第68話 沿岸警備隊


 俺は沿岸警備隊コーストガードを結成した。

 沿岸というのは、大河に沿った河岸のことだ。

 樹海に侵入するための上陸地になるだろう場所を探しながら、上陸者の痕跡が無いかどうか警戒しているのだ。


 延々と続く河岸だから、どこからでも上陸してきそうなものだったが、平均して50メートル近い深さのある強い流れをした大河で、生命力の強い魔物が多く、とりわけ夜間には一撃で大型帆船を大破させるような大型の魔物まで現れる。大河を行き来する帆船は日の出から日の入りまでしか航行しないのが通例で、そのための港町が河に沿って作られていた。


 俺が小屋を建てて貰った港は、沿岸警備隊コーストガードの基地港として俺の所有にした。

 湾処の出入り口にあった魔物除けの結界魔導器は、ロートリングが接近する物を報せる警報器アラームに改変した。

 魔導の階層がどうたらこうたら色々と難しい説明を長時間に渡って受けたが・・俺が理解できたのは、ロートリングは重度の魔導オタクだったという事だけだった。


 やや上流部の樹海から流れる河の河口部にも、警報の魔導器と見張り小屋、ユノンの得意とする呪陣の罠が仕掛けられた。


「・・よろしい」


 俺は食卓の上に置かれた地図を前に頷いた。


 一通りの防衛準備は整った。

 

 ・・たぶん。


 なので、もう少し行動範囲を拡げてみよう。


「どちらかへ出向かれるのですか?」


 ロートリングは、堅苦しい言葉使いをするようになった。これは性分らしいので、矯正は諦めた。


「河を行き来する船を沈めよう」


「・・え?」


 デイジーが思わず訊き返した。


「船を沈める」


「目的は何ですか?」


 デイジーが訊いてきた。


「嫌がらせ」


「え・・?」


「俺の知り合いの女の子とか、裸で吊されたからね。ガザンルード帝国にも、セインテイル王国にも、もちろん奴隷ギルドにも、きちんと仕返しをしないと気が済まない」


 樹海に来る奴をただ退治するだけとか、どれだけ受け身なのか。森の長や獣人達の事は嫌いじゃないが、樹海から出ようとせずに、ひたすらまもろうとする姿勢は、ちょっと性格的に合わないのだ。


「誰か、河を行き来する船を沈める方法を知らない?」


「・・・魔法の射程まで近付いてくれれば何とか」


 ロートリングが思案顔で言う。


「それって、向こうの魔法も届くよね?」


「え・・ええ、そうなりますね」


(・・駄目じゃん)


強弩バリスタというのはどうでしょう?」


 ウルフールが提案した。


「弩・・相手より良い弩を持ってるの?」


「いえ、残念ながら外の者達の方が武具においては優れております」


「・・駄目じゃん」


 逆に向こうから撃たれるだけじゃないか。頭にうじでも湧いてんのか、この鬼人族は・・・。


 俺は、一方的に攻撃をやりたいのだ。相手からは届かず、こちらからは届く・・そういう攻撃手段が欲しい。

 俺の模写技で得た技・・というより他の人が使う魔法も含めて、射程というのか、到達する距離が短い。せいぜいが100メートル。破城角で物を弾き飛ばして、上手くいって180メートルとかだった。射程が長いというロートリングの風精霊でも似たようなものだ。

 俺が思っていたほど、魔法というのは万能じゃ無い。

 森の民エルフに弓矢の方も色々と試して貰ったけど、100メートルの距離で狙った所に当てられる人はとても少なかった。実際、移動しながらだと、上手な人でも、50メートルくらいかも・・。


(そう考えると、この世界だと飛竜ワイバーンは優秀な戦力だな・・)


 魔法や矢が届かない上空をホバリングして、運んできた毒やら油壺、毒を塗った鉄片なんかをいても面白いだろう。


「ロートリングは空は飛べないの?」


「・・空を?」


「え?・・魔法って空を飛べるでしょ?」


「落下の速度を落とすものは御座います。ただ、完全な飛行となると・・いえ、古の大賢者であればあるいは・・」


 ロートリングが思案顔で考え込んだ。


(マジですか・・ただ、空に浮かぶだけの魔法が、そんなに大変なの?)


