第121話 申し開き


「どうも、すいませんでした!」


 俺は、土下座をして謝っていた。

 場所は、何も見えない真っ白な空間だ。


 そう、俺は女神様に呼び出されて説教をくらっていた。


 罪は、まあ・・色々だ。



『・・湖になったそうだ』



 月光の女神様が世間話のような声音で言った。



 災害跡地に地下から水が染み出て湖になったという話である。幾重にも連なっていた山々が無くなって広大な湖が生まれたというから驚きだ。



「ご免なさい」



『彼の地には・・迷宮があったのだ。あまり知られてはおらぬがな』



「・・まさかの?」



『迷宮が死んだ』



「申し訳ありません!」



 俺はひれ伏した。いや、いつもの・・真っ白なんで自分の姿とか見えないんだけどね。



『おぬしの事情説明は受けた。裏付けも取った・・・だがな、他にもやり方があったのでは無いか?』



「その通りで御座います。軽率でした」



『おぬしならば、槍一本でいかようにも片付けられたであろう?』



「浅慮でした」



『未だ幼く、眠りについていた迷宮種だったそうだ。芽吹く前に散らせてしまうとは何とも無惨な話よの』



「うぅっ・・誠に遺憾で御座います」



『コウタよ。おぬしは・・神々に遺恨を抱いているのでは無いかと噂になっておる』



「ちょ、ちょとぉーー? 何を根拠に・・根も葉もない言い掛かりですよ!」



 俺はそんな大それた事とか考えてませんよ? ただ、ちょっと高い所から落ちただけで、なんという言い掛かりをつけるんですかっ!?



『うむ。おぬしは我が加護を授けた者ゆえに、ざまに申す者達に証拠を示せと言うてやったのだが・・』



 女神様も抗弁してくれたらしい。



「そんな証拠がありました?」



『加護だ』



「かご?」



『加護を授けた者達を大勢討ち果たしておろう?』



「・・・そうでしょうか?」



 ちょっと背中が涼しくなった気がする。



『大勢討ち果たしたよな?』



「いや・・多いとか少ないとかは、基準が曖昧な感じですし・・立場立場によって感じ方も違うわけでして・・」



 同じ数字でも、多いと思う人も居れば、少ないと思う人も居ますよね?



『加護者を数名討ち取った者は、中位の加護を得る。数十名となると上位の加護を得る。与えた加護は、加護者を討ち取る事で育つのだ』



 それ、加護者を討ち取ると褒美が貰えるって話じゃん?



「ボク、いっぱいたおしましたよっ! そんな、ショボい数じゃ無いです。何百って単位だと思います!」



 上位の上の加護って何ですかねぇ? すんごいの貰えるんじゃないの? いや育つ?



『神々が下界の者達に加護を授けるのは、その生来の弱さをあわれんでの事だ。同じく界を接しておる魔界の住人に比べると、あまりにも格差があり過ぎてな・・わずかでも、その差を埋める術を与えておこうという配慮ゆえの事』



「ははぁ・・なるほどね。それは確かに・・」



『とは言え、無秩序に加護を与えすぎるのは考えものだ。過去には乱心して、人の世を統べようと大争乱を巻き起こした馬鹿者もおったからな・・あの時は世の生きとし生けるもの達の半数が命を散らせてしまった』



 歴史に残る、尊敬すべき大馬鹿者が居たらしい。



「マジですか・・」



『あの反省から、我々は下界の者達に与える加護の数を定め、加護者が増えすぎぬようにし、その動向にも注意を払うようにしておる』



「・・・なるほど」



 これは、よろしく無い話の流れです。



『加護を与えることは簡単では無いのだ。神々の側にも相応の準備が必要となる。その準備は長き歳月を伴うものだ』



「ははは・・」



『適合者の選定から加護の付与まで、およそ5年ほどだな』



(おぅのぅ・・)



『狩猟台帳を見せて貰った』



「いやん、えっち・・」



『神々が加護を与えし者が、5千と97人・・龍種が151体、迷宮種が62個体』



 まさかの5千人斬りっ!



「・・いや、それは・・それには色々とありまして・・ほら、山の中でコソコソやってた連中が居たじゃないですかぁ? あいつらがですね? ランドール教会の神殿騎士だったみたいなんですけどぉ・・全員がですよ? 加護を持っちゃっててですね? つまり、うっかり落ちた時に丸ごと土にかえってしまってですね? だから・・まあ、事故みたいな?」



『事の経緯は確認できておる』



「じゃ、無罪放免?」



『そうはいかぬ』



「えっと・・ボク、可愛い彼女が出来たので早く帰りたいんですけど」



『おぬし次第だ』



「・・女神様ぁ」



『武闘派の神々8柱からの申し入れだ。不当な要求では無いゆえ、我にはどうすることも出来ぬ』



「そんなぁ・・」



『なに、大した事では無い。加護者が命を落とすのは、加護者自身の不甲斐なさ故だからな。コウタだけを責めるのでは理屈が立たぬ』



「で、ですよねぇ?」



『5千は多過ぎるがな』



「・・反省しております」



『とりあえず、神々からの要求事項を伝える』



「はい」



『一つ、コウタ・ユウキの責任において、迷宮種を育成せよ』



「め、迷宮を・・?」



 迷宮って、何すれば? 水とかやるの? エサに小鬼ゴブリンとか放り込めば良い?



『一つ、コウタ・ユウキは5千名の加護者が行ったであろう功績・・すなわち、善なる行いを代行よせ』



「無理でございます」



『一つ、コウタ・ユウキは、龍種に近付くな』



「・・それ、アイツでしょ?」



 ぜったい、龍帝がクレームあげてるよね?



『一つ、コウタ・ユウキは先史文明の遺棄物を放棄せよ』



「なんです、それ?」



 まさかサクラ・モチを捨てろって? 馬鹿じゃないの?



『まあ・・他は話にならん愚痴の羅列だけだな』



「ええと・・ご説明願えますでしょうか?」



『裁可は我に一任されておる』



「おおっ・・」



『迷宮種の育成、可能な範囲での善行を命じる。先史文明の乗り物は今の世にそぐわぬ。故に文明に同化する形での機能制限を行う』



「・・サクラ・モチ、壊されちゃうんですか?」



 なんだか、悲しくなってくる。



『外見と機能を改変させる』



「あいつ、泣いちゃいますよ?」



 ボクの方が泣いちゃいそうです。



『改変か、消滅か・・主人であるコウタが選ぶが良い』



「うぅぅ・・」



『男神共は破壊を要求しておる。だが、幾柱かの女神達が時が来るまで機能を制限してはどうかと仲裁案を提示してくれたのだ』



「・・ありがとうございます」



『泣くな。時が経てば元に戻せるのだ』



「・・はい」



『迷宮種についての説明は知識として刷り込んでやろう。言葉で長々と説明しても困るだろう?』



「・・はい」



『善行については、小うるさい奴が居てな・・そやつの司精霊を常駐させる。司精霊から説明を受けろ』



「・・はい」



 俺は真っ暗な顔で頷いた。余計な精霊が増えるくらい我慢できる。どんな奴かは知らないけど・・。



 うぅぅ、サクラ・モチが・・。



『やれやれ・・仕方が無いな。やり方はともかく、おぬしばかりに非があるとは思うておらぬ。船を取り上げるような真似をするのだ。相応の褒美をくれてやらねばなるまい』



「女神様ぁ・・」



『泣くな。ふむ・・船を改変するのだ。おぬしの技も改変してしまうか』



「なんでしょう?」



『雷兎の噴吐にするか』



「ふんと? ああ、うがいのやつ・・」



『液体だけでなく、気体・・いや、何でも吐き出せるようにしてやろう』



「ええと・・?」



『む・・そうなると、コウタの口では大した物は取り込めぬな・・・よし、邪兎の呑口と・・魔兎の尖歯、神兎の胃袋をくれてやる。使い熟して見せよ』



「いや、あのぅ・・?」



『食い散らかして、口から吐き出せ。あの兎めが、散々やっておったわ』



 なんだか凄い事を言っちゃってますよ?



「・・女神様?」



『我が加護者に文句ばかりつけおって・・あれが駄目、これが駄目と小煩こうるさい奴等めが!』



「あ、あのぅ? 女神様? それって、また怒られるんじゃ?」



『罪を決し、罰を与えた。兎の技の一つ二つくれてやる事になんの問題があろうか』



「そんなの使って・・大丈夫です?」



 また、神様裁判にかけられるんじゃ?



『問題無い』



「本当に?」



『くどい!』



 叱りつけるような月光の女神の声と共に、俺の意識が暗転していた。



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