第113話 懺悔


 俺は悪くない。


 最初に断っておく。


 俺はただ落ちて、死なないように破城角と一角尖で軟着陸をやっただけだ。いや、天翔脚を使わなかったのは・・まあ、アレだ。軽くパニクって忘れちゃっていたのだ。まだ覚えたての新しい技だったし・・。


 もちろん、それによって起きてしまった悲劇については多少の責任はある。それを否定するつもりは無い。


 悲劇というのは、身体の大きな人型の生き物や蝙蝠コウモリっぽい羽根のある人やら、魚のようなウロコのある人やら・・そういう人達が集まっていた神殿らしい場所が崩壊してしまった事だ。


 神殿の大きさは知らないけども・・。


 かなりの広範囲に渡ってブロック状に成形された黒い石が散らばり、先述の多種多様な人達の手やら足やら、頭やらが・・。


 いやっ、神殿が古かったんだ。

 元々、今にも崩れそうな建物だったんだ・・多分。


 チュレック王国の鏡から飛ばされて、はるかな高空に浮かんだ小島のお花畑・・。色々あって、化け兎バーナイと戦わされ、何とか時間切れで逃げ切り・・。小島から外へ出る方法が分からなかったので、思い切って落ちてみたんだ。


(・・俺、悪くないよね?)


 下に何があるかなんて分からなかったし・・。


 不可抗力でしょ?


(もう・・なんでこうなるかな?)


 俺は嘆息した。


 後味が悪過ぎでしょ・・。


 土石に埋もれた死屍累々・・。いったい、どんな種族の人が、何人くらい犠牲になったのだろうか。


 立ち尽くしている間にも、魔瘴気というやつは、延々と果てること無く流れ込んでくる。


(・・ん?)


 不意に、視界が揺らぎ、ぼやけ始めた。


 細槍キスアリスを手に身を硬くした時、


 周囲が真っ白になって、すべてが見えなくなった。


 幾度となく覚えのある空間・・。


 真っ白に塗りつぶされた世界・・。



『コウタ・ユウキ・・』



 聞こえて来た声は、初めて耳にする老いた男のものだった。



「・・はい」



 俺は身体の力を抜いた。



『我は宵闇よいやみの魔神である』



「まじん・・」



『汝が破壊し尽くした神殿に祀られていた魔族の神々が一柱なり』



「魔族・・それじゃあ、俺が壊した遺跡みたいなのが?」



『業腹だが・・平人の身で名のある魔族を討ってみせた武勇を讃えて褒美を授けねばならぬ』



「・・・身に覚えが御座いません」



 ボク、落ちただけですから・・。討ったんじゃ無くって、落ちたんですから・・。



『将の位にある者達をほふってみせたのだ。己の武を誇るが良い』



「いえ、あのぅ・・」



『天の迷宮よりの奇襲、見事であったぞ』



 うん、魔神さんも人の話とか聴かないタイプなんですね。



『・・魔力を持たぬ身とは珍しい。魔法を授けようにも素体が無いのでは・・難しいな』



「ちょ、ちょと・・諦めないで! 頑張ろうよ! 神様でしょ?」



『ふむ・・神気を生成し、魔瘴気を吸収する力を得ておるのか』



「魔法を・・ボクに魔法を下さいっ!」



『雷兎、魔兎、月兎、天兎、神兎・・古き獣どもに縁が深いようだな』



「まあ、浅くはないデスネェ・・」



 ああぁ、コレ・・また兎シリーズですわぁ・・。



『魔宮に入り込んで悪戯をやっておった兎・・邪兎の力を授けよう』



「デスヨネ・・」



 もう、想像通り過ぎて突っ込む気力が湧きません・・。



『悪戯兎めは、魔力を練って自在に操っておったが・・邪兎の呪毛・・いや、平人の身ゆえ、邪兎の呪髪と名付けようか』



「・・えっと、それって何がどうなるんでしょう?」



『魔力を染みさせた獣毛を糸とし、針とし、刃物として、巻き付け、突き刺し、切り裂く技だ』



「・・その魔力が無いんですけど?」



 致命的なんじゃ無いですかねぇ?



『神気なり、魔瘴気なりを使えば良かろう』



 角で生成する神気や吸い込んでいる魔瘴気で代替できるらしい。



「なるほど・・でも、この髪の長さじゃねぇ」



 俺の髪は、ユノンの強いリクエストによって切らずに伸ばし続けている。今は背中の中程くらい。もうじき、腰に届くくらいになるかも。



『獣毛・・いや、髪の毛は・・その身の10倍ほどに伸びる』



「この身の10倍・・」



 俺の身長の10倍・・なんか、しょぼい・・。どうしてかな? 損した気分になるのは何故だろう・・。



『邪兎の呪髪・・その身に刻んだぞ』



「どうも、ありがとう」



 もうね。兎シリーズが満載ですよぉ。



『もう一つ、天の迷宮から降り立った地は、古き盟約により平人が立ち入ることを禁じておる。転移門へ戻すぞ』



「・・お任せします」



 どうやら帰れるらしいと知って、俺は深々と溜息をついた。



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