第104話 救出&救出
(なんか、こんなのばっかりだな)
俺は半ば呆れながら夜空のお月様を見上げていた。
ケープ湖という綺麗な湖の近くにある石館で、ディージェ・センタイル、ヨーン・ミッターレ、リリン・ミッターレ、カイル・ルーランダ、マウレス・モレッタ、クリーナ・ナイジル、パトレイ・マーダの7名を救出し、その治療を終えた所である。
なお、湖畔に聳え立つ石館の所有者は、トーロス・オーギンスという、チュレックでは "殿下" と呼ばれる身分の男だった。
救出の経緯は割愛するが、オーギンス殿下が男子を引退した事だけは記しておく。
今は、バロード・モンヒュール提督に当てて、話精霊で救出成功を報せたところだ。
『返信ですぅ~』
蜜柑色の服を着た精霊が姿を現してお辞儀をした。
『救出感謝。ミッターレ、ルーランダ両家に伝令を出した。そちらに迎えが向かう』
「・・だってさ」
俺はディージェを見た。
「申し訳無い」
ディージェ・センタイルが硬い表情で頭を下げた。
「いつもの護衛さんは?」
「バウラーは提督と共に離宮へ向かった。レイランは・・
「話精霊、カモン!」
『ご伝言ですかぁ~?』
蜜柑色の精霊が現れた。大車輪の忙しさである。
「レイラン・トールに伝言」
『う~んと・・う~んと・・あっ、発見しましたぁ!伝言できますよぉ~』
「ケープ湖の湖畔、オーギンスの館でディージェ・センタイルを救出した。至急、帰還して保護して欲しい。以上」
『承りましたぁ~。代金は5000セリカになりまぁす』
「遠いんだね・・オッケー」
『口座から引き落としになりまぁ~す』
「はいよ」
『ご利用ありがとうございましたぁ~・・・レイラン・トール様から返信でぇす!』
蜜柑色の精霊がお辞儀の間も無く声をあげた。えらく早い。
『救出感謝します。ただちに向かいます。御礼は後ほど改めて・・以上でぇす』
「・・すぐ来るってさ」
俺はディージェを見ながら笑った。ディージェ・センタイルの顔が引き
代わって、
「そ、そこの・・騎士よ!」
何やら声を張り上げた老女が居たが、
「じゃあ、俺達は離宮へ向かうよ。ここは任せるね」
俺はディージェの肩を叩いて歩き出した。
「待たれよっ! 憂国の騎士よっ! 我らが姫君が感謝の意を伝えたいと申されておる! 有り難く拝聴するが良い!」
「デイジー、アルシェ、体調はどう?」
俺は2人に声をかけた。
「魔力も戻りました。いつでも行けます」
「おかげさまで、もう大丈夫です」
デイジーとアルシェが穏やかな表情で告げる。言葉だけで無く、血色が良く表情も明るい。
「ユノン?」
「周囲に動く物はいません」
探知の魔法を使っていたユノンが小さく頷いて見せる。
「騎士よっ! 待たれよっ!」
老女が猛然と駆け寄ってきた。
「・・誰?」
俺はうんざりした眼差しを向けた。
「だ、誰では無いっ! 忘れたと申すのか!」
相も変わらず、賑やかな老女である。どうして、チュレックはサメの餌にしてしまわなかったのか・・。
「おや? そういえば、自称、ガーナルの姫君ではありませんか? ごきげんよう?」
俺は、驚いた表情を浮かべて老女の顔を眺めた。
「そ、その節は・・あれは方便でな・・つまり、私はマーダと申す者で、姫様の侍女長なのだ」
「おやっ? ガーナルでは、侍女が姫君を詐称することが
「い、いやっ、あれは・・あの時は仕方の無い事情ゆえ・・」
「あぁ~・・事情があれば姫様を詐称しても赦される国なんですね? ところで・・どうして、その姫様が閉じ込められていたんです?」
「それは・・オーギンス殿下が無理なことを申した故に・・」
「じゃ、緊急の用があるので失礼しますね」
俺はひらひら手を振って歩き出した。すぐ後ろに、黒一色のユノン、そして、聖衣姿のデイジー、旅外套を着たアルシェと続く。
「待たれよっ! 騎士殿っ!」
老女の声が追いすがるが、
「ゲンザン!」
俺は構わずに大きな声を出した。
すぐさま、上空から大翼を拡げて9人の人影が舞い降りてきた。
「御大将」
「王都の北西にある離宮へ急ぐ。網を頼む」
「はっ!」
ゲンザンがすぐさま配下の
超が付く、原始的人力飛行システムだ。
籠を載せた大網の四方を
(まあ・・とんでもない力だよね、これ・・)
今さらながら、
瞬く間に雲の高さにまで上昇すると、ぐんぐん速度を増して飛翔を開始した。
「どのくらいで着く?」
ゲンザンに訊くと、
「2・・30分ほどでしょう」
とんでもなく速い。
「話精霊、カモン!」
『はい! ご伝言ですかぁ~?』
「バロード・モンヒュールに伝言したい」
『う~んと・・はい、発見しました。伝言できますよぉ~』
「離宮に急行中。到着まで30分。今の状況を教えて・・以上」
『承りましたぁ~。代金は500セリカになりまぁす』
「わかった」
『口座から引き落としになりまぁ~す』
「はいよ」
『返信でぇ~す』
「なんだって?」
『賊軍は、離宮外郭を突破。守兵側は内郭内にて籠城中。味方は近衛兵のみ、装備は白銀に青っ! 以上でぇ~す』
話精霊がにこやかにお辞儀をしながら消えて行った。
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