第105話 離宮戦
「応援? いったい、どこからだい?」
訊ねたのは、
「さあて・・あの方が来ると仰っているので・・まあ、来るんだと思いますよ」
苦笑気味に応えたのは、バロード・モンヒュール提督だった。
離宮の内郭の奥、小さな城館の一室である。
内郭門では、守る近衛隊と攻め寄せる賊軍側が激しくせめぎ合っている。離宮を取り囲んだ賊軍は、すでに3万人を超えただろうか。籠城している側は、わずか600人ほどだったが守りを重視した堅牢な城壁と、幾重にも張られた
加えて・・。
「ようし! 次、いけるよぉ~」
白金髪の
「南門が良さそうですな」
モンヒュールが近衛兵の偵察報告を受けながら
「南だね・・・おいで、大地に愛された
城館の上空に、大きな召喚陣が描き出され、眩い魔法光を放ちながら回転を始めた。
「召喚っ! 白亜の大巨人!」
鋭い声と共に、
ややあって、光輝く魔法陣を突き抜けるようにして、乳白色をした巨大な
「あぁ・・また東門の
少女が悔しそうに呟いた。
「我が国の者で、そのような者がおりましたかな?」
「普通の武器じゃ、
「他国が寄越した傭兵でしょう」
「どうかな? 例の奴隷狩りで雇われて、名の通った加護持ちが大勢命を落としたらしいよ? 用心して、どこの国も加護持ちを手放さないんじゃないかな」
「しかし、伯爵の子飼いに、高位の加護持ちが居るとは思えません」
「それは・・そうなんだよねぇ」
「ぉ・・」
『バロード・モンヒュールさんに、ご伝言でぇ~す』
宙空から蜜柑色の衣装を着た小太りの精霊が現れた。
「わぁ・・これって、なに? なんなの?」
「モンヒュールです。何でしょうか?」
『石の巨人は、敵か、味方か? どこから攻撃すれば良いのか? だそうですぅ~』
「返信をお願いしたい」
『はい、ですぅ~』
「
『承りましたぁ~』
蜜柑色の服を着た精霊が空気に溶けるようにして消えて行った。
「ちょっ、バロちゃん!? なんなの? 今の何っ?」
白金髪の
「いや、私も分からないのです。例の・・ユウキ殿が使役しているようなのですが」
「・・って、ユウキって子がディージェちゃんを助けた場所、
「さて・・あの伝言をする技は非常識なくらい遠くまで届くようなので、現在のユウキ殿の位置までは・・いや、巨人を目視できる位置まで来ているという事ですか。まったく、あの方は・・」
モンヒュール提督が苦笑いしつつ首を振った。
「私に会わせてくれるのよね? ね?」
「樹海からの親書を持参されているそうですから」
「おおっ、もしかして、ルティー?」
「御名前は存じ上げませんが、神樹様と呼ばれている方のようです」
「なら、ルティーナだよ・・・あ?」
「地揺れ・・ですかな?」
「いやぁ、これは・・」
白金髪の
「
「うん・・これ、内郭のどっかが破れちゃうかもね」
バルコニーから周囲へ緊張した視線を巡らせる。
「なんと・・」
「とんでもない衝撃波が押し寄せてて・・あら?」
軽く眼を見張った少女を
その眼前に、
「高い所から失礼します」
短く断って、女学生のような服装をした小柄な人影が降ってきた。
続けて、
「夜分にすいません」
「・・失礼します」
2人立て続けに空から降り立った。ユノン、デイジー、アーシェの3人組である。
「デイジーさん、障壁をお願いします」
ユノンの指示に、
「はいっ!」
デイジーが
「アーシェさん、大楯を出します。お二人の周囲に
「はい」
頷いたアーシェ・ラーンの眼前に、分厚い聖銀製の楯が重ね置かれた状態で出現した。アーシェがほっそりした見かけによらない怪力ぶりを披露して、大楯を設置していく。
『ユノンさんに、ご伝言でぇ~す』
話精霊がふわりと姿を現した。
「はい」
『落下地点近くで、ヤバい加護持ちと交戦中。支援している奴らが多くてウザい。思いっきり、毒々しいやつをお願い・・以上ですぅ~』
「返信をお願いします。爆心地を中心座標として発動予定。2分下さい・・以上です」
『承りましたぁ~』
話精霊が笑顔でお辞儀をして消えて行く。
「ミルクラーレ・ゼン・ルギィーン・ブーン・・」
ユノンが小声で呪を唱えながら、両手を頭上へ掲げた。そのまま双眸を閉じて祈るように俯く。
「まさか、精霊語?・・君はいったい?」
白金髪の
「ジギルド・ノルデスモーダ・キル・デギン・・ヨーン!」
ユノンが、再び呪文を唱え始めた。
掲げたユノンの右手から黒々とした
「・・バーズ!」
左手からも同様に、黒いものが噴き上がって上空を漆黒の闇に覆っていく。
「舞え、歌え、踊れ・・呪怨の下僕達よ・・生きとし生けるものを供物とし、冥府の神々に捧げ奉れ・・我はクーン。死出を祀る者なりっ!」
「クーンですって!?」
白金髪の
「
ユノンが高らかに宣言した。
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