第139話 後始末


 俺は・・いや、俺達は生還アライブした。


 タケシ・リュードウの仕掛けた呪いに打ち勝ったのだ。ユノンとデイジーには、もう、ひたすら謝罪しか無い。


 新婚早々に、それも初夜がとんでもない惨劇となり、いきなりめかけまで作ってしまった。

 そう、あの惨劇の折、散々にむさぼって獣欲のけ口にしてしまったデイジー・ロミアムを公妾として発表したのだ。本人は、巫女が使徒様に身を捧げるのは当然だとか言っているけど、なんというか、それはもう・・女の子の尊厳を損なうほどの暴れ方をしてしまったので、俺の中では色々とアウトです。取れる責任は、全部取らないと駄目なんです。


 考えた末に、貴族をならって公のめかけとするしかないと思い極め、正式にデイジーに申し込んだのだった。もちろん、ユノンと話し合った上の事ですよ? もう、俺は一生、ユノンには頭が上がりません。


「1000回を単純にお分けして頂きましても、500回・・3日でとなりますと、166・・167回。時間あたりに換算しますと、6・・7回でしょうか」


(うぅ・・やめてよぉ、そんな赤裸々セキララな・・)


「お方様・・・お叱りを承知で申し上げますが、万が一の時のためにも、少し側仕そばづかえの者をお増やしになるべきかと」


「・・そう・・ですね」


 ユノンが顔をうつむけて考え込んだ。


「御心を傷めるような事とは存じます。ただ、デイジーが所用で留守にしている場合など、御身がお一人で受け止める事になりますでしょう?」


「はい・・」


「無論、今すぐにという訳ではありません。ですが、仮に10名でお情けを頂戴するとなりますと時間あたり2回未満、それを3日間ですから生存確率は高まります」


 狂巫女デイジー様が恐ろしい事を言っている。


「そんな事はやらないから、俺は・・」


「コウタ様・・」


「とにかく、今は思いつけないけど、何か別の方法を探してみる」


「コウタさん、私の事でしたら・・」


「いいや、ユノン・・それから、デイジー。俺は・・そんな事をするくらいなら死を選びます」


 断固拒否だ。だいたい、夫婦のって命がけでやるような事じゃ無いでしょ? 少しの間、一緒に寝る事は我慢して、その間に解決策を見つければ・・。


「神聖術は効果が望めません。付加されたというより、生来の能力であるかのように自然に備わっております」


「・・精霊皇帝エレメンタル・カイザーとか言ってるの、伊達じゃ無いんだな」


「文献によりますと、リュードウ・・厄災魔王は、幾千もの加護者を固有の秘術にて隷属させ、世界征服を目指して国をおこし、わずか7年で世界の半分を手に入れたと記されています」


「最期は、神様と龍帝に斃された?」


 あいつは、それっぽい事を言っていたけど。


「・・正確な記録は御座いません。一説には、神々が召喚した勇者と相討ちになったとか」


「ふうん・・」


 まあ、神様や龍帝が出張って来るような事態だったんなら、巻き添えで人間とか消し飛んでいただろう。正確な記録なんかあるはずが無い。


「もう500年くらい前の事です。今の世に記憶している者など、ほとんど居ないでしょう」


 ランドール教会が収拾した史書や遺物に、わずかながらリュードウ皇帝についての記述があったらしい。まだ国をおこす前のもので、迷宮探索の際に帳簿に小隊名と、仲間達の名前が書かれているだけだったそうだ。


「500年も?」


 それにしては、仕草や喋りっぷりに、世代差を感じなかったけどな? 500年前って、日本で言ったら何時代だろう?


