第117話 進めっ、サクラ・モチ!


「外の様子が見たいな」



『はっ! 外部映像を映します』



 耳元に浮かんでいるミニチュアの軍服女子が歯切れ良く言った。


 途端、艦橋の壁面総てに外の様子が映し出された。ゲンザン達が仰け反るようにして壁から離れて翼を拡げた。まるで、外へ放り出されたような錯覚すら覚える鮮明な映像だった。立っている床にも、地面の様子が映されている。



「当艦の修復状態は?」



『動力部付随装置が8割、内防壁は9割。最も遅れている外防壁で4割の復元状況です』



「落ちている船の回収は?」



『742隻を回収致しました』



「しばらく保つね?」



『前回同様の大戦下での損耗率を想定して、58年と7ヶ月は当艦の能力を維持可能です』



「よろしい。亜空移動の説明をしてくれ」



『はっ!』



 俺が座っている艦長席の正面に、大きな地図が浮かび上がった。


 簡単な話だった。


 水に潜行するように、亜空間へと潜れるそうだ。

 そのための操艦総てを霊子体のカグヤが行ってくれるらしい。



『亜空間は位置情報の探知誤差が出ます。目標地点に座標基を設置しておくことで移動の精度があがります』



「ふうん・・無くても移動できるけど、目標からズレた場所に出ちゃうのか」



 準備作業としては、終点となる座標基の設置を行うだけだ。ナビのマーカーみたいなものか。



「座標基は何個まで設置できる?」



『最大150基までになります』



 霊子体カグヤが説明する。



「座標基の大きさ、重さは?」



『比較対象物としては・・』



 カグヤが室内を見回し、すぐに大鷲オオワシ族の方を指さした。



『あの棒と同等です』



 棒とは、大鷲オオワシ族が握っていた槍の事らしい。



「地面に刺すの?」



『あくまでも座標基を生成するための装置です。生成後は分解して消え去りますが、一度生成された座標は当艦の管制装置に永久保存されます』



「なるほど・・」



 俺は思い付く限りの疑問を口にしてたずねた。それら総てに、カグヤが遅滞なく答えてくれる。



「ようし・・じゃあ、座標基を4つ用意して」



『畏まりました。4分30秒お待ち下さい』



「ゲンザン」


「はっ!」


「俺の港町を見下ろせる丘の上に1基を運んで設置して」


「承知致しました」


「1つはチュレックの大使館にしよう」


「転移・・のような装置なんですか?」


 ユノンが頭を整理するように訊いてきた。


「うん。この船ごと亜空という、こっちの世界から見えない場所を通過して移動する・・そういう船らしい」



『座標基の製造が完了しました』



 霊子体カグヤが姿をあらわした。



「どこ?」



『こちらに・・』



 カグヤが手を振ると、部屋の床の上に4本の金属質の棒が出現した。複雑な幾何学模様で覆われた紅い棒だ。



「どれ・・」


 拾い上げてみると、思ったより軽い。


「問題無さそうだな」


 俺はゲンザンに紅い棒を2本手渡した。


「軽いですな」


 ゲンザンが頷く。


「じゃあ、1本はこの近くに、1本は港の丘の上に設置よろしく。もう1本はゲンザン達が見つけた海の島ね」


「はっ!」


 ゲンザンと大鷲オオワシ族が外へと駆け出て行く。開けようと手を伸ばした扉が自動で開いてしまい、ちょっとした騒ぎになったが・・。


「じゃあ、俺達は大使館に持って行こう」


「はい」


 ユノンが頷いた。


 デイジーがディージェ達との話し合いを終えて暇になっている頃だろう。



「カグヤ、サクラ・モチを離れても問題無いね?」



『安定稼働しております。周辺に敵性行動をとる存在は確認できません』



「よし、何かあったら・・あぁ、カグヤが居るから、いつでも連絡できるんだった」



『はっ! ご安心下さい。いかなる敵も、当艦には近寄らせません』



 霊子体の軍服美人が背筋をぴしりと正した。



「よろしい、では・・いや、念のため、もう1本補充しておこう」



 ウィスキーベースの神酒を造ってエネルギー量を比べて貰うのも面白い。燃料が多すぎて困るということは無いだろう。



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