手を確かめてからかな)


 あれこれ考えを巡らせるのは、悪魔王の手下というモノを自分の眼で見てからで良い。


「コウタさん、選び終えました」


「ん・・」


 ユノンの声に顔を向けると、ユノンは腕輪とねじれた黒木の杖を、デイジーは純白のローブと錫杖を、アルシェは見るからに重そうな重甲冑に大ぶりな戦斧を、リリン達は鎖帷子に兜、短剣や長剣、弓、短刀・・というか、残った物を持てるだけ持っていた。


「先生、預かっておいてください」


 シフートが気安げに言って、リリンの鉄拳を頭頂に打ち込まれている。


「ひ、酷いよ、リリン!」


「国王陛下です」


 リリンが冷え冷えとした双眸で睨み、俺の方に向かって一礼をした。


「そうだ・・俺は、ノルダヘイル王国の国王様。おまえ達は近衛見習いなんだからな。今から練習しておけ」


 俺は笑いながら言って、空を見上げた。


 大鷲オオワシ族達が群れを成して飛来してきていた。どうやら族長が張り切って人数を集めてきたらしい。


(人選、大変そうだな)


 戦死上等なところがあって、危険だ危ないだ言って聴かせても、逆に大喜びでついてこようとする連中だ。


「ぁ・・コウタさん」


 ユノンがやや困ったような顔でこちらを見る。


「どうしたの?」


「お母様がこちらに来られるそうです」


「ふうん・・樹海で何かあったかな」


 タイミング的に、良い話じゃ無さそうだ。


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