第93話 狩猟協会へ行こう!
(これが
建物は古びているが、三階建ての大きな木造建築物だ。
ようやく、外の人間の暮らしを体験できるかと思うと、なんだか胸が熱くなるようだ。
チュレック界隈の
(さすがに、俺達が一番強いとは思えないけど・・)
世の中、上には上が居るものだ。油断はできない。
「コウタさん?」
ユノンとデイジーが建物の戸口で振り返った。
「え?」
「なんだか、お休みみたいです」
ユノンが扉の取っ手を動かしながら言った。
「・・・は?」
「鍵がかかってます」
デイジーが断定する。
「なんだってーーー!?」
俺は声を上げた。
許されざる事態である。駄目でしょう?
休みとか何言ってんの?
魔物がそこら中に居るんでしょ? 狩猟者は毎日戦ってるんでしょ?
「でも・・なんだか、看板が傾いてます?」
ユノンが小首を傾げる。
言われてみれば、確かに・・。
玄関扉の上にある看板は風雨で薄汚れて傾いていた。
「迷宮の町なのに・・なんで?」
どうして、こんなに閑散とした雰囲気なんだ? もっとこう荒くれ狩猟者で熱く滾った感じじゃ無いの?
呆然と立ち尽くした俺に、
「あんた達、
杖をついて散歩をしていたらしい老婆が声を掛けてきた。
「うん、王都から来たんだけど・・」
「組合は、もう随分と前に迷宮の中に移転したんだよ」
「迷宮に?」
俺は大急ぎで老婆に近寄った。
「町の北側にあるから行ってごらんよ」
「・・うん、ありがとう!」
老婆に礼を言って、迷宮区だという町の北側へ行ってみた。
町そのものに入る時より立派な石壁があり、門があって、ちゃんと門番が仕事をしていた。
無論、
古びた石造りの廃墟のような建物があり、出入り口を塞いだ
(ふうん・・?)
扉を入ってすぐのフロアは、広々とした天井の高いホールになっていた。向かって右手には、狩猟者組合の看板が立ててあり、サーカス団みたいな大きなテントがあった。
左側は、テントというか、骨組みに布屋根が張ってあるだけの商店が並んでいるようだ。ノミの市のような光景だった。
迷宮は、正面奥にある格子戸の向こう、下に続く石段を下りた先なのだろう。
「ここは、
俺が言うと、
「
ユノンとデイジーが顔を見合わせた。
「まず間違いなく
必ず
「行くのは止めますか?」
ユノンが言ったが、
「ふふふ・・こういうイベントは逃げたら駄目なのだよ」
俺は首を振った。
何事も初めが肝心なのだから。
「よし行くぞ」
俺は先頭に立って
その時、
「魔族だっ!」
「魔族が出やがったっ!」
口々に叫びながら、迷宮口から武装した男達が駆けだして来た。どこかで擦りむいたのか、額やら肩やらに擦り傷があり、少し血が流れているようだった。
「王都へ応戦要請を!」
立ち尽くす俺達の前を素通りして、男達が
「どいてくれっ!」
組合のテントから飛び出してきた大男が、俺を突き飛ばすようにして外へと駆け出て行った。
「・・みなさん、迷宮の外へ行くみたいですよ」
デイジーがきょろきょろと騒動を眺めながら言った。
組合の職員らしい連中も、物品の売買をやっていた連中も、貴重品箱らしい物を抱えて、我先に外へ避難していく。
「私達も外に出ますか?」
ユノンが
「・・まあ、逃げたら駄目かなぁ」
俺は静まり返ったホールを見渡しつつ、個人倉庫から
「防御の魔法を掛けますね」
デイジーが魔法の呪文を唱えつつ、俺とユノンの背に触れる。
「何が出たのか知らないけど・・様子くらい見ておこう」
俺は迷宮に続く地下階段を覗き込んだ。
思ったより明るい。円筒状の壁の中を螺旋階段が続いていた。
「逃げ出して来たのは2人・・でも、2人だけしか降りてないとか無いよね?」
「魔族と言っていました。本当に、森の外にも魔族が出るのですね」
ユノンが感心したように呟いた。
「迷宮には、そうした場所があるそうです。ただ・・そこまでの魔の気配は感じないですけど?」
デイジーが首を傾げる。
「とにかく警戒しながら降りてみよう。っと、その前に・・」
石段の脇に掲示板があり、その横には帳簿が置かれた小机があった。
開いて見ると、日付と狩猟者の部隊名、個人名の列記がしてある。
(登山記録みたいな物か・・)
迷宮に潜る際に書いて行くのだろう。
「書いておきます?」
ユノンが帳簿を覗き込みながら言った。
「そうだね。ここの決め事みたいだし・・頼める?」
「はい」
帳簿を受け取ったユノンがサラサラと記入していく。
「
「ん・・死告天使で」
「ノルダヘイル・・冥府の番人ですね」
「へぇ、こっちにも居るんだ?」
「居る・・というか、神話の中で、そうした存在として語られている古代の
「死告天使・・
「
ユノンが微笑した。
「・・そうですね。確かに・・」
デイジーも頷いた。
「じゃ、そう書いておいて」
「わかりました」
ユノンが帳簿に書き込んだ。
「よし・・それじゃあ行こうか」
俺達は、冷え冷えとした空気が流れてくる石の階段を降り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます