第141話 輝く未来?


「これは・・新たな制約・・くさびが刻まれています。効果は・・分体・・完全なる分身体の創造」


 仮面の美女が怖れを含んだ声を漏らした。


「分身?」


 なにそれ、滅茶苦茶ときめくんだけど? 男子がやってみたい忍術ナンバーワンだよね?


「発情に紐付いているようです」


「・・ふうん」


 気分だだ下がりですぅ~。発情した俺が増えるとか、ただの災害じゃないですかぁ・・。


「分身の数だけ、必要な到達回数が増えるという仕掛けですね」


 俺の額に指を触れたまま、女主人が視えている事を呟いている。


 どうやら、またタケシ・リュードウによる新しい呪いが発動したらしい。まあ、あれこれ解説されるまでも無い。人数を増やして、囲い込んだ大勢の女達に襲いかかるために創造しただろう鬼畜技だった。


「消しちゃって下さい。お願いします」


「・・不可能です」


「マジかぁ・・」


 短いやり取りで、俺は絶望の谷底へ転がり落ちてしまった。


 後ろの方で、


「お方様、お側仕えの確保は急務かと」


「そ、そうですね」


 デイジーとユノンが怯えた声でささやき合っている。


 泣きそうです。もう、許して下さい。


「もう・・死ぬしか」


 このままでは、とんでもない魔王化してしまう。分身しまくって世界中の女の子に襲いかかる恐怖の大魔王だ。その上、透明化したら、もう・・誰にも止められないんじゃ。


「・・ですから、その・・発情そのものをご自身で制御できるようにしましょう」


 女主人がはげますように言った。


「できるんですか?」


「想像よりも力が強大で、魂に深く根ざしてしまっていますけども・・」


「おぅのぅ・・」


「それでも・・完全とはいかないまでも、ある程度なら・・恐らく制御下におけるはずです」


 なんだか歯切れが悪い。言っている事も、段々と弱くなっているような・・。


「そのぅ、結局のところ・・どうなるんでしょう?」


 訊いちゃいけない気がしたけど、訊かないわけにはいかない。大切な質問だ。


「正直に申しますと手に負えない状態です。申し訳ありません」


 謝罪されちゃいました~。もうお終いですね~。さよならですね~。ありがとうございましたぁ~。


「ですが・・」


 むむ!?


「ユウキ様の中にある特殊な能力をお借りする事で、何らかの強力な抗体を得られる可能性があります」


「いや、それって完全に運任せですよね? 何も視えていませんよね?」


「・・他に手立てが見つかりません」


 女主人が力無く首を振った。


 死刑宣告かっ!?


「俺の何の能力? 捨てられるような力は持って無いけど?」


 どの能力も重宝していて、魔法が使えない身には有り難いものばかりなんですけど?


「少女フェロモンという能力になります」


「ぁ・・・是非、使って下さい。お願いしますっ!」


 完全なる死蔵スキルですから・・。


「宜しいのですか? これ自体、膨大な神力によって創造されているようですよ?」


「良ぃ~んです! やっちゃって下さい!」


 俺は男らしく、きっぱりと言い放った。


 ついに、意味不明の気持ち悪い能力とグッバイだ!


「畏まりました。ですが、どのような事になりましても責任は・・」


「大丈夫です。すべての責任は俺にあります。良いね? 何が起こっても、この人を恨んだりしたら駄目だよ?」


 ユノンとデイジーに念を押しておく。


「では・・不完全な処置になってしまい心苦しのですが・・」


 小声で呟きながら、仮面の美女が呪文らしいものを唱え始めた。耳をそばだてて聴いたけど、意味不明の鳥のさえずりみたいな言葉だった。


「ぅ・・くっ」


 仮面の下で、紅い唇から苦鳴のような声が漏れ、食いしばっている口元が見える。


 どうやら、大変な事が行われているらしい。


(これ・・治るんかねぇ?)


 はなはだ疑問であります。俺の・・主に夜の方の将来はどうなっちゃうんでしょうか? 素敵な奥さんが出来たのに、まさかの別室ですか? 1人で寝ないと駄目ですか?


 どうしてこんなことに・・。


(いやっ、あいつじゃん!)


 龍帝が適当な事を言って、俺に妙な薬を呑ませたからじゃん! 何もかも、あいつの仕業じゃん!


(・・リュードウは死んじゃってるし、もう・・あいつを殴りに行こうかな)


 ふつふつと湧いてくる怒りをたぎらせていると、


「ぁ・・ぅあ・・」


 すぐ目の前で、妖艶な美人さんが苦しげな声を漏らして身をよじらせ始めた。その胸元でデイジーより大きな山脈がゆっくりと向きを変えて、衣服を内から破りそうなほどに膨れて揺れる。


 怒りより別のものがたぎりそうになって、俺は大急ぎで視線をらした。今、ここで発情トリガーを引こうものなら、とんでもない惨状・・完全にダークサイドな未来しか待っていない。


(頑張れ、俺っ! まっ・・負けるなっ!)


 膝の上で両拳を握り締め、右斜め下に視線を固定して、懸命に膨れ上がる衝動を抑え込む。


「ぁ・・あぁ・・ぅぅ」


 忘我の中で悩ましげに声を漏らし続ける女主人を前に、俺は死にものぐるいで荒れ狂う本能と争い続けていた。


(そうだ、あいつ・・あいつを思い出せっ!)


 某忘れたい精霊ナンバーワンの姿を脳裏に思い浮かべる。


(・・ふっ)


 効果は絶大なんだぜ!


 俺の中に芽生えそうだった獣心が一瞬にして滅却されて消え去っていた。


 凄まじい威力だ。ナイスだ、オッサン精霊。


(あれっ? もしかして、これやれば発情も消えるんじゃ?)


 もしかして、俺って特効薬を思い付いたかもしれない?


 その時、


「アイサリナオードッ!」


 目の前の仮面の美女が豊麗な肢体を躍らせるようにして声を振り絞った。

 同時に、眩い白光が俺の身体を包み込んで爆ぜるように拡がって行った。


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