第149話 ダイヤモンド・ダスト


(なるほど・・)


 幼女の姿では、分身ができるようだ。

 これも、タケシ・リュードウとしては誤算かも? 幼女の姿でいる間は、いわゆる発情状態という扱いらしい。


 2人、3人と数を増やしたり消したりしながら、文字通りに変幻自在にダイヤモンド少年を攻撃する。


 ダイヤモンド少年の方も、密着しようとすればとげ状の突起を無数に生やし、距離を取れば腕を鞭のように伸ばして襲ってくる。


 両手に纏わり付かせた金粉は、俺の意図するように属性を付与し、時には硬質化し、粘着物と化し、冷えもすれば熱しもする。


(便利だ・・これ)


 多分、というか、ほぼ確定的に元はルビーという名の粒子体少年だったモノ・・。うちの神様、かなり容赦ない改変をしちゃったらしい。


 幼女となった自分の動きの程度を確かめながら、新しく貰った装具"謎の金粉"の性能を試しつつ、それでも少しずつ、ダイヤモンド少年をし始めていた。


 確かに身体は硬いし、拳法というのだろうか、何かの武術っぽい動きで殴る蹴るを巧みに織り交ぜてくる。一撃一撃は、蛙巨人でも消し飛びそうなほどに強く重い。おまけに蝶のように舞い・・というアレを想わせるくらいに、身軽く移動し、残像も見えそうなくらいに速く鋭く動く。


(でもね・・)


 神界で手傷を負っているのだろう。少しずつだけど、動きに、ほんのわずかながら姿勢を乱す時がある。最初は、こちらを誘い込むために隙を見せているのかと勘ぐったけど・・。


「・・シッ!」


 ダイヤモンドの拳を脇へ巻き込むように払いながら、顎下へ腕を掛けて少年を仰け反らせながら投げ倒す。そのまま、ひじを眉間へ打ち込んで離れた。


 腕にも肘にも、当たる瞬間、当たる部位に"金粉"を集中させてダメージをとおす。これを延々と繰り返していた。


 ちなみに、空中戦です。


 ダイヤモンド少年は淡い光で身体を包んで飛行し、俺の方は空を蹴って走ってます。6歳くらいの幼女と透ける体の少年が空中で格闘戦をやっています。


 そういうわけで、投げ倒したと言っても地面に叩きつけたりでは無く、単に姿勢を乱しただけだという・・まあ、どちらかと言えば嫌がらせ的な攻撃として織り交ぜている。


 精神的なダメージは不明だけど、拳や肘に付与して打ち込んだ回数は数百回に及ぶ。あれほど硬かった体の表面にも無数の損傷部位が残っていた。


 一方の俺の方も、あざだらけである。まあ、ほぼ回復してあとが薄くなってきている。


(ただ、こいつも回復しているからなぁ・・)


 ダイヤモンドの表面が修復されつつあった。実にしぶとい奴だ。


(まあ、しぶとさなら負けませんよ)


 もうすぐ陽が暮れる。

 月が昇れば、俺の時間の始まりだ。



「おい、話はできるか?」



"・・できる"



「む?・・念話?」



"声帯が無い・・許せ"



「ふむぅ、まあ良いや。やり合って5時間くらい経ったかな・・いい加減飽きてきたので決着を付けようと思う」



"・・そうか"



「その前に幾つかきたい事がある」



"会話は好かん"



「おまえは、ダイヤモンドだな?」



"そうだ"



「ダイヤモンドは1人だけか?」



"そうだ"



「神の世界へ攻め入った?」



"行った"



「・・どこから、どうやって?」



"界の揺らぎから、亜空砲の砲弾として"



「・・ああ、そういう」



 ちょっと真似したくないやつです。人間(?)大砲というやつだ。真似をして神界へ行くのは止めておきましょう。



「タケシ・リュードウは魔界にも遊びに行っていた?」



"そうだ"



「亜空間・・亜空砲を創ったのは誰だ?」



"ガーネットだ"



