第138話 ケダモノ
(やっちゃった)
恐ろしいほどの没入感に呑まれるように、細く柔らかい肉に
ぼんやりとしか覚えていないけど・・。途中から
(と・・とにかく、神酒が間に合って良かった)
初夜で花嫁が死にかかるとか
ユノンは総てを受け入れてくれた。猛り狂った俺を
嗚咽のような声を噛み殺そうとするユノンに、何とか声を出させようと挑みかかり、身を震わせて跳ねる肢体を強引に押さえつけて襲いかかる。征服欲が
もう朝なのか昼なのか、全く分からない。
(・・翌日だよね?)
お泊まり1日目のはずだけど、それすら自信が持てない。いったい何時間が経ったの?
隣で眠っているユノンの顔色を確かめる。
(血の気が差してきた。何とか大丈夫そう)
白磁のような頰に触れ温もりを感じながら、俺はホッと安堵した。
しかし・・。
こうして隣に居るだけで、俺の獣が
(絶対おかしい・・俺じゃない。これ、あれだ・・不倒不折がどうとか、24時間戦えるとか言ってたやつ)
透明化と一緒に、俺の身体に吸収された怪しげな能力だ。
いや、本当にこんなの俺じゃないから・・。
(マズい・・)
本気で危険な気分になってくる。冗談じゃ無く、真実24時間臨戦状態が続くんじゃないだろうか?
(もう、どうすれば・・)
このままだと、本当にユノンを死なせてしまうかもしれない。意識がしっかりある内なら何とか我慢できる。でも、自分の理性に自信が持てない。沸き起こる欲情に押し潰される。
「ぐっ・・ぅぅ」
両腕で自分を抱くようにして身を縮める。とにかく耐えるしかない。じゃないとユノンを死なせてしまう。
(これもう呪いだろ・・)
タケシ・リュードウの
(呪いとか、状態異常は効かない身体だったはずなのに・・)
デイジーの神術なら解呪できるかも?
(あいつ、何気に凄い術者になってるし)
とにかく、このままユノンの近くに居ると危険だ。理性を総動員して腰にタオルを巻きつつ寝台から降りようと頑張る。いや、冗談じゃ無く、少しでも気を緩めると身体が勝手にユノンの方へと迫って行くのだ。
頑張っている最中、
「ぁ・・」
小さな声を漏らし、ユノンが目覚めた。ぼんやりと
しかし、
「ぅっ・・」
短く、苦鳴を漏らして身体を震わせた。
「ユノン・・そのままで聞いてください」
「す、すいません・・旦那様より遅く目を覚ましたりして・・」
身体の痛みをこらえながら、ユノンが眩しそうに・・伏せ目がちに俺の方を見る。美しいお人形のような顔が血の気を失って
おかげで俺の中の
「お、俺の方こそ、ゴメン・・
「・・コウタさん?」
「たぶん、呪い・・こうしていたら、また・・ずうっとユノンを襲う・・これ、おかしい、いくらなんでも変だから・・」
寝具をきつく握り、自身を抑えつけるように身を屈めて座りながら、龍帝から貰った薬を飲んだ事、それがタケシ・リュードウの遺した怪しげな効能を持っていた事など、絞り出すような声音で話して聴かせた。
「は、初めてだったのに、こんな事しちゃって・・御免なさい。だけ・・だけど、これ以上は・・ダメ・・死なせちゃう」
「コウタさん、私は・・」
「ユノンが死んだら、俺も死ぬ」
「・・どうすれば良いですか?」
「デイジーなら・・呪い、解ける・・かも」
体を震わせながら言う俺をじっと見つめ、ユノンが何かを思い決めたように小さく頷いた。
「分かりました。デイジーさんなら・・連れて参ります」
「ふ、服・・着て・・見るだけで襲いそう」
何とか軽口を混ぜようとする俺を、
「・・襲ってくださっても良いんですよ?」
珍しく、ユノンが悪戯っぽく流し見て、懐かしい黒外套を頭から被るなり転移して消えて行った。
ふうぅぅぅぅ・・・
太々と溜息が漏れ出た。もう、ギリギリだった。いつ飛びかかってもおかしくない状態だったんだ。
(キツイんだぜ)
未だ活火山がマグマを
(こんなの・・)
チラッとタオルをめくって見てみる。そこに、頭頂に黄金色の聖紋を輝かせたものが
(・・えっ?)
