第110話 死闘の果て
「
遁光術で回避してからの模写技・砲仙花の発動っ!
俺が足で踏み付けた地面から、赤黒い斑紋が浮いた茎をした妖花が次々に地面を割って生え伸びてくる。みるみるピンクの大きな花が咲き、すぐに
直径が5メートル近くもある大きな果実だ。
それが、数十個も転がって血管のような管を表皮に浮かせて淡い光を点滅させ始めた。
なんとも不気味な光景だ・・。
前方から怖ろしい速度で巨兎が突進してくる。
頭部を下げ、螺旋に溝の入った角を前に・・。高周波音を響かせながらの突進だった。
(やっと・・慣れてきたぞ)
一騎討ち開始から3時間、ようやく巨兎の攻撃パターンが判ってきた。
巨大高層ビルサイズの巨体で、100メートルをコンマ数秒のダッシュ。
当たると風爆が起こる巨大な一本角。
俺の一角尖と雷轟を柔らかく受け止めてノーダメージにしてしまう白い毛皮。
表面がノコギリ刃のような獣毛を膨らませての体当たり。
近寄ると、刺激臭のするガスを広範囲に噴出するが、効果は不明。多分、状態異常系か・・?
体長は約300メートル。体高は120メートルほど。体重は不明。毛皮は白。
性質は、極めて獰猛。
(ヤベぇ・・・模写技、あと1個じゃん)
俺の感覚では、あと4時間ほどで零時なのだけど・・。
ドォォーン・・
ドドォォーーン・・
ドドッ・・ドドドッ・・ドッ・・・・
腹の底に響く、重々しい衝突音が連続して鳴り始めた。
地面に転がった砲仙花の実が、巨兎に触れて弾けているのだ。実からは、直径が50センチほどの鋼より硬い種が無数に弾け出る。並の魔物なら、数個で粉々に破砕されるくらいの衝撃なのだが・・。
白い巨兎は、まるでお構いなしに突進して来る。
(・・どうしましょ?)
カンディル・パニックで与えた傷も癒えてしまったようだ。一角尖や雷轟はほぼ無傷で防がれてしまった。
模写技・陽の残りは、火爆粉だけだ。
これは、カンディル・パニックと似たところがある技で、微細な粉状の炸裂玉を空気中に舞わせて相手に吸い込ませ、肺の中で連鎖爆発を起こすという技だ。
(まあ・・効果は薄いよな)
(でも、何もしないより良いか)
多少でも動きを鈍らせれば回避が楽になる。
天兎の天翔脚・・
貰ったばかりの、文字通りに空中を蹴って宙を走る技で、巨兎を見下ろせるほどの高さへ駆け上がる。
(ユノン特製の毒を・・)
個人倉庫から取り出した小瓶の中身を口に含むと、巨兎の直上から宙空を足場に真下へと跳んだ。
巨兎の突進から空中への回避まで、1秒にも満たない間に起きた出来事だ。
俺が頭上へ跳んだと気が付いた巨兎が、跳躍に備えて身を屈めながら上を仰ぎ見る。
そこへ、真珠色の
狙ったのは巨兎の眼である。
ドッ・・ギィィィィーーーン
目玉に当たったとは思えない硬質な衝突音を残して、
(でも、少し入ったぞ)
穂先の先っちょが、硬質な殻を破って中へ達したのを感じた。
直後、俺は鼻から思いっきり息を吸い込むなり、唇を尖らせた。
雷兎の噴吐っ!
すぼめた唇から、ユノン特製の毒が細く、一筋の針のように飛んで
火爆粉・・
巨兎の鼻先で模写技・火爆粉を撒き散らしつつ、右へ左へ天翔脚で位置を転じると、
・・破城角っ!
狙い澄ました頭突きを巨兎の鼻へと叩き込んだ。
すぐさま、大急ぎで走って逃げる。
痛がった巨兎が狂ったように暴れて辺り一面を蹴り散らし、跳ね転がって苦しみ始めた。その巨大な体内から連続した炸裂音が聞こえ、半開きになった巨兎の口元から大量の
俺は、前足で鼻面を擦るようにして
「霊刻、第九紋、解除・・」
「・・第八紋、解放」
ブゥゥーーン・・
握っている
「第七紋、解放・・」
ブゥン・・ブゥン・・ブゥン・・・・
震動音が、虫の羽音のような音に変化した。
「第六紋・・解放」
この辺りが今の限界らしい。
ブン、ブン、ブン、ブン、ブン・・・・
規則正しく鳴動する
白い巨兎が身を起こして、こちらを睨み付けていた。傷ついた左眼はもう回復している。火爆粉で傷んだ気道や肺も癒えたのだろうか。吐き散らしていた
それでも、多少は警戒心が湧いたのだろう。
すぐには突進して来ず、こちらを睨んだまま角を下げて構えている。
(・・行くぞ)
月兎の猿叫・・
狙った相手を激しく挑発し、俺に対する怒りでいっぱいにするという技だ。声は出していないのだけど・・。
相手の冷静さを奪い、怒りで我を忘れさせるという点で、色々と危険を伴う技である。
果たして、
(・・来た!)
慎重さを見せていた白い巨兎が猛った様子で獣毛を逆立て、足下の地面を蹴り散らかして真っ向から突進してきた。
迎えて、
「
渾身の力で
真珠色に光輝く
・・パァァーーーーーン・・・
乾いた破砕音が鳴り響き、突進してきた巨兎の額から一本角が折れ飛んでいた。その眉間を、一筋の光が貫いて抜けている。
直後には、俺の手元に
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