 この世界、魔法のレベルが低過ぎませんかねぇ? 空飛ぶ魔法とか・・それこそ、ほうきで空を飛ぶとか、魔法使いの初歩じゃないの? ちっちゃい女の子が頑張って飛んでる映画とか見たことあるけど? こっちの魔法って、なんかおかしくない?


「鬼人族に伝わる体術の極みに、空気を足場に蹴って跳ぶという技があると聴いたことがあるのですが・・」


「ウルフールはできる?」


「いえ・・いまだ、この眼で見たことはございません」


「師匠とか、先生とかは? だれか出来る人は居ないの?」


「・・残念ながら」


 鬼人がうつむきがちに首を振る。


(駄目じゃん・・)


 俺は太いめ息をついた。


 実は、ウルフールが言っていたような事は俺にも出来る。ただし、模写技を使えば・・の話だ。


(でもなぁ・・)


 連戦になると、模写技の使用枠はとても大切になる。短時間、宙を走れる技で1枠を消費するのは勿体ないだろう。1回に設定できる模写技は3枠。1日に1回の付け替えが出来るが、それを考えても、できれば6枠総てを攻撃系に特化しておきたい。攻撃手段はどれだけあっても困らないのだ。


(そう言えば・・俺って射程の短い技しか無いね)


 雷轟が一番射程が長いんじゃ・・?


(・・なんか、まずいよね)


 俺って、遠いところからチクチクやられたらむんじゃないかな?


(凄い飛び道具とか・・そういう技が欲しいなぁ)


 樹海には、そういう襲い方をしてくる魔物がいない気がする。10メートル前後の距離から酸を飛ばす巨大蟻や、20メートルもの舌を伸ばしてくる魔物蛙トードは居たが・・。


 理想は、数キロメートル・・・大河の対岸を狙い撃てるような攻撃手段は無いものか。


 もうちょっと、樹海の奥地を探索するべきか?


 湿地帯、虫地獄、その先の赤錆みたいな大地・・。さらに先には、もっと違った魔物がんでいるのかもしれない。


「鳥人族に助力を求めてはいかがでしょう?」


 ユノンが提案してきた。


「・・へ?」


 なんですか、その空を飛べそうな名称の人達は? 顔が鳥なだけの獣人じゃ無いよね?


大鷲オオワシ族の方々が・・数は少ないのですけど、暮らしていらっしゃいます。森を護るためなら力を貸してくれると思うのですけど」


「ほほう?」


 なんだか良さそうじゃないですか?


「しかし、あの者達は先々代の森の長と主権を争ってたもとを別ったと聴いています。血も流されたとか・・」


 ロートリングが難しい顔で呟くように言った。


「ふうん・・」


 主権を争うくらいだから、何かしら能力が高いのだろうか。


「しかし、あの者達は力無い者には従いませぬ。助力を得るためには、相応の力を示す必要が御座います」


 ウルフールが気遣きづかわしげに俺を見ながら言った。


「・・・俺が?」


 なんか危なそうな話ですけど・・。そういう時こそ、ウルフールとかの出番じゃないの?


「長たる者の力を見せよと・・我が曾祖父と争った時にも同様の事が御座いました」


 ロートリングが、切れの長い双眸でじっと見つめてくる。


(えぇ・・これ、やらなきゃ駄目な流れ?)


 俺は、ちら・・と、婚約者の顔を見た。


「森の長と大鷲オオワシの族長の戦いは、三日三晩に及んだそうですよ?」


 ユノンがいつもの表情の薄い顔で言った。


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