第142話 涙目ビクトリ〜


 自分の身に起こった事を俺は把握する必要があった。


 だってそうでしょ? 対価として、魔神酒という入手難度の高そうなアイテムを見つけて来ないといけないんですよ?

 美人さんが色っぽく身をくねらせて呪文を唱えただけでしたぁ~・・じゃ、許されませんからね?


 そういうわけで事情を説明の上、改めて部屋に戻り、ユノンさん、デイジーさんを相手に一戦・・いや、何戦だか覚えて無いけども、効果のほどを確かめたのです。



 手順は、次の流れ。



1、生殖行為を覚えたてのお猿さんのように盛りつく。



2、何度か理性が戻った瞬間に、噴き上がる獣欲ケダモノを抑え込む努力をする。



3、失敗してフリダシに戻る。



 とにかく、これを繰り返した。合間、合間で神酒や神聖術を織り交ぜ、懸命に頑張った。



 そして・・。



(あ・・そうか!)


 俺は気がついたのです。 無意識に気づかないふりをし、今まで封印し続けていた『少女フェロモン』という能力に・・。


 旅館の女主人が言ったではないか。少女フェロモンを・・それに込められた神力を利用するのだと。てっきり、獣心に対する耐性がついたんだと勝手に思い込んでいたけど、もしかして、技みたいに発動しないと駄目なのかも?


(少女フェロモン・・か)


 一抹の不安はあるけど、今はこれに賭けるしか無い。


 例によって、主に下腹部周辺から雄叫びを上げそうなブツが脈打っている。冷静でいられる時間はいくらも無い。俺が俺でいられる時間は少ないのだった。


 寝台ではユノンとデイジーが神聖術による回復に努めていた。どちらも、口には出さないけど、もう限界ギリギリに追い込まれていた。青ざめた美貌には悲壮感すら漂っている。


 本当に申し訳無い! 心の底から愛してます!


(・・や、やるぞ!)


 もう、色々と待った無しだ!


「しょ・・少女・・少女フェロモン!」


 半ばヤケになって叫んだ。 別に声に出す必要は無いんだろうけど・・。迫り上がる獣欲ケダモノの暴流に負けないために声を張り上げたのだ。


 途端、俺の身体が紅い・・いや心なしかピンク色っぽい光を放ち始めた。


(・・へ? ピンク?)


 あれ? いきなり、楽になっちゃいましたよ? あんなに暴れていた獣心ビーストが・・下腹部中央で熱していたマグマ的な熱量が何事も無かったかのように、スッキリと綺麗に消え去ったんですが?


「す、すごい・・やった!」


 俺は思わず声を上げて拳を突き上げた。


「は・・?」


 あれ? 腕の振り幅が・・というより可動域が狭い?


「・・あれ?」


 俺は握っていた自分の拳を見て首を傾げた。 ちっちゃな手ですねぇ? お人形さんですかぁ?


 何て言うか、見覚えが全く無い感じの・・。


「これ・・えぇっと」


 背筋をふるえがい上がって来る。


 ボクの手が・・。


 とっても細くて短く縮んでますよ?


「あ、あの・・ユノン?」


 俺はすがるような思いで奥さんを振り返った。


 初めて見るような、驚愕で凍り付いたユノンの美貌がそこにあった。隣で、デイジーまでも硬直している。


 どちらも全裸なのに、俺の中のケダモノがピクリとも反応しない。


「その、これ・・俺は」


 そうっと自分の身体を見回して、すぐに固まった。

 ボクの暴れん坊が・・凶悪な活火山が無くなってますよ?

