第94話 迷宮の不思議
初迷宮である。
俺も、ユノンも、デイジーも迷宮は初めてだった。
「・・少し前まで、迷宮は自然発生する魔物の巣窟だと言われていました。しかし、最近の研究では、神代の遺物・・この世界に遺された巨大な魔導器なのではないかと・・天然自然の物では無いだろうと考えられるようになりました」
「ふうん・・」
デイジーの説明を聞きながら、地下1F、2F・・と進んで行く。
ただ、ここが奇妙な場所だということは実体験として理解できていた。
なにしろ、
(ゲームのような感じかな?)
そう思い、試しに
(・・なるほどな)
順を追って
(壁や床は、一瞬だけ削れて見えるけど・・すぐに元に戻る)
壁や床は石のようだったが、有り得ないくらいに硬い。ほんの少し切り込みや亀裂を入れることが出来るけど、すぐに元通りに復元されるのだった。
(魔法なのかな?)
天井だけが、ぼんやりと光っていて、なんだか街灯の暗い夜道を歩いているようだった。
地下10階に降りたところで、
「これが迷宮ですか」
ユノンが感心したように呟いている。
「どこかの荘園だと言われたら信じてしまいそうです」
デイジーが注意深く眼を
天井らしい物は消え去り、振り仰いだそこには太陽のような輝きがある。右を向いても、左を向いても壁が見当たらない。ただ、降りてきた螺旋階段だけがあった。
足下は、膝丈くらいある草が茂っていた。そんな中、遠くに低樹が一本だけ生えている。
「まあ、あの樹に行けってことだろう」
「そうですね」
ユノンとデイジーが視線を左右するが、他には何もめぼしい物が見当たらない。
「足下・・地面の下を魔物が移動しているから気をつけて」
俺は2人に声を掛けながら、手にした
心音はほぼ聞こえない。ただ、土中を移動する際に押しのけられる土石の音が聞こえていた。
「全部で5匹かな・・」
上手く音を消しているのが居るかもしれないが、とりあえず5匹分の音は拾えていた。
「草に隠れて小さいのも近付いて来ている」
「虫です?」
「たぶんね」
音を聞き分けながら俺は頷いた。
「デイジーさん」
ユノンがデイジーを見た。
「普通の毒であれば大丈夫です」
「では・・」
ユノンの手から卵くらいの小袋が連続して放り投げられた。すぐさま、小さな破裂を起こして空中に灰色の粉が撒き散らされる。
「効きました?」
「うん・・動きは遅くなってる」
この毒の怖いところは、毒に冒された自覚が無いまま、動きが
「下の奴、なかなか出て来ないな」
俺は手にした
俺の方に来るか、残った2人を狙って来るか・・。
(・・来た)
何のスイッチが入ったのか、地中を移動している5匹が俺めがけて殺到してきた。
(おっ・・と)
斜め後ろから、吸盤のような口を拡げた魔物が勢いよく出現した。口腔の内側にびっしり牙が生えている。
(まあ、何度か見たよな、こういう奴・・)
岩のような肌をしたミミズっぽい
俺は
獲物の不意を突いて襲っているはずの岩ミミズだったが、まあ今の俺にとっては脅威にはならない。
「行きます」
ユノンの声に、
「はいよっ!」
俺は目の前から喰いかかってきた岩ミミズを
直後に、足下に黒々とした魔導陣が描き出され、薄らとした影のようなものが噴き出す。みるみる内に凝縮されて巨大な骸骨を
ボアァァァァァァァァーーーーーー
いきなり低く腹に響くような音が鳴り響き、真っ黒な突風が下から上へと噴き上がった。
岩のようなゴツゴツとした皮膚をした巨大なミミズ達が、黒い風に巻き込まれて触れた所から
ややあって、黒い突風が収まった時、巨大な岩ミミズは消え去り、ブロック状の赤身肉と、乳白色の玉が落ちていた。
俺が囮になって釣り、敵を集めたところでユノンが魔法を撃ち込む。その間、敵の攻撃をデイジーの
ほぼ流れ作業と化した手順で、大抵の魔物は撃破できた。
「解体しなくても、勝手に遺品が出てくるって・・便利だけど、違和感しか無いな」
俺は、ぶつぶつ言いながら、肉塊と玉を拾って収納した。
「迷宮が作り物だと言われる由縁ですね。やはり、自然に出来た物とは思えません」
デイジーも首を傾げている。
「今のは、何という魔物ですか?」
ユノンに
「
「お魚でした?」
「らしいねぇ・・どう見てもミミズっぽかったけど」
「私は、
デイジーが呟いた。
「地下10階ですけど・・
「さあ・・まだ見かけないね」
大騒ぎをして外に飛び出してくるくらいだ。危ない奴が潜んでいるんだろうとは思うけど・・。
「ここまで出会ったのは、
ユノンが帳簿を読み上げた。
「どれも・・魔族って感じはしないよね?」
「外でも見かけるような魔物の亜種といった感じですね」
「先に入っている
やたらと広い空間で、降りてきた階段と、ぽつんと生えた樹の他は何もないけど。
(あの樹かな・・)
仕掛けがあるとしたら、意味深に生えている樹だろう。
「ユノン、あの樹を狙ってみて」
「分かりました」
ユノンが呪文の詠唱を始めた。時間はかかるが威力は抜群、動かない目標を攻撃するには素晴らしい火力をお持ちなのだ。
その詠唱を聴きながら、
「
デイジーが真剣な顔で護りの魔法を唱え始めた。
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