第134話 危難の足音


「・・カエルの巨人?」


 そうとしか言いようが無い、灰褐色のヒキガエルを二足歩行で立たせたような化け物だった。ずんぐりと下膨れの体には、前脚にあたるものが左右に2本ずつ、地面を踏みしめている後脚を合わせれば6本の脚がある。鋭い鉤爪の生えた指の隙間には水掻きらしき膜があった。


(背・・って言うのかな? 18メートルもあるのか)


 獣、虫、鳥、魚、そして人間を片っ端から食べているらしい。カグヤの収集した情報によると、背中のイボから強力な麻痺毒が含まれた体液を垂れ流していて、周囲に揮発した麻痺毒が漂っているようで、うっかり近づいて動きを鈍らせた動物が居れば、舌を10メートル近くも伸ばして捕食する。


(眼が4つ・・)


 やや前側にある大きな目玉と、少し後ろに小さな目玉。どちらも、濁った鉛色をしていた。


 ここは、サクラ・モチの司令室だ。投影された映像を注意深く観察しながら、カエル巨人の脅威を測っている。


 司令室内には、ユノン、デイジーの他に、3人の生徒達、フレイテル・スピナとバロード・モンヒュール、レイラン・トール、ゲンザン達、大鷲オオワシ族も居る。


「皮は厚さ10センチの鋼と同等・・毒の効きは悪く、油をかけて火を着けても怯まない。移動速度は意外に速くて・・馬並か」


「これ・・光ってるのが全部・・カエル巨人なのかい?」


 フレイテル・スピナの声が緊張にかすれている。


 投影された大陸図の上に無数の光点が点滅していた。


「海上にも居るようですな」


 バロードが唸った。淡水とか海水とか関係ないらしい。


「灰色が50万、黄色いのが5万、赤いのが5000混じってる。そして、黒いやつが300だけ・・まあ、普通に考えたら、黒いのが個体として上位なんだろうね」


 俺は溜息交じりに言って、ユノンを振り返った。


 ユノンは、偵察に飛んでいた大鷲オオワシ族からの情報を取りまとめている。


「まだ、産卵行動は見られません」


 最初の報告がそれだった。


「産卵・・・あいつ、卵を産むの?」


カエルは卵を産みますよ?」


 ユノンがキョトンと眼を見開いて小首を傾げる。


「・・うん、そうだね。カエルだもんね」


 俺は笑いの衝動を堪えながら映像へ視線を戻した。実に頼もしい奥様である。あの巨大カエルを前にして、産卵を気にしているとか・・。


 いや、確かに卵を産んで増えて貰っては困るけど・・。


(そう・・大きくてもカエルなんだよな)


 ちょいと大きくて、鋼のような肌をしたカエル・・。


 数は50万と少し・・。


 水陸両用・・。


 何故だか、統制のとれた動き・・。


(まあ、普通のカエルは、亜空間を抜けて来ない。何か・・誰かが仕向けた出来事なんだよな)



 ふむぅ・・



 なんだか、やっと頭が回り始めたぞ。



「カグヤ、お前の記録に、こいつはあるか?」



『該当ありません』



「智精霊、カモン!」



『はい、ご主人』


 陽気な声がして、ポンッと小さく煙玉が爆ぜた。


 手の平サイズの小さな人形の俺・・いや、デフォルメされた俺の姿をした人形が登場した。燕尾服姿である。



「このカエル巨人を知っているか?」



『・・神様のお創りになった生き物ではありませんね』



「こいつは何だと思う?」



『素体は蟇蛙ヒキガエルのようですが、何らかの手法で巨大化し、知能を与えられているようです』



「・・じゃあ、神様も知らない化け物なのか」



『はい。このような存在は記憶しておりません』



「それで、神様はこいつらを放置するの?」



『現在、神々との交信が途絶えがちになっております。御意志を計りかねます』



「・・・神界に異変?」



『何者かによる界への干渉、あるいは攻撃を受けているものと思われます』



「神々を狙った軍勢という可能性があるわけ?」



『この地に現れた・・カエルらしき者達は、この地を襲うためのもの。この地からは、神々の住まう世界へは到達できませぬ』



「なるほど・・じゃあ、このカエル軍団は、最初からこっち側を狙って来たわけか」



『神々は界への干渉を防ぐためにシェルを構成して御籠おこもりになられたようです』



「ふうん・・まあ神様の事は俺が気にしても仕方ないね・・・司精霊、カモン!」



『・・なに?』



「あの、カエル巨人を倒したら、何点か貰えるの?」



『白は1000点、黄は5000、黒は5万、銀は10万点になる』



「うはぁぁ・・・」



 なんというボーナスポイント!


 ビッグな清算イベント来ましたよぉーーっ!



『親神様が御隠おかくれになった』



「死んだの?」



『身を御隠しになっただけ』



「あ、そう・・」



 紛らわしい。御隠おかくれ・・って言ったら、普通は亡くなったとかでしょ?



『この世界に入り込んだ敵を排除して欲しい』



「対価は?」



 俺、タダじゃ指一本動かさんよ?



『・・司法神の加護』



らない」



 俺をかばってくれる月光の女神様の加護だけで十分で御座いますよ。



『・・神界の武器』



らない」



 俺には愛する細槍キスアリスがあるのです。他の武器なんか要りません。



『・・・兎の技』



「む・・・」



 これには、ちょっぴり動揺したんだぜ。だって、兎系の技って、どれも優秀なんだもの・・。



『強力な神兎の技を授与する!』



 俺の動揺を感じて、ここぞとばかり、ビジネススーツ姿の司精霊がぐいぐいと迫って来た。



「むむむ・・」



『とても、強い技」



 してくる。



「・・ホント?」



 かれるんだぜ・・。



『私は司精霊、嘘はつかない』



「カッコイイの?」



 重要なことなので確認しておく。



『とても、カッコイイ!』



 いつもは無愛想なくせに・・。



「むぅ・・仕方ないなぁ。とりあえず、樹海とチュレックを守れる目処めどがついたら・・・って、なんか変な音が聴こえる!?」



 俺の耳が妙な物音・・羽音のような振動音を拾っていた。



『司令官閣下、別種の出現が確認されました』



 船精霊のカグヤが厳しい表情で報告してくる。



「・・見せて」



 俺の指示を受けて、カグヤが新たな映像を投影した。



 青空をハチが飛んでいた。黒光りする胴に黄色い縞のあるやつだ。映像下部に、カグヤによる観測情報が文字となって羅列されていく。



「体長・・3メートル?」



 ボクの記憶違いじゃなければ、これってミツバチ・・じゃ無いよね?



「空が埋め尽くされてるじゃん」



 フレイテル・スピナが呆れ顔でぼやいている。



「数は?」



 カグヤにくと、



『現在、急速に数を増やしております。今現在のもので、92万7800・・いえ、すでに100万を突破しました』



「こいつも強いのか?」



 俺は溜め息をつきながら、個人倉庫から愛槍キスアリスを取り出した。



「このハチは、何点?」



 どこか呆然とした表情で浮かんでいる司精霊に問いかけた。




第3章、おしまい。


135話から、第4章〜 (その前に、少し休憩。)





派手に風邪ひいちゃいました〜〜(号泣ならぬ、号鼻です)

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