第125話 司教がヤバい
半狂乱になり、独り反省会を始め、枯れ木のように動かなくなり、また半狂乱になり・・。
デイジー・ロミアム劇場は、何度も何度もリバイバルを繰り返した。誰もお願いしていないのに・・。
放っておけば、真っ白になるのかと思っていたら、なんだか、スッキリ晴れ晴れした顔で部屋の前に立っていた。
「使徒様・・」
デイジーが、胸の前で手をクロスさせた。裸でやれば、グラビアポーズだけど・・。これが、デイジーの最敬礼らしい。
「いや、俺は使徒じゃないから」
「では、コウタ・ユウキ様」
やけに余裕のある微笑みを浮かべている。気味が悪い。
「・・なに?」
「貴方様にお仕えすることをお許し下さい」
「一緒に来るってこと?」
「はい」
「・・・まあ、いいけど。毒とか辛いんじゃない? 俺やユノンは、構わずに毒を使っちゃうよ?」
色々と残念だけど、聖術だけはキレッキレの冴えを見せる熟練者だ。下手したら、死人でも蘇らせるんじゃないかと不安になるくらいの・・。それでも、瀕死になって逝きかけた事が何度もあるのだ。正直、デイジーのためにも、別行動をとった方が良いんじゃないかと思っていた。だからこその大使館だったのだけど・・。
「私は、加護を授かりました」
俺の懸念を見透かしたように、デイジーが微笑した。
「・・司法神でしょ?」
「いいえ、昨夜・・・月光の女神様が御降臨なされ・・この
半狂乱で泣きながら昏倒してしまったデイジーの夢中に、月光の女神が降臨したらしい。
「マジかぁ・・」
女神様、何やっちゃってんの・・。
「女神様は仰いました・・コウタ・ユウキ様にお仕えする巫女になれと」
デイジーの双眸が異常な熱を帯びて潤んでいる。
「巫女? 巫女って神様に仕えるんでしょ? 俺、神様じゃないよ?」
「月光の女神様の御寵愛をお受けになっていらっしゃいます」
「そりゃぁ・・異世界人だからね。というか、加護持ちなら、他にも腐るほど居るでしょ?」
「この身を・・命を神々に捧げたいと懇願いたしました」
「馬鹿なの?」
「女神様は仰いました。どうせ捨てる命ならば、コウタ・ユウキ様に捧げろと・・」
「ま、丸投げっ・・」
女神様、なんて事を言っちゃってますか? この危ない聖女を俺に丸投げとか・・。
「あ・・ユノン」
騒ぎを聞きつけて、調剤工房からユノンが顔を覗かせていた。
「デイジーがヤバい・・助けて」
「どうしちゃったんですか?」
ユノンが作業着のエプロンを外しながら出て来た。
「お方様」
いきなり、デイジー・ロミアムが、ユノンの前に
「旦那様に巫女として
「良いですよ」
即答である。
「ちょ、ちょっと、ユノン?」
よく考えて?
「はい?」
「いや・・そいつの眼を見て、
「・・う~ん、いつもと同じですよ?」
ユノンが、しばらくデイジーを観察してから言った。
「あぁ、それはそうかも・・じゃなくて、ずうっと付いて来る気なんだよ?」
狂信者の目つきだよ?
「私、デイジーさん、好きですよ?」
とんだ爆弾発言を投下しちゃった。
「・・おぅのぅ」
「ああっ、御方様っ! 勿体なき御言葉っ! デイジー・ロミアム、命を
デイジーが
ダレカ、タスケテェ・・
俺は遠い眼差しで、部屋の天井を見上げた。
今居るのは、空飛ぶ岩島・・サクラ・モチにある居住エリアの中だ。家屋と言うより、通路の左右に個室が並んだ居住エリアである。
(迷宮にあったホテルを見せに連れて行こうかな)
現実逃避をしながら考え事をしていると、
「旦那様・・」
デイジー・ロミアムが間近に迫って立っていた。もう十分近いのに、にじり寄ってくる気配だ。
「・・なに?」
熱した眼付きが怖いんだけど・・。
「御方様のお許しを得ました」
「ふうん・・」
ユノン砦が陥落した。まあ、最初から許していたっぽいけども・・。
「ユノンが良いなら・・まぁ、俺も反対はしないけどね」
「感謝致します」
デイジーが
「・・真面目な話、後悔するだけだよ? 俺、神様でも使徒でも無いんだからね?」
「私自身で考え、決めた事です。例え、旦那様が魔の道を
「いや、魔の道とか・・俺は基本的に良いニンゲンだからね?」
なにを言っちゃってますか?
「よく存じ上げております」
「・・まあ、一緒に居たから知ってるか」
俺は溜息をつきながら、デイジーの顔をしみじみと眺めた。
言いたくは無いが、かなりレベルの高い美人さんである。
週間少年誌のグラビアページ・・あるいは、週刊写真誌の袋とじを飾ってもおかしくないくらいの豊麗な肢体、ちょっと艶がある感じの綺麗な顔立ちをした美人さんが、情熱的な・・・いや、狂信的な熱意を込めた眼差しで見つめてくる。
「はぁ・・分かったよ。俺の負け」
俺は両手をあげて降参した。
「巫女となることをお許し頂けるのですね?」
「・・うん」
もう、巫女でも何でもやってくれ・・。満足するまで、どうぞ。
「誓詞を捧げたいのですが、よろしいですか?」
「へ?・・あ、ああ・・別に良いけど」
「では・・」
デイジーが何やら書かれた紙を取り出して俺に差し出した。なんだか、どんどん追い込まれて行くような・・。
「・・用意が良いね」
コウタ・ユウキに仕える巫女となる旨が
「生涯に渡ってとか、ちょっと大袈裟過ぎなん・・」
文面を修正して貰おうと言いかけた時、紙面上に黄金色の紋章が浮かび上がって輝き、静かに薄れて消えて行った。
「ぁ・・」
「司法神への奉納が完了致しました。旦那様・・私は一生涯、旦那様の巫女で御座います」
デイジー・ロミアムが、満面の笑みを浮かべつつ、胸元に手を当てて床に膝を着いて頭を下げた。
(こいつ、ヤベぇ・・)
戦慄に背が震えた。
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