第108話 遺跡にて


「話精霊、カモン!」



『ご伝言ですかぁ~?』



 蜜柑色の服を着た精霊が姿を現した。

 どうやら遺跡の中でも問題なくべるらしい。



「ユノンに伝言したい」



『う~んと・・う~んと・・あれぇ?・・あぁっ! 発見しましたぁ~、伝言できますぅ~』



「こちらは無事。どこかの空の上か・・高い所にあるお花畑に立ってる。今のところ魔物は居ない・・・以上、返信付きでお願いね」



『承りましたぁ~、代金は10万セリカになりますぅ~』



「ふわぁ・・お、おっけぇ~」



 どんだけ遠いんですか!?



『口座から引き落としになりますぅ~』



「うん、大丈夫」



『ではでは、ご利用ありがとうございましたぁ~』



 蜜柑色の精霊がにこやかにお辞儀をした。

 すぐに、そのまま顔を上げた。



『返信ですぅ~』



「なんだって?」



『こちらも問題ありません。黒曜石のような壁をした遺跡の内部を探索中。今のところ危険を感じる生き物との遭遇無し・・以上になりまぁす』



 精霊が透き通るようにして消えて行った。



(料金高いし、デイジーは放っておこうかな・・)


 ちらと、そんな考えが過ぎったが・・。



「話精霊、カモン!」



 俺は苦渋の決断で、デイジーとも連絡を取り合うことにした。何だかんだ言っても、もう結構な時間、一緒に行動している仲間である。出会った頃に色々と残念な場面を目撃しちゃってるだけで、聖術使いとしては非常に優れているのだ。


 料金が200万だと聴いて後悔したけど・・。



(・・まあ、良いか)


 チュレック国王から贈られた謝礼金で個人口座は潤っている。


 デイジーは白亜の螺旋階段を歩いているらしい。とりあえず、ユノンもデイジーも無事だった。


(それよりも・・)


 個人倉庫から、細槍キスアリスを出し入れしたり、他の薬品類を取り出したり仕舞ったり・・念入りに行ってみる。


(・・問題ないね)


 身につけていた装備類も問題無し。


(ここは、遺跡という感じはしないけど・・)


 うろうろと歩き回るが、足下はどこまでも続くお花畑で、上は澄み渡った青空である。


(先史文明・・ドコ?)


 まさか、大昔の人が作ったお花畑とか? 宝箱の匂いがしませんが?


(いや、この草花が実は凄いレアな・・)


 そう思って、鑑精霊を喚んで調べたが、確かに少しばかり値段は良かったけども・・毒にも薬にもならない普通の草花でした。


(いや、これ・・どうすんの?)


 俺、何をしたら良いの?


 時間切れまで、お昼寝でもする?


 延々と広がるお花畑でピクニック?


(お宝は? ちょっとこう・・ワクワクするような物とか無いの?)


 期待していただけに、何だか寂しい気分である。


(端っこは無さそうだし・・ああ、跳んでみようか)


 高い所から見下ろしたら何か違うのだろうか?


 俺は瞬足で助走をつけて、真上へと跳び上がってみた。軽々と50メートル近くも跳び上がっている。


(・・お花畑のままか)


 見渡す限りのお花畑だ。


(なら・・掘ってみるか)


 もし、ここが神樹のような巨大な樹の上だというのなら・・。


 50メートルの高さから落下しながら、お花畑めがけて破城角と一角尖を放った。

 地響きを立てて、お花畑が爆散して大きなクレーターが出来上がる。



 雷轟・・



 ついでに、雷渦も放っておく。


(おまけで・・)


 細槍キスアリスを取り出して、地面に突き刺した。


(カンディルパニック!)


 模写技の一軍を、3つとも使用した事になるが・・。

 模写技・陰の方は3つとも残っている。


(模写技・陽、付け替え・・砲仙花、酸粒雨、火爆粉)


 雷兎の耳で周囲の物音を分析しながら、破壊の程度を計る。


 レベルの上がった一角尖の貫通力は、表面に留まらずに対象物の奥へ浸透して破砕していく。わずか50メートル上方からの一撃だったが、かなりの深度まで到達しているようだ。


(む・・?)


 なんだか、土や岩石を破砕した音では無い感じだ。


(金属っぽい? いや・・ガラスのような?)


 どうやら、お花畑の下には、別の何かがあったらしい。雷兎の耳には、派手派手しい破壊音が賑やかに聞こえていた。


 ちらと見上げると、先ほどまで晴れ渡った青空だったのに、いつの間にか重たい雨雲のようなものが垂れ込めて来て、周囲を包み始めていた。


(・・何か来た)


 黒雲が渦を巻いて竜巻のように聳え立つ中から、大きな人影がゆっくりと外へ出て来た。


(トカゲ・・いや、ワニ人間・・?)


 大きなワニが二足歩行で立っている感じだ。黒光りする鱗肌に、黄金色の甲冑を着て、頭に兜をかぶり、手には槍まで持っている。


 背丈は、10メートル程度か。

 大きいけど、まあ驚くほどじゃあ無い。



『荘園を騒がす不届き者め・・』



 甲冑姿のワニ巨人が真っ赤に光る眼で睨み付けてくる。



「えと・・・ボク、悪いニンゲンじゃないヨ?」


 精一杯の笑顔で言ってみた。


 直後に、巨大な槍が降ってきた。電信柱より太くて長い黄金色をした槍だ。



『・・貴様』



 ワニ巨人の振り下ろした巨槍は、わずかにらされて地面を大きく抉っていた。それをやった張本人は、真珠色の細槍キスアリスを手にニコニコと笑顔を見せている。


 細槍キスアリスを手にしている限り、俺は槍の達人ですからね?

 槍技なら負けませんよ?

 まあ、技とか関係無いくらいの筋力の差があるんだけども・・。


「槍を構えたまえ、ワニ君。稽古をつけてあげよう」


 俺は、細槍キスアリスを手に笑みを浮かべて見せた。


 途端、ワニ巨人が大きな口を開いた。


「へっ?」


 ずらりと牙が並んだ大きな口の奥から、真っ赤に燃える何かが噴き出して来た。


(とっ・・遁光ぉぉぉぉっ!)


 紅蓮の炎が噴射される中、俺をかたどったしろはかなく燃え崩れた。


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