第122話 伝説の大馬鹿者


(ふうむ・・)


 俺は腕組みをして唸っていた。


 色々な事が一度に起きて、正直、消化不良である。神様にも怒られたし・・。


 サクラ・モチは、淡水、海水、大気中以外での航行を禁じられ、見た目は岩塊のような感じになってしまった。

 まあ、材質とか岩っぽい何か・・なんだけども。とりあえず、宇宙へ行けそうな形状は止めろという事らしい。武装も封印、搭載しているロボットみたいな決戦兵器も封印・・。その他は問題無く稼働できるそうだ。


 亜空間航行用の座標基は、空に浮かぶサクラ・モチへ行くための転移門となった。女神様の慈悲で、予備で5つ、転移門が用意されていた。まあ、再設置できるので十分な数だろう。



 ・兎シリーズの技が増えた。ゲロ技が大化けしそうである。



(まあ、これは色々試してみるしかないね)



 ・サクラ・モチは封印されたようでいて、実のところは空飛ぶ要塞である。漂っている訳では無く、どこへでも移動できるし、高度も自在に変えられる。地上との行き来は転移門で可能だ。



(空飛ぶ家になったと思えば良いよね。いつかは、元の船に戻せるんだし・・)



 ・迷宮種を育てることになった。迷宮種というのは、魔瘴を吸って無害化する空気清浄機みたいな役割をもっているそうで、迷宮内は魔瘴が充ち満ちて魔物が元気いっぱいになるが、外気の魔瘴濃度はかなり抑えられるらしい。通常は魔瘴が濃くなった場所などに根を下ろすようにして自然と深く育って行くものらしい。



(思ったより手がかからないかも? ゲームのダンジョンっぽく、カスタマイズ出来るみたいだし・・これ、むしろ御褒美なんじゃ?)



 ・散って行った大勢の加護者の代わりに、たくさんの善行を積むことになった。



(・・これだな。面倒なのは・・)



『おいっ、聴いておるのかっ!』



 いきなり、大音声の怒声が降ってきた。



「ぁ・・ああ、龍帝さん、ごきげんよう」



 俺は、冷めきった声で応対した。



 例の、微睡みの間に連れて来られている。まったく、忙しい事だった。女神様に呼ばれたと思ったら、今度はトカゲの親分に拉致らちられるとは・・。



『貴様、龍種を根絶やしにするつもりかっ!?』



「いいえ、まったく、ちっとも、これっぽっちも、龍に興味はございません」



『ならばなぜ、百を超える龍種を虐殺したのだっ!』



「・・だからぁ、事故なんだって。神殿騎士を狙ったら、巻き込んじゃっただけだって」



『じっ・・事故で済むかっ! まだ生まれたての龍種から卵だった者までおったのだぞ!』



「・・ごめんなさい」



 再び、土下座コースである。考える事がいっぱいで、正直、龍さんを相手にしている気分では無いのだけど・・。



『うぬぅ・・業腹なことに、おぬしに・・貴様なんぞに、褒美をくれてやらねばならぬ!』



 凄い音の歯ぎしりが聞こえて来ます。



「いや・・嫌なら良いんですよ? ボク、ちょっとお腹いっぱいなんで・・色々混乱しちゃってますし」



『黙れっ! 神々との約定だ。果たさねば、龍帝としての面目が立たぬわ!』



「はぁ・・じゃあ、さっさとください」



『なんだ、その態度はっ?』



「はいはい、すいませんねぇ・・ボク、育ちが悪かったもんで」



『く、くそぅ・・こんな奴にっ!』



 歯ぎしりの中に、何かが破砕される重低音が混じり始めた。これは宜しくない。ちょっと、誤解されるような態度だったかも・・。



「・・申し訳ありませんでした。知らなかったとは言え、幼い龍さんまで巻き込んでしまって、今後は二度と起こらないように注意します。この通り、お許しください」



 俺は、両手を床に着いて深々と頭を下げた。



『・・・む、むぅ・・』



「前後の事情は、神様に聴いて下さい。本当に・・悪気は無かったんです。森を狙って、数千もの加護持ちが集まって来ていて・・遠くからは飛竜も襲って来ていましたし、急いで対処した方が良いと思ったんです」