 何て言うか・・更地さらち? いや、ちょっとスリットが・・。


「ひぇっ!?」


 手で触れて確かめようとして、俺はおかしな声をあげてしまった。


(な・・無い)


 いや、無くなっただけじゃない。妙なくぼみが・・。


「ユ、ユノン・・」


 恐怖に胸奥を鷲掴わしづかみにされ、思考が強張こわばってめぐらなくなってしまった。


「コウタさん・・ですよね?」


 そうっと小声でたずねながら、ユノンが近付いて来た。


「うん・・これ、どうなったの?」


「・・女の子になってます」


 ユノンが身を屈めて俺の顔を覗き込むようにして言った。


「女の子?」


 俺は寝台の上に立ち上がっている。


 ユノンは膝を着いて座っている。


 なのに・・。俺の眼の高さにはユノンのまだ小ぶりな胸乳があった。右の乳房には申し訳無いことに、誰かが噛みついた歯形がくっきりと残されている。


「・・ご免なさい」


 俺は寝台の上に土下座をして頭をさげた。


「コウタさん、女の子になったんですよ?」


「え?」


「ですから・・小さな女の子になっているんです」


 ユノンが俺の両肩に手を置いて、ゆっくりと何度も言って聞かせる。


「女の子・・俺が?」


 いや、分かってる。そうなんだって・・見ちゃったし、触ってるし・・。


(くっ・・認めたく無いけど)


 俺、女の子になっちゃってますよ!? 多分、5、6歳くらいの・・。少女というより、幼女です。


(いや・・これ、どうなっちゃうの? 俺・・えらく、小っちゃいんだけど?)


 もう、どうしたら良いか分からない。

 うろうろと視線が泳ぐ。得体の知れないおびえで、小さくなった身体が震えていた。


「大丈夫ですよ、コウタさん」


 ユノンが優しく微笑みながら俺を抱きしめてくれた。


「ユノン、俺・・」


「大丈夫です。まず、落ち着いて、お話ししましょう?」


「・・うん」


 素直に頷いて、ユノンに手を引かれるようにして、化粧鏡の置かれた椅子の方へと歩いた。


「・・俺?」


 鏡に映った小さなをまじまじと観察する。自分の姿だと理解しているためか、妙な背徳感は無いけども・・。


(本当に、女の子だね・・)


 小学校に入ったくらい?

 まあ、自分で言うのもなんだけど、かなりの美形ちゃんである。おでこに角がある。まあ、顔立ちは元々、女の子寄りだったし・・。そこまで違和感は感じないかな。


「これが、あの方の・・ホウマヌスさんの魔法なのですか?」


 デイジーが白いシーツを俺の身体に羽織らせながら、隣に立って鏡を覗き込む。


「意図した結果かどうかは分からないけど・・俺の能力フェロモンを改変したんだな」


 あの女主人さん、どうなるか分からないような事を言ってたし・・。


「女の子になって・・それで、2人を襲う気持ちが消え去ったのか」


 なるほど、確かに、それはそうでしょうとも。推定6歳ちょっとのちびっ子が、男のような獣心ケダモノたぎらせたりしないよねぇ・・。


(と言うか、タケシ・リュードウの想定外なんだな、これ・・)


 あいつは、男向けに作ったんだ。女の子には効果が無いのは当たり前じゃないか。


「そういう事かぁ・・なるほどなぁ」


 深々と溜息をつきながら、俺はユノンとデイジーに抱えられるようにして化粧台の前に置かれた椅子に座った。


「う~ん・・」


 まんま、お人形さんだねぇ・・。


 鏡を見ながら、ア・イ・ウ・エ・オ・・と発音してみる。右手を挙げて、左手を挙げて、開いて握って・・。


「・・怒りません?」


 不意に、ユノンが声を掛けてきた。ずいぶんとくつろいだ表情をしている。


「怒りません」


 なんとなく、何を言われるのか分かる。


「とっても可愛いです」


 ですよねぇ・・。俺も、そう思うもん。


「ちょっと危ないくらいです。男の人に見つからないようにしないといけません」


 デイジーの眼が本気だ。子を守る母の顔になっている。


(これ・・このままなの?)


 魔法って、いつか切れるよね? ね?


 化粧鏡に映った可愛いお人形さんの顔がっていた。






〜〜〜

新年、明けましておめでとうございます。


本年もよろしくお願いします。


by. ひるのあかり



この話で新年スタートとは・・・。

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