第67話 ゴロゴロ?
「
低く
距離にして80メートル、岩の陰に鬼人族が
「コウタ殿」
すぐさま手を挙げて見せる。
「コウタさん」
デイジーの声は150メートルの
(男の声が聞こえ難いな・・一番、近いんだけど)
逆に、女性陣の声はよく聞こえる。
いや、決して、女の子の声だけを聞き取ろうと頑張っているわけじゃ無い。ちゃんと公平に耳を澄ませている。鬼人のウルフールの声と、デイジーの声が同じくらいのボリュームで聞こえた感じだった。
(ふむ・・)
傍らに控えているユノンに、その事を告げ、すぐさまユノンが備忘録に記入する。
ただ今、俺の身体能力の検査中だった。
いわゆる聴力測定というやつだ。
風下、風上に位置を変え、低い声やら高い声、
なお、ウルフールは我が家の使用人になっていた。
損壊した家屋の修理が終わるまで手伝えと言ったら、家の修理が終わった今になっても立ち去る気配が無い。まだ、
「元より、長の決定に背いた以上は、部族の元へは戻らぬつもりで出て参りました」
婚姻話の破談は、
押し問答が面倒になって、好きにしろと言ったら、本気で居座ってしまった。
「私も帰る場所は御座いませぬ。どうか、この家に置いて下さい」
「・・馬鹿なの?」
思わず言った俺の言葉によって、しばし揉め返したが、結局のところ、行き場が無いというのは本当らしく、最終的にはユノンとデイジーまで一緒になって応援団になり、とうとう泣き落とされてしまった。
そういうわけで、
何しろ、
大きな建物になった。10の個室と2つの客間は2階に、1階と地下階にはダイニング、キッチン、リビング、食糧庫、調剤室、医務室、祈りの間、裁縫室、鍛冶場・・各人の要求を森の民の職人達が形にしてくれた。
「今日はどうします?」
ユノンが
まだ昼前だ。
「河岸に沿って北側を見に行こうか」
ここから北へ大河を
昨日は一日をかけて下流側を見に行った。巻き貝の魔物を退治したり、変わった水草を手に入れた。
ここのところ、連日のように5人で一緒に動き回っている。ユノンは誘って連れて行くけど、他の人は自由にして貰って良いんだけどな・・。
「谷に行くならお弁当を作りますね」
「うん、良いね」
ユノンと話しているところへ、
「コウタ殿、今日も出掛けるのですか?」
ロートリングがやって来た。
「上流を見回ろうかと・・」
言いかけて、俺は口を
(何か・・聞こえた?)
音の正体が気になって周囲へ視線を巡らせる。
その視線が空へと向けられた。
「鳥・・?」
指さす方向に、鳥のような飛影が幾つか浮かんで見えた。大河の向こうから・・方向からすると北部から飛来したのかもしれない。
「あれは竜騎士、センテイル王国の飛竜騎士団です」
デイジーが呻くように言った。500騎ほどの飛影が雲間を突き破るようにして次々に降下してくる。
「森を狙ってる?」
「・・
「えっ?・・火とか吐くんじゃないの?」
俺の中では、竜騎士というのは、
「それは
デイジーが呆れ顔で言った。
なんか、むかつく・・。
「通常は、地上の騎馬兵や歩兵との連携をとるのですが・・」
「・・神樹へ直接乗り込むつもりなのでは?」
ロートリングが切れの長い双眸を
「レーデウスにシンギウス・・あの2人って強そうだったけど?」
「はい。あの御方達が護る神樹は、あの程度の数ではどうにもなりません」
「ふうん・・」
ロートリングの声を聴きつつ、俺は飛竜騎士達に眼を凝らした。
(つまり・・爆撃機? ヘリコプター?)
矢が届かない上空から、油や毒を降らせて去って行くわけか。城攻めとかやったら強いだろうな。
「龍帝の領域には野生の
ロートリングが
「センテイルでは、戦闘時には
薬によって、龍種の本能を抑制しているかもしれないと・・デイジーが言う。
その時、
(おやぁ・・?)
妙な音が聞こえ始めた。
「ごろごろ?」
俺は、ユノンを振り返った。
「ごろごろ?」
ユノンが小さく首を傾げる。彼女には何も聞こえないのだ。
「ごろごろ?」
俺はデイジー、ロートリング、ウルフール・・と視線を巡らせた。
「・・ごろごろ?」
3人とも、俺が何を言い出したのか分からずに首を
直後、
ゴゴオォォォォォォォーーーーーーーー
遙かな高空で、思わず背を
(おぅ・・)
膨大な雷光の束が右から左へ、一瞬の輝きを残して、500騎の飛竜騎士を
すべての飛竜が煙をたなびかせて地上へ落ちていく。
「あいつ、デカいだけじゃないね」
俺は巨龍が居るだろう大空を振り仰いで呟いた。耳ほど眼が良くないので、はっきり見えないが・・。
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