『事情は・・神々から伝え聴いておる』



「誠に申し訳ありませんでした」



 俺は床に頭を擦りつけるようにして土下座した。



『だが・・今回のことは、やり過ぎだ。卵からかえらぬままの者まで殺すことは無かろう?』



「ごめんなさい。本当に悪気は無かったんです」



『・・まったく、おぬしという奴は・・・どうにかして、龍種に関わらせぬように出来ぬものか』



「ははは・・それ、お願いします。なんか、知らない内に迷惑掛けちゃってるみたいだし」



『そうよな・・神々にも打診しておるのだが、なかなか良い返答を寄こさぬのだ』



「・・どうしてですかねぇ?」



『さあな・・コウタ・ユウキは、神々が招来した異世界人では無い。故に、光神の加護は与えられず、神々の駒とは成り得ぬ・・・使徒では無いはずなのだが』



「ああ、やっぱり、東達は・・何かそういうルートに乗っかっちゃってるんですね?」



『さほどの強制力は無いらしい。ただ、そうした適性のある者を招いているが故に、自然と神々の恩寵を受けやすい行動を取るのだとか・・聴いたことがあるな』



「ふむぅ・・なるほどぉ~」



『で、おぬしだが・・』



「誠に、申し訳ありませんでしたぁ!」



 大急ぎで土下座をした。



『・・・よい。この度の事については悪意無き事故であったと・・・コウタ・ユウキの謝罪を受け入れよう』



「ありがとうございます!」



『今後は、幼龍や卵を抱えた母龍などには配慮をしてくれ』



「肝に銘じます」



『うむ・・さて、今回の褒美だが・・通常は一対一で龍種をほふった者に与えられるものだ。だが、今回は多対一・・形の上では百を超える龍種対コウタ・ユウキ・・という事になる。異例だが、討伐者の称号が与えられる決まりだ』



「・・あぁ・・そういう」



『称号:龍を滅ぼす者・・称号:災厄の具現者・・称号:神の徒を滅する者・・以上が付与される』



「ひぃっ・・ちょ、ちょと、それは・・どれも凶悪っぽいじゃないですか!」



『龍を滅ぼす者は、"龍殺しドラゴンスレイヤー"の最上位。災厄の具現者は、"自然を破壊せし者ゾンダルクフェール"の最上位、神の徒を滅する者は、"加護喰らいブレスイーター"の最上位となる』



「・・許して下さい」



『これにより、龍種、自然事象、加護技から受ける攻撃、被害は大幅に軽減される。逆に、それらに与える損害は大幅に増加する』



(・・・歩く災害じゃないですか。俺、外に出たら駄目なんじゃ?)



『次だ。技を選ぶが良い』



 いつものカードが浮かび上がった。悩んでも仕方ないので、さっさと選んでしまおうと1枚掴む。



『ちぃっ・・くじ運が良いやつだ。どんどん人間離れして行きおるな』



「・・はい?」



『神兎の快癒だ。神々より聴いたが、おぬしはアレと一戦交えたのだろう? アレの回復力・・それを手に入れたということだ。まあ・・月のある夜間限定のようだがな』



「・・アレって、白いデカ兎ですか? 確かに、あいつはモリモリ回復してたけど・・月夜限定で・・アレを?」



 ボク、まだ人間だよね? 小さな角が付いちゃってるだけで、ちゃんと人間してるよね?