「・・ふむ」



 やっぱり別の奴が居るらしい。



"サファイアとジルコンが基礎を創った"



「ふうむ・・優秀なんだな」



"一番優れた技術者はパールだ"



「ふうん・・すると、その技術者達は亜空間に工房みたいな場所を持っているんだな?」



"神々による攻撃で破壊された"



「ほう? 亜空間の向こうで?」



"襲って来た神を殺し、こちらへ侵攻を開始した"



 なんと、先制したのは神々の方だったらしい。



「なんで蛙の巨人? 虎とかの方が良かったんじゃ?」



 どうしてもいておきたかった質問だ。



"タケシ様がお決めになった"



「あ・・そう」



"タケシ様はヒキガエルを恐れておいでだった"



「そうなんだぁ」



 なんだか、がっかりな理由である。



"ダイヤモンドは活動を継続できない"



「・・終わりか?」



"おまえ、強い・・厄介"



「厄介って・・まあ、褒め言葉と受け取っておこう」



"側小姓はトパーズを残すのみ"



「結局、タケシ君は何をやるつもりだったんだ?親しいおまえ達なら知っているんだろ?」



"タケシ様は・・全宇宙の女性をお救いになると仰っておられた"



(・・真なる馬鹿でした)



"そのために、人界、そして魔界、冥界をべるべく国を興された"



 わらえないのは、タケシ・リュードウは実際に世界の半分を征服したという事実があるからだ。人界も、魔界も、冥界もタケシ・リュードウによって攻められ、力ずくで版図を縮めていったのだ。



"神界の支配も、あと少しのところだった"



(すげぇな・・)



"タケシ様はいきどおっておいでだった。怒っておいでだった。この世界を・・この世界に強制的に召喚した者達を・・"



「ふむ・・」



 まあ、そっちの感情は分からなくも無い。全世界の女性を云々より・・。



"なぜ同じ異界人がタケシ様の悲願達成の邪魔をする?"



「タケシ君より、奥さんユノンが好きだから」



"・・愛故に、か"



「そう・・そんな感じ」



"我らもまた、愛にじゅんじる身・・おまえの気持ちは理解しよう"



 一緒にするな・・と、異を唱えたいところだけど・・。時間が無さそうだ。



「俺との会話、誰かお仲間が聴いているか?」



"かも知れぬ・・生き残りがいれば情報の共有化がされる"



「なるほど・・なら、聴いているかもしれない誰かさんへ、俺の名前はコウタ・ユウキ。俺の大好きな妻、ユノンの姉をおまえ達は殺した。この世の何処に居ようと、亜空の果てに居ようと・・必ず見つけ出して始末してやる。この世界で、俺を敵に回した事を後悔するが良い!」



 叩きつけるように宣言するなり、瞬足で距離を詰めて拳を振り抜いた。わずかに遅れてダイヤモンドが拳を突き出そうとする。



 パキィィィィーーーーー



 ダイヤモンドの首から上が粉々に吹き飛んでいた。



「遅いっ!」



 返しの拳が、ダイヤモンドの胸板を打ち貫いて内部を握りつぶす。



"お・・まえ・・ちが・・別人・・"



「これが・・こっちが本当の俺だ」



 吐き捨てるように語気荒く言った俺は、久しぶりに男の姿に戻っていた。



 薄暮の空に丸い月が昇っている。



(やっぱり、力は段違いだなぁ)


 絹シャツの前はボタンが外れてはだけ、長かったスカートがミニスカートのように見えてしまっているのは愛嬌というものだ。タイツも少々キツい・・。


(お願い・・見ないで。こんなボクを・・見ないで)


 地上で観戦しているだろうちびっ子達の視線を痛いほどに感じつつ、俺はキッ・・と表情を険しく引き締め、胸中で盛大に涙を流していた。



"もう・・素体の維持ができない・・さらばだ"



「ああ、さよなら。強かったよ、おまえ・・」



"あり・・が・・"



 ダイヤモンドの体が粉々に砕け、輝く満月に照らされて、繊細な輝きをつらねながら氷片のようにはかなく散って行った。



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