第136話 防衛会議、そして・・。


 神樹と呼ばれる巨樹の前に、アズマを中心とした異世界人、巨猿を引き連れた獣人の各族長達、森の長を筆頭に森の民エルフ洞窟人ドワーフの王、闇谷ダークエルフの長達、鬼人の部族長達が横一列に並んで座し、向かい合う位置に、俺を筆頭にしてユノン、デイジー、大鷲オオワシ族の族長とゲンザン、花妖のアルシェ・ラーン、生徒で家来のリリン達、さらにはバロード・モンヒュール提督、ミッターレ宰相、ディージェが座っている。


 座長の位置には、神樹様・・ルティーナ・サキールと国母様・・フレイテル・スピナが座っていた。護る衛士達には、レーデウスにシンギウス、ロートリングやウルフール、レイラン・トールの顔もある。


 軍事的な同盟が結ばれていた。まあ、今さらだけど・・。


 どさくさ・・という訳では無いけど、俺の領地が正式に国として神樹様と国母様の宣言によって公認された。


 国名は、ノルダヘイルである。国旗は、黒地に白銀色をした一本角の兎頭。


 港町一つ、浮遊城一つの、小さな小さな国である。

 ただ、侵攻力、防衛力、どちらにおいても無視できないくらいに強いですよ?


 軍事同盟の締結は、代表が到着する前に合意交渉が終わっていたので、あっさりと終わり、今は対巨蛙、巨蜂の防衛線の位置決めが行われていた。


 チュレック王国のある南洋諸島群から神樹の森にかけての海洋域、沿岸部から内陸側の神樹の森を含む一帯を区分けして、危険度に応じた防衛域の線引きを行っていた。


 敵が敵だけに、戦力を均等に分散するわけにはいかない。危険度に応じて戦力を随時集中投入して駆逐を繰り返す戦いになる。


「防衛線の巡視隊、拠点の守備隊・・各拠点間の連絡網を整備・・」


 狐顔の獣人とディージェ・センタイルが並んで、図面上に駒を配置している。


「我々が護る魔界門も騒がしい。チュレックの方はどうなんだ?」


 ルティーナ・サキールの問いかけに、


「こっちも煩いねぇ・・使い魔の幻視で、門の向こう側に魔将が来ているのが見えたよ」


 フレイテル・スピナがぼやく。


「・・魔将か。いずれ界は破られるな」


「まあ、そうなるねぇ・・ボク達が護っている門はともかく、他所の魔界門はどうなってんだろ? とっくに破られちゃってるのかなぁ?」


「かもしれん。そもそも、この度の・・巨蛙・・蜂にしても、対処が出来ているとは思えない。ガザンルードも、センテイルも、大量に加護持ちを喪失している」


「ランドール教会も・・虎の子の神殿騎士団をサクッと消されちゃったもんねぇ」


 フレイテル・スピナがちらと俺の方を見た。話は聞こえているが、もちろん無視である。その辺の事は、俺の中では終わったことなんだ。あれは、何というか・・事故なのだから。


「ぎりぎりで戦力は残しているだろうが・・巨蛙か、魔界か・・どちらか一方を防ぎ止める以上の力は残していないだろう」


「ボクも、そう思うな・・ボク達と一緒に戦った人達も代替わりして・・子孫は残念な感じだもん」


「ある程度、ここが持ちこたえると、難民が流入してくる可能性がある」


「魔界門があるし、簡単には受け入れられないね。こっちも、いつあふれ出てくるか分からないもん」


「巨蛙を送り込んだ者の目的が分からない」


「世界征服とかじゃないの?」


「何を征服する? 人も獣も絶滅した世界で・・土地だけを所有して喜ぶのか?」


「そうだねぇ・・こっちの生き物を滅ぼしておいて、どこかから移住して来るとか?」


 フレイテル・スピナが大胆な事を言うが、


「あってもおかしくないが・・もし、そうした事をやる気なら、少し時間を掛け過ぎているな。我々のように対抗手段を見つけた抵抗勢力が協力し合う時間を与えてしまっている」