森の民エルフが記した見聞録が、記録としては最も詳しい物でしょう。一度だけ眼にする機会がありましたが・・世界中の美姫を集めて塔を建てたとか、女だけが住む街を作ったとか、皇帝になってからは女性にしか謁見を許さなかったらしく、刺客を防ぐために一糸も纏わぬ裸でしか謁見の間に入れなかったなど、少し変わった皇帝だったようですね」


「・・はは」


「ただ、女性が好きかと言えば、どうだったのでしょう? 子孫については噂すら無く・・こう、大勢の女を集めて囲い込むだけで、手を触れる事は無かったという説もあるようです」


「ふうん・・」


「まあ、実際にはそのような事は無かったのでしょうけど・・ただ、大勢の女性を集めて回った事だけは真実のようです。今は名前だけになりましたが、女村や女人塔など地名や遺跡となって遺されています」


「ある意味、凄いね」


「チュレックのスピナ様や、神樹様であれば、もっと詳しい情報をお持ちかも知れません」


「確かに・・」


 どちらも、長生きしているようだし、タケシ・リュードウと面識があってもおかしくない。話を聞いてみるべきだろう。


(・・タケシ・リュードウか。本当の意味で、こじれちゃったんだなぁ)


 馬鹿だけど、面白い奴かも・・なんて思っていたけど。


「少し、留守にするよ」


 俺は、ユノンを見ながら言った。


「・・どちらかに?」


 ユノンが不安げにいてくる。


「龍の親分に会ってくる」


「・・龍帝に? それは・・お一人で?」


「あいつが、人見知りかも知れないからね」


「コウタ様は大丈夫なのですか?」


 デイジーの表情も硬い。


「まあ・・大丈夫かなぁ」


 ちゃんと会った事は無いけどね。タケシ・リュードウについてくなら、まずは龍帝だろう。


「2人を連れて行っても大丈夫かもしれないけど・・ちょっと分からないから、神樹の辺りに居て欲しい」


「・・分かりました」


かしこまりました」


 ユノンとデイジーがそれ以上は何もかずに頷いた。


 龍帝の居場所を知っている訳じゃ無いけど、なんとなく棲息領域をうろついていれば逢えそうだ。


(まずは樹海の岩山かな)


 あそこを登って見つからなければ・・。


(龍種を探して仕留めちゃうか?)


 形はどうであれ、龍を狩れば龍帝と会う事はできるだろう。ただ、感情的になって落ち着いた話ができない可能性もある。


(やっぱり、探した方が良いかな)


 龍帝とは、まあまあ顔馴染みだし、なんというか憎めない奴だし・・。どちらかと言えば、俺の方が迷惑をかけている感じだし。


「ちょっと探してみて、居場所が掴めなかったら戻ってくるよ」


 そう言いつつ、俺は部屋の中を見回した。


 主に俺によって汚された部屋も、洗精霊によって何事も無かったかのように清潔になっている。もちろん、自分自身も洗って貰って綺麗になった。


「とりあえず、清算して出ようか」


「はい」


「そうですね」


 色々と大狂乱をやらかした後だ。出禁確定な気もするが・・。


 2人と連れ立って廊下に出ると、背中に蝙蝠コウモリ翼がある女中さんが立っていた。


御出立ごしゅったつですか?」


 無表情にいてくる。


「うん・・清算を頼む」


「畏まりました。お部屋にてお待ち下さいませ」


「あ、ああ・・部屋払いなのか。分かった、部屋で待とう」


 出鼻をくじかれた形で、スゴスゴと部屋に戻る。


(これ、説教タイムなんじゃ?)


 あの女主人が怒りも露わにやって来る絵しか浮かびません。


「まあ、誠心誠意、謝罪するしかありませんね」


 デイジーが呟いた。どうやら、同じ未来を想像しているらしい。


(・・来たぁ!)


 俺の耳が、深々とした絨毯を踏んで近づく足音を拾った。廊下を歩いて来るのは、3人だ。1人は先程の部屋付き女中。1人は旅館の女主人。もう1人は覚えが無い。護衛か何かだろうか?


 ユノンと2人でソファに座ったまま、お客様さんの到着を待つ。デイジーは俺の後ろに控えて立っていた。さりげない位置どりだけど、神聖術で俺を支援する事を想定した立ち位置だ。


 謝罪はする。要求されれば賠償金も支払う。ただし、身に危難が及ぶ事態となれば遠慮なく戦う。


(そうは、ならないと思うし・・多分、まだ敵わないかもな)


 部屋付きの女中ですら、かなりの強者だ。女主人にいたっては、ちょっと底が知れない。


(・・そう言えば?)


 ふと、脳裡に小さな疑念が浮かび上がった。


 ここの女主人って、何歳なんだろう? 魔族とかなら、タケシ・リュードウが生きていた時代の事も知っているんじゃないかな?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る