第145話 質疑応答
(女の子?)
槍の穂先をいくつも生やしたような巨大ドームに、サクラ・モチから放たれた尖砲弾が命中した瞬間、爆散する構造物の破片に混じって人影が見えた気がした。
『弾着確認、急速潜行っ!』
カグヤの声が響く。
「映像の解析はできるか? 成否の程度を測りたい」
『はっ!』
カグヤの返事と共に、今の強襲の模様がリプレイ表示される。
「ゆっくりと・・」
『はっ!』
亜空間へ潜行直前に探査波で位置の特定、即座に潜行移動、2秒後に目標物の至近に浮上、尖砲弾を射出して急速潜行。絵に描いたようなヒット&アウェイである。
カメラによる測定値で、高さ80メートル、奥行きが150メートルほどもある巨大砲塔は、尖砲弾の一撃で地面ごと抉られて消し飛んでいた。
「あの衝撃の中で、この・・」
俺は、スロー映像に映る人影を指差した。
「原形を留めているように見えるな」
『はっ! 観測情報によりますと、何らかの力場を形成しているようです』
「なるほど・・当艦の安全を確保したまま、これの回収は可能か?」
『探知可能な範囲に攻性体は観測されておりません。可能であります』
「よし、では回収してくれ。艦内での破壊行動・・自爆といった可能性もあるけど」
『空間を隔てた隔離封印を用意いたします』
「うむ、良い判断だ」
『光栄であります!』
(・・っていうか、カグヤ、カッコ良い・・ちびっ子精霊じゃなければ惚れちゃうよ)
破壊地点の映像が拡大され、弱々しく動いているものが表示される。
(ロボ? サイボーグ?)
胴体が上下に千切れかけたスプラッタ映像かと思いきや、金属製っぽい骨やら緑色の液体が溢れ出ている。
(いや、部分的には生身なのか)
「・・何か言ってる?」
『音声拾います』
・・か・・かいざ・・・たけ・・・
「女の子?」
『採取された体細胞の分析結果では、男性に分類されます』
「そうなんだ」
・・・あ・・い・・
か細い音声が途切れた瞬間、
(ぉぅ・・)
いきなり、ドロリと熔け崩れて一瞬にして緑色の水溜りのようになった。爆発でもするかと思っていたのに・・。
『捕獲しました』
カグヤが報告する。同時に、副映像が現れて、透明な立方体に閉じ込められた液体が映された。未知の物質などを採取した際の収納箱らしい。便利なものだった。維持に相当のエネルギーを消費するそうだが・・。
「こいつ、まだ生きてる?」
『復元を試みているようですが、必要な資源が調達できない状態にあるようです』
「尋問は可能かな?」
『小官にて、
「よし・・」
俺は映像のドロドロを見つめた。
「タケシ・リュードウの死に様を
おもむろに話しかける。その内容をカグヤが向こうに伝えている・・筈だ。独り言でしたぁ~というオチは勘弁して欲しい。
『黙れっ、貴様ごときに、タケシ様の何が分かるというのか!・・と申しております』
「あぁ、うん・・なるほど」
いきなりカグヤに
「貴様こそ、あの軟弱者の何が分かると言うんだ? 好きな女に、まともに声もかけられない、手すら握れないヘタレだぞ?」
『うるさいっ! タケシ様はとても繊細な方なんだ! おまえなどに、タケシ様の苦悩が理解できるものか!・・と』
「繊細とヘタレは同義語じゃないぞ? タケシ君の奴隷ちゃん?」
『私は、タケシ様のお側付きっ! 側小姓の筆頭だっ! 望んでタケシ様にお仕え申し上げているっ! 奴隷などといっしょにするな、無礼者めがっ!・・と』
「小姓とか何時代? 時代劇でもやってんの? ねぇ、楽しい? タケシ君と将軍ゴッコでもしてんの?」
『お、おのれっ、私を・・エメラルドを
「はぁ? エメラルドってなぁに? 時代劇やめたの? 側小姓エメラルドとか、時代考証ぶち壊しじゃん?」
『う、うるさい! うるさい!・・と、連呼しております』
「やれやれ、エメラルドちゃんは語彙が不足しているようだねぇ・・まあ、タケシ君に相手にされずに飛び出した残念坊やだもんなぁ。仕方がないかぁ・・主人の評価を下げるような部下を持ったタケシ君が哀れだよ」
『きぃっ、貴様ぁぁぁーーー・・と、うるさいです』
「うん・・ええと・・エメラルドちゃんはご主人様を捜しに来たの? 蛙人形を連れて? 可哀想に、迷子なんだねぇ」
『ち、違う! これが・・これこそ、タケシ様に託されていた4本の矢が1本っ! 作戦名 "冷酷なるエメラルド" だ!・・と』
「それ、自分で言ってて恥ずかしく無い? ただ、蛙と蜂を連れて来て、神界めがけて大砲撃ってただけじゃん」
『こんなもの、これから起こる事の序章に過ぎない。私が斃れても、第2、第3の矢が放たれる。もう、世界はお終いさ・・と』
「もう、亜空間を抜けて来ることは許さないよ? 哀れな奴隷ちゃん? 蛙も蜂も、俺が綺麗サッパリ掃除してあげよう。もう、次の矢は世界に届かない」
『ふふふ・・愚かな低脳めが、同じ手を繰り返すはずが無いだろう! タケシ様に与えられた使命は、ルビーとオニキス、ダイヤモンドが必ず果たす!・・と』
「うん、優しくするのはここまで。ここからは、尋問たぁ~いむ!」
俺は、副司令席に座っているユノンを見た。
「まずは、効果のある毒物が無いか試してみよう。加減いらないよ」
「分かりました」
紫瞳に冷徹そのものの光を宿して、ユノンが小さく頷いた。
こいつの連れてきた巨蜂には、市川さん、相川さん、田村さんに加えて、ユノンの腹違いの姉ディジェーラ、サンアープの2人が殺されている。
(・・一切の容赦をしません)
ユノンが取り出した毒瓶をカグヤに手渡している様子を眺めながら、腕組みをして副映像を睨み付けた。
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