第103話 稀少種
「
俺はデイジーに
「ランドール教会では、そう呼んでいました。樹精が妖精種に宿って産まれてくるのだと・・私も初めて見ます」
デイジーが治癒光で光る手を女の胸元へ当てながら言った。
「ふうん・・珍しいんだな」
寝台で寝ている女を見る。
二十歳そこそこのデイジーより、ちょっと年上。二十四、五歳くらいだろうか。濃緑の髪をひっつめて頭の後ろで団子にしている。すらりと背丈がある大人っぽい美人さんだ。
理知的な綺麗な顔立ちだが・・。
「おでこに・・」
縦に筋が刻まれている。
「霊瞳ですね。花妖は
「三ツ眼なんだ?」
「はい。通常の瞳とは違うらしいですけど・・」
「ふうん」
「霊瞳が不老薬の素材になるという噂が広まって、ガザンルード帝国の皇帝が献上を命じたために、かなりの数の花妖が捕らえられて犠牲になったと・・60年ほど前の事ですが」
デイジーが読んだ記録によると、5千人近い花妖が狩り集められて不老薬作りの犠牲になったそうだ。
「その皇帝は生きてんの?」
「50歳で老衰死・・と書かれていましたね。前後でお家騒動があったようですから、事実は不明ですけど」
「・・ふうん」
未だに続いている奴隷狩りの風潮は、その時の名残だろうか。
(ガザンルード帝国か・・)
当然、良い人も住んでいるのだろうけど・・俺の中では最悪の印象値である。
「というか、この人、おでこを隠さないと駄目でしょ。バレたら奴隷狩りに狙われるじゃん」
「ここ、チュレックの初代様・・フレイテル・スピナ様は、
「フレイテル・スピナって、国母様?」
「はい」
「それは・・偉い人だな」
チュレック王国の国母様・・まるで興味が無かったが、急に会うのが楽しみになってきた。
「モンヒュール提督か、センタイルさんに、この方の保護をお願いした方が良いと思います」
「そうだね・・でも、売り先は、チュレック国内の貴族らしいけど大丈夫かな?」
俺は聞き取った会話を記した手帳を取り出した。
「チュレックの貴族・・そんなことが?」
デイジーとユノンが手帳に書かれた会話録に眼を走らせる。
「コウタさんの精霊で、ドルクーレ・・と、ギパースについて、訊いてみた方が良いですね」
デイジーが昏い表情で呟いた。
「話精霊、カモン」
『ご伝言ですかぁ?』
蜜柑色の服を着た小太りの精霊がにこやかに現れた。
「バロード・モンヒュールに伝言を頼む」
『う~んと・・あっ、発見です。伝言できますよぉ~』
「ドルクーレという貴族についての生殺与奪権を俺に与えて欲しい・・以上だ」
『承りましたぁ~。代金は500セリカになりまぁす』
「わかった」
『口座から引き落としになりまぁ~す』
「うん、もう一件頼むよ」
『どなたに、ご伝言ですかぁ~?』
「ディージェ・センタイル」
『うぅ~~ん・・あっ、発見しましたぁ! 伝言できますよぉ~』
「ドルクーレという貴族に仲間を掠われそうになった。以上だ」
『承りましたぁ~。代金は5000セリカになりまぁす』
「遠いんだな・・わかった」
5000セリカもかかるとか、どれだけ遠方なのか。
『口座から引き落としになりまぁ~す』
「オッケー」
『ご利用ありがとうございましたぁ~』
蜜柑色の精霊が丁寧にお辞儀をした。すぐに顔をあげる。
『返信でぇす』
「どっちから?」
『ディージェ・センタイル様から、水牢に幽閉されている。救出求む・・ですぅ~』
「・・は?」
『返信でぇす』
「・・なんだって?」
『ドルクーレ伯爵は、現在、国母様の離宮に向けて騎士団を動員中・・守兵側はディージェ他、貴族の子息を捕縛し、人質にしていて足並み揃わず。国母様の救出をお願いしたい・・以上になりまぁ~す』
にこやかに告げて、蜜柑色の精霊が消えて行った。
「おぅのぅ・・何か起こってるみたい」
俺は困惑顔で、ユノンとデイジーを見た。
「町は静かですけど・・」
ユノンが窓辺に寄って外の様子を眺める。
「離宮は・・ここから北西側ですね。馬車で3日ほどの位置かと」
デイジーがチュレック王都の地理を思い起こしながら言った。
「国母さんを助けに行くのは決定として、ディージェはどこだろ? 水牢とか言ってたけど・・」
「ドルクーレ伯爵の城館でしょうか?」
「・・事情を知ってるディージェが、救出を依頼してくるってことは人質の方も危ないんだな」
俺は少し考えて、ふと寝台の女を見た。
いつの間にか眼を覚まし、こちらに双眸を向けていた。双眸の瞳は綺麗な灰青色をしていた。額の瞳は閉じたままだ。
「・・起こしちゃった?」
「既往の病は治療しておきました。肺は・・どうですか?」
デイジーが優しく声を掛ける。
「貴女が・・聖法を?」
何かを確かめるように、そっと声を出した感じだった。
「問題無さそうですね。私はデイジー・ロミアム。ランドール教会を破門された身です。今は、こちらのコウタさん、ユノンさんと行動を共にしています」
「・・私は、アルシェ・ラーン。
声が出せなくなるほど胸が痛み、呼吸困難に陥ったまま医者の役宅に運び込まれていたところに、クーランスの男達が襲って来たらしい。
「ラーンさん、家は・・安全? 家族は?」
俺の問いかけに、
「どうでしょうか・・夫に先立たれてからは静かに暮らしていましたから・・声が出せなくなって、あまり家から出ないようにしていたので、ご近所様とはお付き合いが薄かったのです」
「ふうん・・なら、デイジーと一緒が良いね」
「そうですね。まだ万全では無いでしょうから」
デイジーが頷いた。
「デイジーは大丈夫?」
「体調は戻りました。聖術は問題無く使えます」
「顔色も良いし・・大丈夫そうかな?」
見ると、ユノンが微笑して頷いている。
「まず、人質になっているというディージェ達を助け出し、その後で離宮のフレイテル・スピナさんを助ける」
「・・間に合います?」
ユノンが不安げに訊く。
「どうかな・・ただ、国母さんを助けても、人質が死んじゃったら怒られると思うんだよねぇ」
「人質の・・水牢の場所に心当たりが?」
デイジーが、アルシェ・ラーンを助け起こして、予備の靴を履かせ、
「当てずっぽうだけど・・」
ロンツ・ギパースの屋敷地下か、ギパースが所有している土地の何処かだろう。場所は、ディージェか、モンヒュール提督が知っているはずだ。
「話精霊、カモン!」
『ご伝言ですかぁ~?』
蜜柑色の服を着た精霊がにこにこしながら現れた。
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