なんか、煙が立ち昇るように吹き出してきた。
思わず仰け反った俺の眼前に、いつぞやの大馬鹿者が妙なポーズをとりながら出現していた。
『やあ、やってるかい? とても素晴らしい力だろう? 女の子は大喜びだったろう?』
「・・・女の子に死を覚悟させちゃったんだけど?」
『ふふふふ・・ボクの考えた最高の秘術なんだからね。もう、君は無敵状態さ!』
「いや、無敵がどうとか・・おまえ、何と戦ってんの? こんな馬鹿げた状態にならなくたって普通に・・好きな子と一つになれるだけで幸せなのに」
『ボクの計算では1000人切りだって余裕でいけるはずさ!』
「ん?・・・ちょ、ちょっと待てよ? おまえ、自分で試して無いのか?」
『残念ながら、ボクには勇気が足りなかった。だって、ボクはまだ女の子と付き合った事が無いからね。好きな女の子は居るんだけど、ほら・・なんて言うか声を掛けるのをためらう感じ? だって、凄くガードが固くってねぇ・・ご飯に誘っても断られちゃうし』
「・・・コイツ、殴りたい」
俺の口から呟きが漏れた。
『だが、心配はいらないよ? あらゆる状況を想定して設計された秘薬なのだからね』
「未使用で何言ってんの」
『まず、当たるのは最初の1発だけだ! 残りは全て空砲になるぞ!』
「・・・は?」
『それから、24時間365日と言うのは、さすがに無理だと思うぞ?』
「当たり前だ」
『始めがあれば、終わりがある。どんなに好きな相手でも、24時間はやっちゃダメさ!』
「・・殺したい、この手で」
『もう後は分かったね? そうっ! 1000発を1ターンとして設計したのだよ!それまでは尽きることも鎮まることも絶対に無い!女の身体を見るだけで爆発しそうなほどに、君の身体中が熱く
「ぁ・・」
気配に気づいて振り向くと、そこにはユノンとデイジーが立っていた。
『さあ、おまえが発情して何日過ぎた? おまえの女はまだ息をしているか? クククク・・
「事情は理解致しました。この不届きな愚か者めに、我が主人を侮辱されるなど許し難い事です」
そう言うデイジー・ロミアムの眼が
「デイジー?」
「ユノン様のお後となれば遠慮は致しませぬ! どうか、我が身をいかようにも・・・使徒様のお情けを頂きたく、伏してお願い申し上げます」
胸元に手を当てて深々とお辞儀をした。
普段なら、塩対応で軽く
「ち、違う・・そんな事・・・呪い、解いて・・」
今にも飛びかかりそうな自分を抑え込み、何とか声を絞り出す。
「お任せ下さい。コウタ様」
デイジー・ロミアムが艶やかな微笑を浮かべながら近づいて来た。
「だ、駄目・・俺、もう・・」
「コウタさん」
いきなり、後ろからユノンが抱きついてきた。恐ろしいことに、匂やかな肢体には一糸も纏っていない。
「・・ぐっ、ユ、ユノン!」
俺の中で獣が猛り、解き放たれる寸前まで追い込まれた。必死に抵抗を試みる俺の身体に、筋肉の筋が浮き上がり、ブルブルと震えていた。
「お方様と共に・・デイジーがコウタ様の呪いを解いて差し上げます。どうか、ご無理をなさらず・・」
「デイジーは、コウタ様にお仕えする巫女・・お好きになさって下さいませ」
聖衣が床に滑り落ち、若い女の匂いと共に豊麗な肉体が
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