『彼女がどうとか申しておったそうではないか?』



「へ?・・あ・・女神様に言ったような・・なんで?」



『いや、好きな雌が出来れば少しは穏やかに生きるかも知れぬと・・女神も、おぬしの生き様を案じておったからな』



「・・なんだか、心配かけちゃってますね」



『月光の女神は加護を授けることすら稀だからな・・久方ぶりに加護を与えた者の行く末を気にかけておるのだろう』



「う~ん・・ちょっと、色々と考えないと駄目だなぁ・・」



 俺は腕組みをして唸った。



『好きな雌が出来たのだ。せいぜい、雌を相手にほうけてみたらどうだ?』



「う・・うん、それはとても良い提案だけど・・」



 と言うか、とっても素敵・・。



『ふうむ・・少し待て、どこかに・・』



「龍さん?」



『なに、以前、暴れ回った大馬鹿者が所持しておった品を思い出した。おぬしにくれてやろう』



「・・剣か何か? 槍があるから武器はいらないけど?」



『なんでも戦いに結びつけて考えるな。戦闘だけが愉しみという訳ではあるまい?』



「そりゃ・・もちろん、むしろ、平和が一番です。荒事の起きない、静かな毎日を希望します」



『うむ、これだ・・飲んでみるか?』



 龍帝の声と共に、目の前に小さなクリスタルの小瓶が浮かび上がった。飾り細工の見事な瓶だった。



「薬? 今でも、女神様のおかげで無病息災な感じだけど?」



 首を捻りながら、小瓶を手に取って中身を透かし見る。液体かと思ったら、仙丹のような小さな丸薬が一粒だけ入っていた。



(まあ・・死ぬことは無いだろう)



 そう思い、蓋を開けて掌に載せると、口へ放り入れる。途端、スウッ・・と溶けるように口中で消えていった。



「これが・・?」



『夢を形にする薬だと、あいつは言っておったな』



「夢? 形にするって何?」



 嫌な予感しかしませんが?



『あやつは飲めば分かるとか言っておったが・・なにか、分からんか?』



「飲んだけど・・って、あ?」



 いきなり、俺の目の前にモヤのような薄煙が立ちのぼり、みるみる人の形になっていった。



『むぅっ!? こやつは・・』



 龍帝の緊張した声が聞こえる中、



『やあ、誰だか知らないけど元気かな? ボク? 神様と龍の親分にボコられて死んだ可哀相な男さ』



 一言で言い表すなら、思いっきり地味でインドアな感じの男子が、必死に着飾り、髪を白色に染めてオシャレ感を出そうと足掻あがいたような・・・チャラ男を目指して失敗した痛々しい感じだ。



「・・だぁれ?」



『いつぞやの大馬鹿者だ』



 龍帝が吐き捨てる。



『究極無双、エレメンタル・カイザー、タケシ・リュードウさ!』



「・・馬鹿なの?」



 俺は、龍帝にいた。



『大馬鹿者だと言っただろう』



「・・確かに」



精霊皇帝エレメンタル・カイザーとして永き歳月をかけた研鑽けんさんの成果、我が探究の秘宝を神技として次の世代に贈ろう!』



「いらないんだけど・・」



『究極にして至宝っ! 全世界の男子の夢っ! その総てを一度に手に入れる神の技だっ!』



「・・なんか、怖いんですけど」



 俺、飲んじゃったんだよ? どうなるの、これ?



『解説しようっ! まずは透明化だ。女の赤裸々せきららな姿を覗き見するために必須だね? これは、あらゆる探知魔法を無視し、どんな高等スキルでも見破れない、絶対透明の力だ』



『なっ? 大馬鹿だろう?』



「うん・・馬鹿だ、こいつ」



 完全同意である。



『そしてぇーーーっ、籠絡ろうらくの舌っ! どんなにガードの堅い女も、ディープなキスでイチコロさっ!』



 いや、ガード堅いとディープなキスとか許されないでしょ?



「こいつも、異世界人なんだね」



 だいたい分かった。色々、こじれちゃった奴なんだ。



『まあな・・』



『そして、極めつけはぁーーーーっ、不折不倒の一本槍っ! 24時間、365日、いつでも、何処どこでも、いつまでも、戦えまぁーーすっ!』



「・・馬鹿過ぎて、どん引きだわ」



 俺はひたいを抑えてうつむいた。



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