 苦渋の表情で呟いたルティーナ・サキールが名を呼ばれて顔を向ける。


「おおよその区分け、部隊編成案の策定を行いました」


 森の長エーフィス・ルーノが報告に来ていた。


「ご苦労でした」


 差し出された紙面に目を通して、隣のフレイテル・スピナに手渡す。


「・・攻め手は薄くなりますか」


「はい。どうしても護り手が厚めになります。巨蜂、巨蛙に個の力が及ばぬ者が多いため・・」


「仕方が無いことですが・・」


「チュレックは、ほとんどが守兵になっちゃうねぇ」


 フレイテル・スピナが嘆息した。


 樹海の民の方が個々の身体能力が高い。集中投入される攻め手としての部隊は、ほぼ樹海の民で構成されていた。もちろん、アズマ達の名前もある。


「・・あれ? コウちゃん達は?」


「調査部隊・・というものを作られるそうです」


 森の長が困り顔で言った。


「調査?・・コウちゃ~ん!」


 フレイテル・スピナが手を振りながら大声で呼びかけてくる。


 総ての会話を俺の耳が拾っている事くらい知っているだろうに・・。


「なにか?」


 俺はお茶を手に近付いて行った。


「調査って・・何を? 何処に行くのさ?」


「特に決めて無いけど、蛙巨人と巨蜂の生態を調べてみたいな」


「生態・・なるほど」


「作られた生き物っぽいけど、素になったのはヒキガエルやスズメバチだし、あいつ等がどういう役回りで送り込まれてきたのか・・何か手がかりを掴みたい」


「確かに・・」


 ルティーナ・サキールが頷いた。


「今は蛙と蜂しか見かけないけど、もしかしたら他のも居るかもしれない。そういうのを見て回る・・感じ」


 いや、決して思い付きで適当なことを言ってるわけじゃ無いですよ?

 それに、守り一辺倒だと追い詰められた感じがして嫌じゃない?


「ちゃんと狩るから心配しなくて良いって」


 うらめしげな森の長を見ながら俺は苦笑した。


「・・そうして頂けると助かるのですが・・」


「なに?」


「お仲間の・・同じ異世界から来られた方達の中にも、戦いをうとまれる方がおられましてな」


 アズマ達の中から、戦いに出向くことを拒否する者が現れたのだと言う。


「へぇ、誰?」


 あのハーレムキングめ、また失敗したらしい。きっと、痴情のもつれが原因だ。そうに違いない。


 そう確信したのだが・・。


「いや・・無理も無い話でして。市川イチカワ殿、相川アイカワ殿、田村タムラ殿が亡くなられ・・」


 森の長がとんでもない爆弾情報を投下した。


「な・・にぃっ!?」


 俺の奥歯がギリッ・・と小さく破砕音を鳴らした。


 怒気に充血した双眸を巡らせて、ハーレムキングの姿を探す。


(野郎っ・・)


 アズマの姿を見つけるなり、地を蹴って跳んだ。


「・・むっ!?」


 さすがと言うべきか、俺の奇襲にアズマが反応した。

 驚いたのは、瞬時に片手楯を出現させつつ、防御の魔法を展開したことだ。まさに一瞬の間の事だ。


 ダギィィィィーーーーーン・・・


 派手な衝撃音と共に、片手楯を握ったアズマが弾け飛んで転がっていった。


「えっ!? 結城ユウキ君っ?」


 上条かみじょうさんがぎょっと眼を見開き、すぐに回復の呪文を唱えながら倒れ伏したアズマの近くへ駆け寄って行く。


「・・どうして?」


 戸惑いながらも、本郷ホンゴウさん、大石オオイシさん、槙野マキノさんが正面に立ち塞がる。今となっては懐かしい面々だったが・・。


「3人・・死んだと聴いた。本当?」


 俺はアズマを睨みつけたまま感情を押し殺した声でいた。


 アズマは楯を握った腕が圧壊したらしく、治療に手間取っている。むしろ、俺の蹴脚を浴びて、あの程度で済んでいるのが凄い。


「・・本当よ」


 答えたのは、少し離れた場所に立っていた黒川クロカワさんだった。


「誰に・・いや、何にやられたんだ?」


「・・そこに居なかった結城ユウキ君には関係無い」


 黒川クロカワさんの声が厳しい。


「居たら死なせてない。居なかったからいてるんだ」


結城ユウキ・・」


 アズマが立ち上がって近付いて来た。


アズマっ! お前が居て、どうして女の子を死なせたっ!」


「・・すまん」


「違うの! アズマ君は居なかったの!」


 上条カミジョウさんが叫ぶようにして言いながらアズマかばう位置に立つ。


 美人に守られるとか、実に腹立たしい・・。


「・・説明しろ」


 俺は、アズマの眼だけを見ながら言った。


 だって、女性陣の視線が痛いんだもの・・。


 とても周囲へ眼を向けられない。


 俺、完全に悪者ヒールですよ・・。


 ちょっと熱くなって蹴りを入れただけなのに・・。


(あぁ・・なんか、やっちゃったぁ)


 微妙な後悔が胸の中に湧き起こってきた。


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