第80話 妖獣マラソン
俺は短距離走者です。はい、長距離は苦手なんです。
瞬発力と一発芸に命賭けてます。
なのに・・。
(おっかしいだろ・・?)
黒衣の骸骨と巨大怪獣が、しつこくしつこく俺の事を追いかけ回してくるのだ。
もうね、色々やった後です。
雷轟も、一角尖も、カンディル・パニックも使っちゃいました。
模写技を入れ替えてからの、猛毒、激痛・・。
かなりのダメージを叩き込んだという自負はあります。
(なんだけども・・)
どうやら悪い方の予想通り、時間で再生だか回復だかをするらしい。骸骨さんも、怪獣さんも・・。
それでも、完全に再生できていないのは、無限に回復できるわけでは無いからだろう。
巨大怪獣など、すでに赤黒く全身が変色し、傷口から体液を
まあその分、俺に対する憎悪は
戦いの場所は、相変わらず港から丘へ続く小路の上。巨大怪獣と黒衣の骸骨を引き連れてのマラソン中だった。
(援軍はまだかなぁ・・?)
次々に
着実に仕留めているようだから、いずれは応援に駆けつけてくれるはずだけど・・。
(もう、体がきっついんです)
集中力が途切れそうです。眼がしばしばしております。もう歳なんですかねぇ?
そろそろ3時間くらい経ちますかねぇ?
休憩して団子とお茶を楽しみたいですねぇ・・。
「ぶわぁっ!?」
ぼんやりした思考に浸りかけていた俺の視界に、黒々とした影が覆い被さってきた。反射的に振り仰いだ上空いっぱいに、肉の膜が巨大に拡がって襲ってきていた。巨大怪獣の口が肉の膜のように変形して押し包んできたのだ。
(投網かよぉーーー!)
遁光か、このまま走って逃れるか。
迷いつつ、黒衣の骸骨を振り返ると、右手と左手にそれぞれ魔法光らしきものを、ちらつかせていらっしゃった。
もう模写技は空っぽ・・。
今夜零時まで模写技の変更ができない。
(・・ご飯くらい食べさせて)
もうお腹ぺこぺこですよっ・・と。足を止めて穂先を後方へ大きく向け細槍を構える。
(頼んだ、キスアリスっ!)
上空から覆い被さってくる薄い肉膜めがけて
俺の槍を、その辺の棒っきれと一緒にして貰ったら困りますよっ!
透明な穂先が大きく伸びて大気を切り裂く。
肉膜を真っ二つに切断するや、そのまま横薙ぎに黒衣の骸骨を腰骨から切断していた。
(どうせ、回復するんだろうけど・・)
大急ぎで死地を抜け出して小道を走る。丘の方をめざして・・。
『コウタさん! コウタさん!・・』
「はいよっ」
返事をしつつ、身を屈めて怪獣の口を回避する。
『丘の上に到着しました。その
「アナン教団の教団長だった人が骸骨になった」
俺は遁光術を使って吹き寄せてきた火炎を避けた。視界の隅を、腰から下を失ったまま、黒衣の骸骨が宙に浮かんで追ってくる。
『アンデッド化・・いえ、降ろしたとしたら死霊の・・』
「デカい怪獣は、飛び散った血が地面を腐らせる。口が身体の倍以上も伸びて食い付いてくる。色が赤黒くなって素早くなった。あと、たぶん・・吐く息にも毒か・・酸がある。草が枯れたし、虫が死んでた。こいつ、悪疫の塊だ」
『わかりました。みんなに伝えます』
「どうする? 俺、手持ちの大技は使い切っちゃったけど?」
『死霊の方をデイジーさんとロートリングさんに抑えて貰っている間に、大きい方を私が』
「どうやんの?」
『そこの、道の横にある岩・・』
「これ?」
俺は岩の近くへと移動した。
『はい、そこを中心に魔法を放ちます』
ユノンの魔法は、特定の場所を狙い撃つタイプだ。
「何分?」
ユノンの場合、魔法詠唱に時間がかかるのだった。
『5分ください』
「おっけ~」
これまで、ずうっとマラソンをやっているのだ。5分くらい何でも無い。
(お・・)
不意に、青白い光がスポットライトのように伸びてきて黒衣の骸骨を照らした。
途端、白煙をあげて骸骨が
続いて、風の
何発か骨を砕いたようだが、すぐに一発も当たらなくなる。黒衣の骸骨が片手をあげて防壁らしきものを展開しているようだった。ほぼ無色透明のようだが、
(・・なんか、悔しい)
魔法戦ってやつ? 格好いいよね? 憧れちゃうよね?
(どうして俺は兎シリーズなの? いや・・強いよ? ハマれば無双しちゃうよ?)
でもなぁ・・。
なんか違うんだよなぁ・・。
などと考え事をしていると、赤黒く変色した巨大怪獣が、
「うおっ・・と」
危うく飛沫を回避しながら、続けざまに吐き出される液体を避ける。
(強酸・・?)
地面に触れるなり溶解音をたてて湯気を立ちのぼらせている。
黒衣の骸骨をデイジー達が遠くからの魔法攻撃で足止めしてくれているおかげで、巨大怪獣だけに集中できる。
これは楽だ。
(ばっちり、岩の真上っ!)
巨大怪獣が俺を追いかけてユノンが指定した地点へと到達した。
その時、耳をつんざくような雷鳴が
視界が眩い雷光に覆われる。
(遁光っ・・)
大急ぎで脱出した。さらに、雷兎の瞬足で駆け抜ける。背後に、巨大な雷の柱が出現し、激しいスパーク音を鳴らしながら地面を灼いている。あの巨大怪獣が完全に包み込まれるほどの巨大な落雷だった。
(凄い・・けど、まだ死にきらないかな?)
俺は
すうっと雷光が薄れるにつれ、炭化した巨体が見えてきた。
(・・そこか)
消し炭の小山のような巨体に、まだ灼けきっていない部位が残っていた。
破城角っ・・
俺は頭から突っ込んで行った。
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