第118話 懲りない者達


「これは・・便利だ」


「・・凄いですね」


 俺とユノンが素直な感想を口にした。


 亜空潜行艦サクラモチによる初の航海を終えたところだ。


 艦橋の壁面には、ゲンザンを筆頭に大鷲オオワシ族の姿が映されていた。座標基の設置地点との誤差がほぼ無い状態で到着したらしい。

 外から見ているゲンザンからの連絡では、亜空潜行艦サクラ・モチは細身のクジラのような形状をしているそうだ。


 ユノンが魔法の伝話でゲンザンに無事に到着した旨を伝えている。



『識別名ゲンザンと類似の容姿をした個体を817体確認・・』



「今は味方だ」



『了解しました。良性として登録します』



「この周囲の地図は出せる?」



 指示をする俺の横顔を、ユノンが見つめている。今は俺と霊子体カグヤのやり取りが理解できていない。でも、すぐに理解してしまうだろう。



『投影します』



 カグヤの声と共に、俺の目の前に周辺地図が表示された。ゲンザン達、大鷲オオワシ族が小さな光点として表示されている。



「ここを中心に、少し拡大して・・」



『はっ』



「次は少し右上を」



『はっ』



 すぐさま、地図が右上へとスクロールしていく。



「ぁ・・」



 小さく声を漏らしたのは、ユノンだ。



「ここは・・?」



 俺が指さしたのは、港町から河岸沿いに上流部へ5キロほどさかのぼった地点だった。

 そこに、多数の光点が灯っていた。


(前は無かったけど・・町でも出来たかな?)


 そう思いはしたが、ゲンザン達の報告には無かった情報だ。


「どう思う?」


 俺はユノンを見た。


「森の人が作った町ではありません」


「なら・・外の人か。ゲンザンが気付かないとなると・・上から見えないんだな」


 地図を見つめたまま口をつぐんだ。


「カグヤ、ここは地下か、水中?」



『地中の反応です』



「・・なるほど」


 いつの間にか、地下に隠れ砦を築かれていたらしい。


「ユノン、ゲンザンに説明をして、まずは上空からの偵察をさせて」


「はいっ」


 ユノンが頷いて、すぐさま伝話を始めた。



「カグヤ、同じように密集している生き物の反応を探して・・半径50キロくらいまで、やれる?」



『距離単位の換算が未完了です。当艦に可能な最大値にて探知します』



「よろしく・・・ユノン、どう?」


「高空からの偵察を行うそうです」


 魔法で伝話をしていたユノンが頷いて見せた。


「カグヤ、ゲンザン達の位置情報を追跡しておいて」


 アナン教団か、奴隷狩りの連中か・・。

 ガザンルード帝国、センテイル王国、カーダン王朝・・心当たりは幾つもあるが、



『周辺の探知結果を表示します。識別名ゲンザン以下、良性体を追跡表示します』



「・・ユノン、この辺はどこになる?」


「この辺りは、闇谷・・ここが神樹・・こちらが森の長の集落ですね」


 光点の密集地をユノンが指さしながら説明する。


「こっちは?」


「獣人の土地です。西方の・・ここは鬼人族だと思います」


「他の点は、魔物かな?」


「・・ここの塊は、小鬼ゴブリン犬鬼コボルトにしては組織だって見えます」


 ユノンが指摘したのは、樹海から見て北西にあたる山岳地帯だった。


洞窟人ドワーフとか?」


「いいえ、洞窟人ドワーフはこちらの・・」


 ユノンが東部を指さした。


「ふうん・・カグヤ、ここの反応は地上?」



『地上ですが、視覚阻害領域が展開されています』



「なるほど・・こそこそ隠れて南下して来ている訳か」



 山岳地の光点は、重なり合うように灯っていて数えられないけど・・。視覚阻害というのは、デイジーと出会った時の奴隷狩りの親分が使っていた目隠しの天幕だろう。



「これ、いくつ?」



『5000です』



「多いな・・」


 まあ、仮に加護持ちばかり集めたとしても、今の俺達にとっては脅威にならない数だけど。


「森全体を攻めるには少ないですね」


 ユノンが無感情に言った。

 今の樹海は、森の民エルフ闇の民ダークエルフ、獣人、鬼人、洞窟人ドワーフが連携を取り合って団結している。


「どうせ、南や東側からも、別働隊が仕掛けてくるんだろうけど・・」


 全員、土に還って貰うことになるな。稀少だとか言う加護持ちが、いったい何人樹海の肥やしになったことか・・。


「森の長に連絡しますか?」


 ユノンの問いかけに、俺は頷いた。


「河岸の地下、北西の山岳部それぞれに潜伏する部隊を発見。数は5千程度。俺とユノン、大鷲オオワシ族が迎撃に向かう。同時に侵攻してくるだろう東方、南方からの軍勢はお任せする・・と、伝えてくれる?」


「はい」


「カグヤ、ここの光点は悪性で登録・・こいつらを映像で見れる位置へ移動して」



『了解しました。悪性登録します』



「ユノン、ゲンザンに、地下の連中を見張る人数を少なくして、本隊は武装させて、山岳地へ移動するよう連絡して。今回は徹底的にやるよ!」


「はいっ!」



『亜空潜行を開始します』



 霊子体カグヤの声が艦橋に響いた。



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